「気合いを制すること」ー勝海舟 | 明日通信

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「気合いを制すること」―勝海舟

   (勝海舟・勝部真長編「氷川清話」より 角川文庫)

 

〇 全体なにごとによらず気合いということが大切だ。この呼吸さえよく呑み込んでおれば、たとえ死生の間に出入りしても、けっして迷うことはない。しかしこれは単に文字の学問ではできない。王陽明のいわゆる事上練磨、すなわち、しばしば万死一生の困難を経て始めてわかる。戦争などは、何よりよい練磨だ。

〇 この気合いを制するということはえらいもので、例えば関ケ原の戦争をごらん。(石田)三成もなかなかの豪物(えらぶつ)で、島(左近)という参謀が控えており、その上、将校にも東軍に譲らないほどの豪傑がそろっておった。それでついに勝たなかったというのは、つまり家康にその気合いを制せられて、頭からのみこまれてしまっていたからである。

〇 また明智左馬之介という男は実にえらい人物で、本能寺の変のとき、さすがの(明智)光秀も最初はいくら遅疑逡巡(ちぎしゅんじゅん)するところがあって、腹心のもの二、三を集めて評議をした。すると左馬之介は、「評議も何もない。明日すぐにやるがよい」といった。この一言で光秀も直ちに決心したのだが、時の英雄信長が光秀にやられたのも、ただこの決断の力だ。(原文ママ)