「桃太郎 海の神兵」(1945年作品)感想 | 深層昭和帯

深層昭和帯

映画、ドラマ、アニメ、特撮など映像作品の感想を中心に書いています。

瀬尾光世監督による日本のアニメ映画。



<雑感>

戦前の戦意高揚映画で、八紘一宇の理想を子供たちに伝えるために海軍省が制作費を出して作られた作品。戦前、手塚治虫が鑑賞して感動を覚えた映画としても有名である。手塚ファンならタイトルを聞いたことがあるはず。

ストーリーは、桃太郎で表された日本人将校が、日本の仲間、アジアの仲間たちに助けられ、鍛え上げながら、アジアを白人による植民地支配から解放するというもので、実際に成功した作戦行動がモチーフになっているので怖ろしくリアルである。戦後民主主義者はまずもってこのリアルさに恐怖を覚えるはずだ。

戦後民主主義の呪縛から解放されている人や、洗脳が解け掛かっている人間は、この作品の中にある「戦時中であっても子供たちに夢のある作品を与えてやりたい」とする監督の意図を感じるはずである。美しい野山に遊ぶ動物たち(田舎から徴兵されてきた人々)が凛とした姿の兵隊さんになり、白人に支配されて苦しんでいるアジアの同胞の下に駆けつけ、落下傘部隊で敵基地を急襲、やっつける内容は実に爽快である。

それに、白人をことさら悪魔のように描いているわけではなく、大航海時代に(なぜか黒船になっている)突然やってきてアジア人を隷属化させた経緯は事実であるし、敵であるアングロサクソンの描写もおそらくは向こうの映画を参考に作っているはずで、描写に無理がない。

この作品もGHQはフィルムを燃やしてしまって、永久に失われたと思われていた。ところが偶然ネガが発見され、現在ではデジタル処理でかなり良い状態で保存されている。アマゾンで公開されているのはデジタル処理前のものなので、映像は悪いが、貴重な作品なので勉強のために観ておくのも悪くないはずだ。

☆5.0。落下傘部隊の降下シーンの美しさは感動もの。手塚はそういう美的な部分に惹かれたのだろう。軍の行為については批判的であったはずだ。

何せ軍のせいで食糧難を体験しているから、戦中派の手塚が軍の行為を肯定するわけがないのだ。