この記事についてaiに評価してもらいました
部下から「実は相談がありまして……」と切り出されたとき、多くの上司は「早く問題を解決してあげなければ」と考える。そして、自分の経験をもとに、「それならこうすればいい」と助言を始める。
しかし、その親身なアドバイスが、かえって部下の心を閉ざしてしまうことがある。
元記事では、その理由を「安心感が足りないから」「共感が足りないから」と説明している。確かに、安心感や共感は重要である。しかし、この説明だけでは、なぜアドバイスが逆効果になるのかという構造までは説明できていない。
本当の問題は、安心感そのものではない。相談という行為を構造的に捉えられていないことなのである。
相談とは何か
例えば、部下が次のように相談してきたとする。
「提案書を何度出しても、お客様に採用されません。」
このとき部下の頭の中には、さまざまな考えが存在している。
「提案書の内容が悪いのだろうか。」
「価格が高いのだろうか。」
「ヒアリングが足りなかったのだろうか。」
「競合の提案が優れていたのだろうか。」
「決裁者に提案できていなかったのだろうか。」
部下は、このような複数の可能性を考えている。しかし、自分だけではどの可能性が正しいのか判断できなくなっている。
我々は、このような「何をすれば目的が実現するのか」「なぜ現在の状態になっているのか」といった主体が持つ認識の集合を、成立仮説ネットワークと呼んでいる。
相談とは、単に悩みを打ち明ける行為ではない。
主体は、自らの成立仮説ネットワークだけでは目的の実現可能性を十分に評価・更新・経路探索できないと認識したとき、他者との相互作用という行動を選択する。
つまり相談とは、自分だけでは十分に扱えなくなった成立仮説ネットワークを、他者との相互作用によって整理していく過程なのである。
相談を受ける側は何をしているのか
このように考えると、相談を受ける側の役割も変わる。
多くの人は、相談を受けると「良い答えを教えること」が仕事だと思っている。
しかし、本来の役割は違う。
相談を受ける側は、相談者の成立仮説ネットワークを扱い、その認識を目的の実現に近づける役割を担っている。
そのために行うのが、成立仮説ネットワークに対する四つの操作である。
一つ目は、復元である。
復元とは、相談者が現在どのような成立仮説を持っているのかを明らかにする操作である。
「これまで何を試したのか。」
「なぜそう考えたのか。」
「相手は何と言っていたのか。」
このような質問をするのは、相談者の頭の中を理解するためではない。成立仮説ネットワークを復元するためである。
二つ目は、評価である。
復元した成立仮説が、事実や状況と整合しているかを確かめる。
例えば、「価格が高い」と考えていても、実際には競合より安いかもしれない。
「提案内容が悪い」と思っていても、顧客は内容ではなく導入時期を気にしていたのかもしれない。
その仮説は、本当に妥当なのかを検証するのである。
三つ目は、更新である。
評価の結果、誤っている認識や不足している認識があれば修正する。
「価格ではなく決裁者が違っていた。」
「提案内容ではなく、顧客の課題を把握できていなかった。」
このように成立仮説を書き換えるのである。
四つ目は、経路提案である。
更新された成立仮説をもとに、
「次回は決裁者にも同席してもらおう。」
「最初に顧客の課題を確認してから提案しよう。」
というように、目的を実現するための新しい行動を提案する。
つまり、相談を受ける側は、相談者の成立仮説ネットワークに対して、復元・評価・更新・経路提案という四つの操作を行っているのである。
なぜアドバイスが逆効果になるのか
ここまで整理すると、多くの上司が失敗する理由も見えてくる。
部下がまだ原因を整理できていない段階で、
「もっと熱意を伝えたほうがいい。」
「訪問回数を増やしたほうがいい。」
と助言してしまう。
しかし、それは「熱意不足」や「訪問不足」という一つの成立仮説だけを、上司が正しいと決めつけているにすぎない。
実際には、原因はヒアリング不足かもしれない。
競合との差別化ができていなかったのかもしれない。
提案相手が決裁者ではなかったのかもしれない。
顧客側の事情が変わっていたのかもしれない。
つまり、相談者の成立仮説を十分に復元し、評価する前に、更新や経路提案という後半の操作だけを始めてしまっているのである。
だから部下は、「話を聞いてもらえなかった」と感じる。
親身なアドバイスが逆効果になるのは、アドバイスそのものが悪いからではない。
成立仮説ネットワークを扱う順番を間違えているからなのである。
共感は目的ではない
元記事では、「まず共感すること」が重要だと述べられている。
しかし、共感そのものが目的なのではない。
相談者の成立仮説ネットワークを復元するためには、相談者が現在持っている認識を安心して話せる状態が必要になる。
そのために共感がある。
そのために安心感がある。
つまり、共感も安心感も、成立仮説ネットワークを正しく復元するための条件なのである。
この位置付けを誤ると、「まず共感しましょう」「最後まで話を聴きましょう」という精神論になってしまう。
しかし、相談の内容によって必要な操作は異なる。
情報が不足しているなら情報を補えばよい。
認識が誤っているなら更新すればよい。
判断基準が曖昧なら評価すればよい。
役割が曖昧なら整理すればよい。
重要なのは、「共感したかどうか」ではない。
相談者がどのような成立仮説を持ち、そのどこで行き詰まっているのかを見極め、それに応じた操作を選択することである。
上司の役割とは何か
元記事は、「相手が受け取りやすいボールを投げよう」というキャッチボールの比喩で締めくくられている。
しかし、本質はボールの投げ方ではない。
相談とは、成立仮説ネットワークを共同で扱う営みである。
だから、上司の役割は、最初から答えを与えることではない。
部下の成立仮説ネットワークを推定し、まず復元し、評価し、必要に応じて更新し、最後に経路を提案する。
親身なアドバイスが逆効果になるのは、アドバイスをしたからではない。
部下の成立仮説ネットワークを十分に扱わないまま、いきなり経路提案という最後の操作だけを始めてしまうからである。
上司の役割とは、答えを知っている人ではない。
部下の成立仮説ネットワークを推定し、その状態に応じて適切な操作を選択する主体なのである。
