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「部下の本音を引き出すには、まず相手に寄り添い、安心感を与えることが重要である。」
このような考え方は、多くのマネジメント論で紹介されている。その代表例が「ペーシング」である。ペーシングとは、相手の話す速さや声の大きさ、言葉遣い、姿勢、表情などを意識的に相手に合わせ、「自分を理解してくれている」と感じてもらいやすくするコミュニケーション技法である。
実際、ペーシングによって相手が話しやすい雰囲気をつくれる場面はあるだろう。
しかし、この説明だけでは、「なぜ部下は本音を話さないのか」、そして「本音を聞いた後に管理職は何をすべきなのか」という最も重要な部分までは説明できていない。
元の記事は、
ペーシングを行う。
↓
安心感が生まれる。
↓
本音を話す。
↓
課題解決につながる。
というように、「ある状態が成立すると、次の状態が成立する」という考え方を前提としている。本稿では、このような考え方を成立仮説と呼ぶ。
しかし、本当にこれだけで部下との対話は説明できるのだろうか。
■本音が出ない理由は一つではない
では、本音が出ない理由は、どのように考えればよいのだろうか。
本音を話すことも、部下が行う一つの行動である。
そこで本稿では、行動がどのような条件で生まれるのかを説明する行動生成式を用いる。
行動 = 機会 × f(想起 × 理解 × 納得 × 実行可能 × 評価期待)
想起 = 今この場で相談すべきだと思い出せるか。
理解 = 何を、どこまで話せばよいか分かるか。
納得 = 話す必要性や意味を受け入れているか。
実行可能 = 話す時間や機会があるか。
評価期待 = 話した結果として良い結果が返ると思えるか。
つまり、本音が出ない理由は一つではない。
相談しても何も変わらないと思っているのか。
どこまで話してよいか分からないのか。
話す必要性を感じていないのか。
忙しくて相談する時間がないのか。
話すことで評価が下がると思っているのか。
成立していない変数によって、本音を話さない理由は変わる。
そのため、「安心感が生まれれば本音を話す」という成立仮説だけでは、本音が出ない理由を十分に説明できているとは言えない。
■本音を聞くことが目的ではない
さらに重要なのは、本音を聞くこと自体が管理職の目的ではないことである。
仮に部下が本音を話してくれたとしても、それだけでは問題は何も解決していない。
例えば、「仕事が進みません」という本音が聞けたとする。
しかし、その一言だけでは原因は分からない。
優先順位が曖昧なのか。
必要な情報が不足しているのか。
権限がなく判断できないのか。
他部署への依頼が止まっているのか。
失敗を恐れて行動できないのか。
同じ「進まない」という状態でも、その成立を阻害している制約は全く異なる。
だから管理職が知るべきなのは、本音そのものではない。
部下が実現したい状態は何か。
その状態の成立を阻害している制約は何か。
この二つである。
本音は、その制約を発見するための情報にすぎない。
■管理職の仕事は、本音の先にある
本音が聞けた。
しかし、それで管理職の仕事が終わるわけではない。
重要なのは、制約を認識し、それを処理することである。
必要な情報を集める。
他部署と調整する。
優先順位を決める。
権限を与える。
判断基準を明確にする。
どの制約が存在し、誰が処理すべきなのかを判断しなければ、部下が実現したい状態は成立しない。
リーダーとは、他者が実現したい状態の成立条件を阻害している制約を認識し、それを処理する主体なのである。
■ペーシングは管理職の仕事の一部に過ぎない
ペーシングを否定する必要はない。
相手が話しやすい雰囲気をつくり、本音を引き出しやすくする効果はあるだろう。
しかし、それは管理職の仕事そのものではない。
本音を聞くことも目的ではない。
ペーシングは、部下が抱えている制約を発見するための情報収集を行いやすくする手段の一つにすぎない。
管理職に求められるのは、本音を聞く技術ではない。
本音から部下が実現したい状態を理解し、その成立を阻害している制約を発見し、それを処理できることである。
そこまでできて初めて、部下との対話は課題解決につながるのである。
