「櫻の園」(1990年作品)感想 | 深層昭和帯

深層昭和帯

映画、ドラマ、アニメ、特撮など映像作品の感想を中心に書いています。

中原俊監督による日本のドラマ映画。出演は中島ひろ子、つみきみほ、宮澤美保。



<あらすじ>

桜華学園の創立記念日式典ではチェーホフの「櫻の園」が演劇部によって上演されるのが毎年恒例となっていた。演劇2年、舞台監督を務める城丸香織は朝早く部室に来ていたが、男と一緒だった。大事な日であるのに部長の志水由布子は派手なパーマを当てており、杉山紀子が喫煙で補導されたと噂が流れ、ゲネプロでミスを連発した倉田知世子は学校に来ていなかった。

前途多難はなおも続く。杉山のことで緊急の職員会議が開かれ、校長は演劇部による「櫻の園」の上演も中止にすべきだと主張していた。顧問の里美は泣いて反対。泣き顔のまま部室にやってきて上演すると生徒に念を押した。

衣装に着替え、出番を待つ生徒たち。しかしなかなか上演の許可は下りない。苛立つ倉田。そこに志水がやってきて、胸元が隠れるようにとブローチをプレゼントした。実は倉田は男役ばかりやってきており女役で胸が強調される衣装を着たことがなかったのだ。

倉田は、主役の女主人は部長の志水がやると思い込んでいた。科白が多く、不安で一杯だった。いまからでも中止にならないかと泣きそうな倉田を落ち着かせる志水。そしてふいに倉田に対しての想いを伝える。以前から志水は、凛とした佇まいの倉田を好きだったのだ。驚きながらも受け入れる倉田。

ふたりは想い出作りに並んで写真を撮る。劇中の女主人の科白を一緒に口にする倉田と志水。倉田は徐々に落ち着いてきて、不安が払拭されていった。

気の回る志水だったが、杉山の気持ちは理解してあげていなかった。杉山はずっと優等生らしく部を引っ張ってきた志水に憧れていたのだ。仲良く会話する声を壁越しに聞く杉山。

そこに城丸が走り込んできた。ようやく舞台の幕が開くのだった。志水、倉田、杉山の3年生は、舞台監督城丸の案内で講堂へと向かう。そして城丸が開演を告げるアナウンスを読み上げた。この日は志水の誕生日。杉山がそれを話すと、ハッピーバースデイが小さく歌われる。

そして志水が「行きます」と合図して、舞台に進み出るのだった。

<雑感>

この作品は配信で見る機会がなくて感想記事を後回しにしてきたが、邦画の中で一番好きな作品。中原俊の最高傑作じゃないかと思っている。セルフリメイクした作品はまだ見てない。見なくていいという話もあるが、配信されたらおそらく見るぞ。

原作は吉田秋生。微妙な心理描写と巧みな構成が素晴らしい作品だ。劇中で最後に演じられる戯曲「櫻の園」の作者は、アントン・チェーホフ。原作を知っていると志水の立ち位置がわかる仕掛けになっている。

学園は地方都市にあるらしく、東京に出るのが女子生徒たちの憧れ。部長の志水は桐朋に入学するのではと城丸に話を振られ、言葉を濁している。これが志水が小間使いドゥニャーシャを演じる伏線になっている。彼女は地元を離れて東京に行くのだ。

一方の倉田は地元で就職。これも女主人ラネーフスカヤを演じることと重なっている。そんな工夫にとんだ素晴らしい作品である。

また2年生で舞台監督を務める城丸は、志水が引退後に部長になることがやり取りの中で示唆されている。志水が「私も去年そうだったから」と城丸の話に応じていることから、2年で舞台監督をやった人物が次期部長だとわかるのである。

真面目だったのに突然反抗するかのように禁止されていたパーマをあてて顧問を慌てさせる志水と、部室にいきなり男を連れ込む城丸が対比関係になっている。学園は女子高なので、外部の年上の男を連れ込んでいるのだ。城丸の連れ込んだ男が忘れていったタバコが巡り巡って最後に城丸のところに戻ってくる仕掛けも見事だ。

背が高く当たり前のように男役をやっていた倉田役の白島靖代、真面目で誰からも頼りにされ、当たり前のように優等生を演じていた志水役の中島ひろ子、それとは正反対で奔放な性格の城丸役の宮澤美保、冷たい目をしているために壁を作られやすく、お嬢様学校より中学の時の仲間とつるむことが多い杉山役のつみきみほ。すべての配役が完璧な作品だった。

☆5.0。この作品に出演した女優さんたちは、いまでもずっと好きなままだ。アマゾンはさっさと中島ひろ子が出演した「女検事・霞夕子」の第18作「心の天使」を追加しろください。