この記事についてaiに評価してもらいました
「AIと長く対話していると、本音を漏らすようになる」
最近、このような話を耳にすることが増えた。
たしかにAIを使い込んでいると、最初は出てこなかった回答が後から出てくることがある。「どう聞いてほしかったのか」と尋ねると、より良いプロンプトの形を教えてくれることもある。
この記事でも、その現象を「AIが本音を漏らした」と表現し、その延長線上で「優秀な部下の能力を引き出す方法」との共通性を論じている。
しかし、この説明には注意が必要である。
問題は人格化そのものではない。問題は、異なる現象を「本音」という言葉でひとまとめにしてしまっていることである。
■AIが漏らしているのは本音なのか
まず整理しなければならないのは、AIには本音が存在しないということである。
AIは人間のように、本当はこう思っている、言いたいことを我慢している、本心を隠しているという状態を持っていない。
長い対話の中で回答が変わるのも、本音が出てきたからではない。
会話履歴が増えたことで文脈が変化し、その結果として出力が変わっただけである。
では、石井氏が観察した現象は何なのか。
それは、「どのような入力が与えられれば良い出力を返せるのか」という成立条件の開示である。
たとえば、「どう聞いてほしかった?」と尋ねれば、「こういう情報があると回答しやすいです」「こういう形式で依頼されると精度が上がります」という説明が返ってくる。
これは本音ではない。
成果が成立する条件の説明である。
■本当に共通しているのは「成立条件」である
記事では、
AIが本音を漏らす
↓
優秀な部下も本音を持っている
↓
だから能力を引き出すには本音を聞けばよい
という方向へ議論が進んでいる。
しかし、本当に共通しているのは本音ではない。
共通しているのは成立条件である。
たとえば優秀な部下に、
「どう指示されたら最高の成果を出せる?」
と聞く。
すると、
背景を説明してほしい
判断基準を共有してほしい
目的だけ示してほしい
途中経過のレビュー機会がほしい
などの答えが返ってくる。
これも本音ではない。
高い成果が成立する条件の説明である。
つまり、
AIの本音
部下の本音
という説明よりも、
AIの成立条件
部下の成立条件
と捉えたほうが本質に近い。
■なぜ成立条件が重要なのか
そもそも人の行動は、能力だけでは決まらない。
行動は、
行動 = 機会 × f(想起 × 理解 × 納得 × 実行可能 × 評価期待)
によって生まれる。
想起 = その場面で行動を思い出せるか。
理解 = 何をすればよいか分かるか。
納得 = その行動の必要性を受け入れているか。
実行可能 = 実際に実行できる状態か。
評価期待 = 行動した結果として良い結果が返ると思えるか。
どれだけ能力が高い人であっても、これらの条件が崩れれば行動は生まれない。
優秀な部下の能力を引き出すという話も、本質的にはこれらの成立条件を整える話なのである。
■「自由にすれば能力を発揮する」は単純化しすぎている
記事では、優秀な部下に細かい指示を与える上司を批判している。
この指摘には一定の妥当性がある。
しかし、
指示が悪い
自由が良い
という二項対立にしてしまうと現実を説明できない。
たとえば、
「好きにやっていいよ」
と言われたとする。
一見すると自由であり、能力を発揮しやすそうに見える。
しかし、
何を目指せばいいか分からない。
理解が崩れる。
責任範囲が曖昧になる。
実行可能が崩れる。
何をやれば評価されるのか分からない。
評価期待が崩れる。
という状態になれば、行動は生まれない。
逆に優秀な人ほど、
何を実現したいのか
何が制約なのか
何を評価するのか
が共有されれば、自分で方法を考えられる。
問題は指示の有無ではない。
成立条件の設計なのである。
■オリエンテーションという言葉の曖昧さ
記事後半では、
ディレクションではなくオリエンテーションが大事
という議論が出てくる。
しかし、この説明だけでは何を意味しているのか曖昧である。
実際に起きていることを整理すると、
目的だけ共有するのか
制約条件まで共有するのか
手段まで指定するのか
という設計の違いである。
たとえば、
「売上を伸ばしてほしい」
は制約が少ない。
「この手順でこの資料を作ってほしい」
は制約が多い。
優秀な人ほど制約を減らしたほうが能力を発揮しやすい。
一方で経験の浅い人は制約が少なすぎると動けなくなる。
つまり重要なのはオリエンテーションという言葉ではなく、相手に応じてどこまで未確定状態を残すかなのである。
■問いが重要なのではなく、未確定状態の設計が重要
記事は最終的に、
答えではなく問いを与える
という結論へ向かう。
しかし、ここでも本質は問いそのものではない。
本質は、どの部分を相手に考えさせるかである。
たとえば、
「新規顧客を増やす方法を考えてほしい」
という依頼は未確定状態が大きい。
一方で、
「SNS広告を出してほしい」
という依頼は未確定状態が小さい。
熟練者なら前者のほうが能力を発揮できる。
新人なら後者のほうが成果を出しやすい。
つまり、問いを与えれば能力が引き出されるのではない。
相手が扱える範囲の未確定状態を残したときに、能力が発揮されるのである。
■本質は「本音」ではなく「成立条件の設計」である
この記事は非常に面白い観察から出発している。
しかし、
AIの本音
部下の本音
問いを与える
オリエンテーション
という言葉で説明してしまった結果、因果構造が見えにくくなっている。
実際に起きていることはもっとシンプルである。
AIにも部下にも、成果が成立する条件がある。
その条件を理解せずに成果だけを求めても能力は発揮されない。
逆に、どのような条件なら高い成果が生まれるのかを理解できれば、AIも部下も能力を発揮しやすくなる。
つまり重要なのは、本音を引き出すことではない。
成立条件を理解し、それを設計することである。
記事は「本音」という魅力的な言葉で説明しているが、本質は「成立条件の開示と設計」の話として読み直したほうが理解しやすいのである。
