「ボヤージュ・オブ・タイム」(2016年作品)感想 | 深層昭和帯

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映画、ドラマ、アニメ、特撮など映像作品の感想を中心に書いています。

テレンス・マリック監督によるドキュメンタリー映画。ナレーターは前半がブラッド・ピット、後半がケイト・ブランシェット。吹替え版は全編中谷美紀。

 



前半は日々移ろいながらゆっくり大きく動いている自然をダイナミックな映像で撮り上げ、後半は生命の在り方を突き放した視線で撮影している。

多くのドキュメンタリーのように物語性を付与することはせず、自分の外の世界とそれを観察する個を完全に分けることで、観察者である人間個人がどこまで自然とアクセスできるか試されている作品といえる。自分の中に何かを持っていないと、ただのイメージ映像の羅列にしか見えない。

宇宙の中に浮かぶ小さな石粒の上で営まれる生命の連鎖にしっかり感情移入して畏怖する気持ちを持っていないと、後半の人間が生み出した巨大なるものがいかに矮小で一瞬の砂遊びにすぎないか理解できずにこの作品の面白さを体感できないまま終わってしまう。

誰にでもわかるようには作られていない。それはしょせんウソの世界でしかない。

よく感情移入できたとかできなかったと評論する際に言葉として使われるが、中身が空っぽの人間には感情移入できない、つまり理解できない世界や表現は確かにあるのだ。

もしこの映画を視聴して何の感情移入もできなかったのなら、それは自分を恥じるべきであって、「感情移入できなかったです」などとわざわざ恥を晒すのは好ましくない。

作品の特徴としては、ゆっくり時間をかけて視聴する者の個を世界から分離させていく構成が見事。当たり前のように生きている世界が悠久の時間のごく一瞬だと映像で伝え、個を刹那と印象付けした上で生命の営みの連続性が映し出される。

1時間ほどでこれだけのことをやっているから、都市文明が映し出されたときの果てしない虚無感へと繋がるのだ。人間を何か対象物に感情移入させてドラマのように構成するドキュメンタリーと全く違って演出された部分がないのに、鮮烈な映像と構成だけでこれだけのドラマを作り出す手腕は見事というほかない。

様々な種類の映画を楽しめる人ならば、観て損はない傑作ドキュメンタリーでした。