いよいよ今週に迫りました | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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そういう訳でいよいよ
今週末くらいからこちらが
店頭に並ぶかと思います。



2016年秋。アルツハイマーの80歳老人が
CDデビューを果たしたというニュースが
世界中を駆けめぐった。

テッド・マクダーモットが
アルツハイマー病と
診断されたのはその3年前。

陽気だった性格は
一転して怒りっぽくなり、
昼夜問わず妻に当たり散らしては

ガラクタを庭に集め、
いつしか実の息子のことさえ忘れ、
症状は悪化の一途をたどるばかり。

そんな出口の見えない日々に
一筋の光をくれたのは、
幼い頃からテッドが愛した“歌"だった――。

息子サイモンが綴った、
すべての人に届けたい
魂のノンフィクション。



以上、宣伝分の転載でした。

とまあ、こんな感じで
版元様より各方面には
御紹介していただいておるようです。

また、車に並んだ二人の男性が
ナット・キング・コールの
「L.O.V.E.」を歌っている映像が今

SOMPOホールディングさんの
CMで流れていますけれど、

あれがこのお二方になります。

たぶんそれよりも以前、
それこそCDの発売前後の時期には

フジの『アンビリーバボー』にも
取り上げられていまして、

たまたま僕もこの回は
なんとなく見ていたもので、

だから最初お話を頂戴した時は、
そんな偶然にも
ちょっとびっくりさせられました。

いや、正直それほど
観ている番組でもなかったもので。


しかし不思議な手触りの本でした。

一冊の前半と後半で
かなり感触が違っているのです。

前半はほぼ丸々、このテッドの
半生記となっています。

大戦前の生まれですので、
幼少期には
英国本土への空襲なども
経験しているようですし、

しかもこの方、
兄弟総勢十四人という大家族の
その長男なもので、

なんとも貧しくも騒々しい
家の様子が浮かんで来ます。

子供ながらに弟妹たちの
日々の食べものを気にかける
本人の姿もまたヴィヴィッドです。

やがて六〇年代から
七〇年代にかけての時代に入ると、

バンドなりあるいは
遊園地みたいな場所の職員として
舞台に立ってみたりと、

音楽/歌に関わることを
絶対に止めようとしない
スタンスを貫きながら、

少しずつ年齢を重ねていく様子が
展開していきます。

この辺り、普通の人生とは
一概に言えない部分があって
本当に小説のように読めました。

とりわけスターライナーズなるバンドに
本人が加入する経緯や

そこから起きる化学反応と、
昇り調子に人気が上がっていく様、

そしてそれが、ほんの少しの
ボタンの掛け違いのようなもので
一気に瓦解していってしまう辺りなど

非常にドラマチックです。

ちなみにこのバンド、練習場所ではよく
あのノディ・ホルダーと
顔を合わせたりもしていたそうで。

何か展開が少しでも違っていたら
今頃このバンドのCDも

僕のコレクションに入っていたのかも
しれないなあとは
ちょっとだけ思いました。

ほら、何せイギリスびいきなもので。

さて、結局彼は、
妻と出会って子供が出来て、

振り返ればこの時に、
一旦は夢を諦める形に
なったのだろうと思います。



そしてたちまち数十年が過ぎ、
後半は次第におかしくなっていく
父親の姿が描写されることになります。

一時間に何度も同じことを
尋ねてくるといった辺りから始まり、

庭にできあがるガラクタの山とか
車の逆走とか、
高層レストランで叫び出したりとか、

そういったエピソードが
当事者の言葉で語られていきます。

介護の記録と、
まあそう呼ぶしかない。

非常に興味深いなと思ったのは、
前半に記されている
本人の前半生が頭に入っていることで、

なんとなくその
病気の発露の仕方に、

見えない理屈が働いているような
そんな気がしてくることでした。

一番わかりやすいのは、
ガラクタを庭に集める理由で、

これは貧しい大家族に育ったせいで
道端の小銭をいつも
探しているような、

そういう子供時代を送っていたことの、
どうやら残照であるようなのです。

奥さんが大好きだからこそ、
それが浮気していると
何故だか一旦思い込んでしまうと、

烈火のごとく怒って止まらなくなる。

もちろんすでに本人の頭の中では
ちゃんとしたロジックなど
組み上げられることもない訳ですし、

それにもう、常識すら通用しない
別人のような行動を取る場面もあります。


また、息子さんというか
著者本人も、
ある種親への負い目があって、

両者のその葛藤も
実は一切の背後に

影を落としているのかなとも
考えさせられました。

いや、まあ少し
書き過ぎたかもしれませんが。

読んでのお楽しみを
削がない程度には
抑えたつもりなんですけれど。



いずれにせよ御縁があって
本書を日本語で紹介する役割を

担わせていただけたことは
大変光栄に思っています。

文章もかなり丁寧に
担当さんと一緒に洗いました。

読書のおとものBGMは
それこそテディ・マック本人の
「SONGAMINUTEMAN」なるアルバムか

あるいはシナトラ辺りが
おすすめかと思います。

エルヴィスの名前も
ほんのちょっとだけ出てきますが、
とにかく時代的にはあの辺り。

あとMack the Knifeは
あった方がいいかなあ。

そうそう上の
「SONGAMINUTEMAN」というのが
本書の原題になります。


それからまあ、
今回初版はあまり刷りませんので、

もしそちらの入手をご希望の方は
早めの確保を
お勧めしておいた方がいいのかなと
ちょっとだけ思いました。


さらについでに、
前々回の更新で御紹介したこちらの本も、
改めて書影載っけてしておきます。


本国イギリスではなお
売れ続けているようでございます。

さすがにトップ5からは
落ちてしまったようですが。


以前(→こちら)御紹介したように
基本はいわゆる
ビルドゥングスロマンの
一変形というのが根幹なのですが、

同時にサスペンスとしても
読めてしまうという

こちらもまたなかなかに
めずらしい作品ではないかと思います。

何よりするする読めます。

もしお目に留まりましたら。