「39 刑法第三十九条」(1999年作品)感想 | 深層昭和帯

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森田芳光監督による裁判映画。主演は鈴木京香、堤真一。

 



妊娠中の妻と夫が惨殺されるという猟奇事件が起こった。犯人として逮捕されたのは柴田真樹(堤真一)という名の劇団員だった。彼は取り調べで「たぶん」を連発しながら「自分を死刑にしてくれ」と頼んだ。国選弁護人の長村時雨(樹木希林)にも同じことを話したが、彼は豹変して殺人鬼のような口ぶりで喋り出した。そこで長村は彼の精神鑑定を依頼した。

精神科教授の藤代実行は助手として小川香深(鈴木京香)を指名した。鑑定の結果は多重人格。検察もこれに乗り、不起訴を決めようとしていた。だが小川香深はこれに納得がいかず、柴田の詐病を疑っていた。まだ裁判を終わらせるわけにはいかなかった。

非協力的な検察をよそに、香深は独自に調査を開始した。被害者畑田の夫は以前同じように人を殺して精神病とされて不起訴になっていた。彼女は犬山へ出掛けて事件を精査した。すると検察の名越文雄(岸部一徳)も再捜査していると知って一緒について歩いた。

ふたりは畑田が殺した被害者の少女の兄である工藤啓輔と会った。工藤は事件のことをなんとも思わないと答え、すぐに帰ってくれといった。小川香深は柴田と面会を重ね、彼がウソをついていると確信して裁判でもそう証言した。弁護士は彼女の診断書に納得できなかった。

諦めきれない検察側は裁判長に直談判して法廷で精神鑑定するよう要求した。弁護人は反対したが柴田自身が了承したことで前代未聞の公開精神鑑定が決まった。

その席で小川香深は柴田を追い込んでもうひとつの人格なるものを出させ、それが彼女を殺さなかったこと、右手で武器を持ったことをもって詐病を改めて主張した。観念した柴田は自分を工藤啓輔だと認めた。これをもって裁判はやり直しとなった。

という話。裁判ものを続けて視聴したが、是枝監督のものと比べると脚本が弱い。

刑法第三十九条に疑念を表明した勇気ある作品だということで評価は高いが、映画としてはあまり面白くはない。とにかく全部すぐにわかってしまう。映画の中でネタバレがされてしまうので、最後にどんでん返しをする爽快感がまったくない。

刑法第三十九条が拡大解釈されすぎ、精神鑑定において被告人有利の鑑定をする精神科医が続出していた時代、この映画をきっかけに精神鑑定そのものを疑う人が増え、リベラル気取りで安易な鑑定を出しまくっていた医者が粛清されたのは非常に良かった。

だが、それと映画の感想は別だ。

脚本が雑で練られていない。回想でネタバレを入れるのは興覚めが過ぎるというものだ。それに無駄なイメージ映像が多すぎた。ダレるだけでほとんど効果を伴っていない。キャラの造形も酷くて、岸部一徳をガムばかり噛んでるキャラにする必要性がない。

そういうわけで、政治的効果は大きかったが映画的にはあまり出来はよろしくない。高評価をしている人は政治的な人々及び役者のファンだろう。抑制の利いた演技は素晴らしかったと思う。

オレも刑法第三十九条の乱用には反対であるが、出来の悪い映画を見せられることにも断固として反対する!