「パプリカ」(2006年作品)感想 | 深層昭和帯

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映画、ドラマ、アニメ、特撮など映像作品の感想を中心に書いています。

今敏監督による日本のアニメ映画。原作は筒井康隆。音楽は平沢進。



<あらすじ>

千葉敦子は夢探偵パプリカとして活動していた。あるとき人と夢を共有する機械DCミニが盗まれた。悪用すればだれでも他人の夢をハッキング出来てしまう。敦子もまたこの装置でパプリカとして活動していた。彼女は夢をハッキングされていた研究所の所長を助け出した。

研究所はハッキングされ続け、研究は凍結されるが相手はお構いなしに研究所職員たちの夢への介入を続けた。事件を捜査する粉川警部も、夢に襲われるだけでは立件できないと半ば諦めていた。研究所に帰った敦子は、研究員の氷室が夢を見ていないことを知る。

何度覚醒しても夢の中にいる状態が続いた敦子だったが、粉川警部によって助けられた。粉川は事件の犯人を撃ち殺した。彼の夢はこれで完結して、敦子は夢の中から救い出された。

<雑感>

オレが美術監督の東地和生氏の名前を知った映画でもある。本作品では補佐を務めている。

内容に関しては非常に伝えづらいのだが、ざっくり説明すると、サイコセラピーに使う夢を視覚化して共有できる装置をホモが奪って悪用するのを少女気分が抜けない美人が救う話だ。

原作は言葉の羅列を追っているうちに夢の中に入り込んでいくかのような気分にさせられる実験的小説でありながら、筒井康隆の後期の作品中では最もエンターテインメントに徹した内容になっている。断筆宣言前の作品はどれも傑作ばかりであるが、「虚構船団」と「パプリカ」は比較的読みやすい。とくに「パプリカ」は感情移入しにくいものに感情移入させるという実験要素が薄いために一般人でも楽しめる作品になっている。

とはいうものの、まさかあの小説を映画にする人間がいるとは思えなかったので今敏がやるとなったときは驚いた。正直に告白すると、反対していた。なぜなら今敏には「東京ゴッドファーザーズ」よりさらに一般的な映画の方向を望んでいたからだ。

芸術に関してはもともとは実験的作品を好んでいたが、当時は深夜アニメが盛んで、オレはそれらが好きではなかったので宮崎駿的な活躍ができる有能なアニメ監督が世に出てくるのを望んでいた。今敏はその最右翼にいた。当時は転職して数年経ち、生活も落ち着いていたから「アニメもボチボチ気にしてみるか」という気持ちにさせられた。まぁそのあとすぐ今敏が死んでしまっていったん興味は薄れるのだが。

完成した映画はまさに傑作だった。ただ「PERFECT BLUE」のようにレイティングを気にせず思いっきり表現できていない気がする。今敏監督は周囲の期待も高かったので、あまり尖ったものより一般受けはそこはかとなく求められていたのだと思う。オレもそのひとり。期待を背負うだけの才能も彼には十分すぎるほどあった。

☆5.0。今敏が生きていたら、日本のアニメはもっとすごいことになっていた。それは間違いない。