ささいな行為論(1) | 名古屋市の相続・シニア問題に強い弁護士のブログ|愛知県

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三省堂大辞林によると、ささい〔些細・瑣細〕(形動)とるにたりないさま。わずかなさま。「ささいな違い」、「ささいなこと」とあります。

 私は、2007年10月13日(土)の中日新聞朝刊5面の社説『赤福偽装』を読んで驚くとともに、企業の危機対応とコンプライアンスについて考えさせられました。

 上記社説は、前日12日(金)の夕刊で、農水省が和菓子の老舗「赤福」に対して行政指導を行ったことを受けたものでありました。中日新聞の紙面によると、12日(金)夕刊では、①いったん製造した「赤福餅」のうち、販売店に出荷しなかった商品を冷凍。その後、解凍・再包装してその日を新たな製造年月日として表示し直して出荷する行為を長期にわたり日常的に行っていた。同社は、「出荷の調整のためにこうした方法を取っていた」と説明した(13日(土)朝刊では、「欠品を出さないよう需給調整の意味があった」と釈明した)。②原材料表示については重量順に「砂糖、小豆、もち米」と表示すべきところを、「小豆、もち米、砂糖」と表示していた。

 13日(土)朝刊では、①のみ取り上げ、工場で製造し未出荷の商品と配送後に残った商品を、即日冷凍し休日に解凍して再包装しその日を新たな製造年月日と表示し直して出荷したことを報道し、②については全く報道から欠落し、その後もふれられませんでした。

 ②について、日経新聞13日朝刊は、原材料表示の際にも原材料の重量順に「砂糖・小豆・もち米」と表示すべきところを、実際には砂糖が半分以上であるにもかかわらず「小豆・もち米・砂糖」と表示していたことについては、(同社は)「赤福は小豆のイメージが強いので、(小豆を)一番先に表示していた」と話したと報道。日経新聞も同日の夕刊から②の問題にはふれていませんでした。そして、中日新聞の同14日(日)朝刊39面(社会)では、「解凍日は製造日」、「業界の常識」と業務用冷蔵、冷凍庫販売業者の指摘を引用して、「作ったものをすぐに冷凍すればそこで時間が止まり、数ヶ月間は作り立てと同じ品質が保てる。それを解凍した時点を製造年月日としても、品質的には問題ないはずだ」、「今の冷凍技術が反映されていない」と農水省の判断に疑問を投げかけると報道しました。

 この一連の流れの中で、中日新聞10月13日(土)朝刊の社説は、「赤福」の偽装表示を『わずかな表示のごまかし』という言葉で表現し、『「赤福」…「明浄正直(せいちょく)」。神道の考え方の基盤となる四文字だ。伊勢神宮の「おかげ」で、ここまで育った老舗である。…「赤心慶福」の精神は…。「明浄正直」の原点に立ち直り、食の業界一丸となって、不信の連鎖を断ち切る姿勢を見せてほしい。』と老舗「赤福」にエールを送って社説を終えています。

 私は、この社説に強い違和感を覚えました。そして、「ささいな行為」という言葉が私の頭によぎりました。この社説は、「赤福」の虚偽表示を『わずかな表示のごまかし』という表現でとらえています。この社説を食品の虚偽表示は、「ささいな行為」であるとの論旨であるととらえたのは、私だけでしょうか。そして、地元の圧倒的影響をほこる中日新聞のこの社説の展開と報道内容が、②を欠落し、①のみで終わる状勢であったことから、「赤福」の危機対応は、「赤福」のあたかも完勝で終わりそうでした。

 「赤福」は、地元の有力企業であり、この地方での強い影響力を持つ中日新聞と親密な関係にあることは容易に想像されるところです。私は、この報道に接して、「赤福」が一番恐れていたことは、②の成分表示の偽装であると考えました。これは、商品の品質-その水準を偽るものです。

 JAS法は、「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」の略称です。私はこの略称がよくないと考えます。「JAS法違反」と言っても意味が不明確だからです。私は、端的に「品質表示適正化法」とでも称した方が意味の認識がされ、「品質表示適正化法」違反の方が行為の意味が明確になります。

 JAS法は、加工食品について「食品添加物以外の原材料は、原材料に占める重量の割合が多いものから順に、その最も一般的な名称をもって記載すること」、「原材料に占める重量の割合が5%未満のときは、記載を省略することができる」と規定しています。

 これは、食品の品質を適正に表示させようと規定されたものですが、「重量の割合が多いものから順に表示すること」で足りることと「5%未満のときは記載を省略することができる」ことに批判があります。消費者保護の観点からは、「重量の割合が多いものから順に重量に占める割合(%)を記載すること」、「5%未満のときは、その原材料名を表示する」ことが望まれますが、食品加工及び販売業界の抵抗からか未だに実現できていません。

 ところで、行為が1人の単独でなく複数の者でされた場合、「ある事実」を「なかったことにする」ことは困難です。まして、企業で多数の従業員が関与して組織的に行われた行為を「なかったことにする」ことは、非常に難しく、通常できないことと考えてよい。

 老舗「赤福」が否定した売れ残り商品を再出荷した事実、及び、売れ残り商品の餅とあんを分離して、餅とあんをそれぞれ再利用した事実などが、その後次々と露見していき、社長が記者会見で説明していた内容は、全くのうそであったことが次々と明らかとなり、その危機対応の拙劣さとコンプライアンス(法令遵守を意味する語。特に企業活動におけるそれを意味する。)の意識の欠如をさらけ出す結末でありました。



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