「ダーク・ブラッド」(2012年作品)感想 | 深層昭和帯

深層昭和帯

映画、ドラマ、アニメ、特撮など映像作品の感想を中心に書いています。

ジョルジュ・シュルイツァー監督によるヒューマンドラマ。主演はリヴァー・フェニックス。

 

 

彼の幻の遺作として没後20年の年に完成した。

冒頭で監督自ら語っているが、この作品は未完である。未完だから当然不十分なところがたくさんある。それでも権利関係を乗り越えて、リヴァー・フェニックスの死の直前の演技を後悔しようと決心してくれたジョルジュ・シュルイツァー監督には感謝しかない。

アメリカの先住民居住区を愛車のベントレーで見て回っていたハリーとパフィーの夫妻は、車の故障で立ち往生してしまい、居住地に住むボーイという男に助けられた。その場所は核実験の施設だったために、ボーイの妻は白血病で死んでしまっていた。

以後無気力に生きていたボーイは、そのむかしグラビアなどをやっていた美しいパフィーが気になっていった。アメリカは先住民に対して酷いことをしたと考える英国人のパフィーは、ボーイが醸し出す古い因習的なものに惹かれ、彼が自分に欲情していることを上手く使って接近していった。

これを快く思わなかったのが夫のハリーだった。ハリーはボーイが自分の妻を性的な目で見ることに耐えられず、何とかこの土地を去りたいと考え、脱走を試みるが、人里離れた砂漠であったために最後はベントレーの故障が直るまでボーイの好意にすがるしかなかった。

ボーイがあまりにもパフィーにのめり込み過ぎたと感じた夫妻は、彼を彼の家の小屋に閉じ込め、車を奪って逃走を試みた。だが砂漠の運転に慣れていないふたりは車をスタックさせ、追いかけてきたばーいと犬に逆に捕まってしまった。ボーイはパフィーを自分のものにしようとした。

これ以上の恥辱に耐えられなくなったハリーは、ボーイと口論になり斧を振り回した。若いボーイはそれをかわしてハリーを罵っていたが、小野はボーイの犬を殺し、ボーイにも当たってしまった。ボーイは頭を割られて気絶した。

そこに先住民居留地の人間が直したベントレーを運んできた。ボーイが死んでいるのを見た先住民たちは激怒したが、その前にボーイの死体と犬を彼らの風習に従って焼き払った。

ハリーとパフィーは彼らの言いなりになるしかない。先住民の中には保安官さえいたからだ。だが裁定を任された老人は、ふたりに車を返し、立ち去るように命じた。

という話。先住民に同情的な英国人が、先住民は天使でも聖者でもない普通の人間であること、敗北者だと侮っていても居留地では横暴であること、彼らが多数の場所では白人が容易に立場を逆転されてしまうことなど現実を目の当たりにする内容である。

その中でリヴァー・フェニックスが、神秘性と狂気を孕んだ先住民を演じて、作品のアクセントになっている。彼が性的に魅力ある若い男であることが、英国人の夫を狂わせていくのだ。ボーイにのめり込んでいくパフィーより、ハリーの狂気の方が揺れ幅が大きい。

大雑把に撮影が終わっていたのか、全体の流れに支障はない。だが一方で細かい演出がなされるべき部分が撮れておらず、仕方なく監督自身のナレーションで進行している部分が散見される。これを基って完成度が低いとするのはちょっと酷だ。リヴァー・フェニックスが死んじゃったんだから仕方がない。

狂気の演出がしっかりしていれば、ハリーが徐々に狂っていって最高潮に達したところで先住民が車を届けてくれるシーンに繋がったのに残念だ。

リヴァー・フェニックスのファンなので、個人的には☆5。ただし完成していない作品だと理解して観てほしい。