13.勝海舟「無用意と根気」 | 明日通信

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勝海舟「氷川清話」


【無用意と根気】

■ (それからまた)、世に処するには、どんな難事に出会っても臆病ではいけない。‘さあなにほどでも来

  い。おれの身体が、ねじれるならば、ねじってみろ‘という料簡で事をさばいてゆくときは、難時が到来

  すればするほどおもしろ味がついてきて、物事は造作もなく落着してしまうものだ。

   なんでも大胆に、無用意に、打ちかからなければいけない。どうしようか、こうしようか、と思案してか

  かる日にはもういけない。むずかしかろうが、やさしかろうが、そんなことは考えずに、いわゆる無我と

  いう心境に入って、無用意で打ちかかって行くのだ。

   もし成功しなければ、成功するところまで働き続けて、けっして間断があってはいけない。世の中の

  人は、たいてい事業の成功するまでに、はや根気が尽きて疲れてしまうから大事ができないのだ。

   根気が強ければ、敵もついには閉口して、味方になってしまうものだ。確固たる方針をたて、決然た

  る自信によって、知己を千載のもとに求める覚悟で進んで行けば、いつかは、わが赤心の貫徹する機

  会がきて、従来敵視していた人の中にも、互いに肝胆を吐露しあうほどの知己ができるものだ。区々

  たる世間の毀誉褒貶を気にかけるようでは、とうていしかたがない。


■ そこへいくと、西郷などは、どれほど大きかったかわからない。高輪の一談判で、おれの意見を通じて

  くれたのみならず、江戸鎮撫の大任までを一切おれに任せておいて少しも疑わない。

   そのほかのむずかしい事件でも持ち上がると、すぐにおれの処へまかせかけて、「勝さんが万事くわ

  しいから、よろしく頼みます」などと澄ましこんで、昨日まで敵味方であったという考えは、どこかへ忘れ

  てしまったようだ。その度胸の大きいには、おれもほとほと感心したよ。あんな人物に出会うと、たいて

  いなものが知らずしらずその人に使われてしまうものだ。小刀細工や、口先の小理屈では、世の中は

  どうしても承知しない。


      参考・松下幸之助さんの語録に「成功とは成功するまでやることだ」と同じものがある。