ブログラジオ ♯140 Good Stuff | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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では米国産ニュー・ウェイヴの
第二弾はこちら。

The B-52’sなるグループである。

Time Capsule: Greatest Hits (Rpkg)/B-52's

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ビー・フィフティートゥーズと
いう読み方で通じるはずだが、


個人的には唯一無二の形容は、
この人たちにこそ

まさに相応しいのではないか
くらいにまで思っている。


それからなお今回も
バンド名の表記については


カナだと一々長いので、
欧文のままで

行かせていただくことに
決め込んでいるので念のため。


さらについでながら現在は、
この(’)が要らないのが
正式な表記になるのだそうで。


でもなんとなく、
あるのに慣れ親しんでいるもので、

こちらもそのままにして
しまっていることも付記しておく。



さて、いやでも実のところ
この方々の音楽については、


なかなか真正面から
他人には勧めにくい
種類のものだったりする。

なんといおうかこのB-52’sの
レコードというのはなべて、


ノリを楽しむといった、
生易しいレベルなど
すっかり遙か彼方まで通り越し、


太陽系でたとえるならば、
それこそ冥王星か海王星かと

いったようなくらいの位置まで、
手が届いてしまっているのである。



彼らのサウンドの楽しみ方は
極めて個性的な
ヴォーカル・チーム三人の


弾けっぷりとでもいおうか、
とにかく他の人たちには
絶対に真似のできない種類の、

ほとんど尋常ならざる
イカレ具合みたいなものを、


ひたすら味わうと
いったような部分に尽きるのである。


なお、厳密にいうと一時期
このフロント・メンバーが

二人になってしまった時代も
実は数年だがあるにはあって、


そして今回のチョイスである
Good Stuffなるトラックは


その時期の録音で
あったりもするのだが、

まあいずれにせよ
このB-52’sなるバンド、


とにかく他には見つかってこない、
そういうスタイルを


デビュー以来ぶれることなく
見事に貫いているといっていい。

貴重というか
希有な存在であることは、
疑いを差し挟む余地はない。



さて、その三人のうちの
まず一人目は男性で、


メインといってしまうと
ちょっと語弊があるのだが、

これがフレッド・シュナイダーなる
ちょっと野太い声の
いかれた感じのシンガーである。


歌い方、やること、
一々芝居がかっているのである。


一方残りの二人は
どちらも女性シンガーで、
ケイトとシンディーというのだけれど、

この二人が二人とも
ほとんど金切声みたいな、
甲高い声質の持ち主である。


こういう三人が、
絡み合うというか、
交代でリードを取りながら、


トラックが進んで行くとでも
いった感じが、
おおよそのところ
基本のスタイルだったりする。

メイン・ヴォーカルが
男性一人に女性二人といえば、


テクノ・ポップの
ヒューマン・リーグ(♯46)や


あるいは英米混成の
F.ウッドマック(♯47)辺りが

些か無理矢理ではあるが
挙げれば挙げられるかとも
思わないでもないけれど、


このB-52’sのサウンドは
上のどちらの手触りとも
まるで似ていないといっていい。


鍵盤が大きな役割を
果たしているところは、

ヒューマン・リーグの方になら
多少通じている部分が
ないではないかもしれないけれど、


でもやっぱり
まったく手触りが異なっている。


少なくともテクノ・ポップという
言葉は全然似合って響かない。

ではどういうサウンドか。

これがまた、
表現するのが至極難しいのである。


パンクではたぶんないけれど、
非常にパンキッシュだとは
いってしまっていいかと思う。

世界一のパーティー・バンド
みたいなコピーで


彼らを形容しているのを
目にすることがたびたびあるが、


大体これは当たっている。

時に軽薄に過ぎるほど、軽い。

というかむしろ、
物事を真面目に扱っている気が
まったくといっていいほどしてこない。


――面白ければいいよね。

終始そんな感じなのである。

音も基本そんなスタンスなのだが、
何よりも歌詞の内容というか


トラック毎のテーマそのものが
尋常ではないほど、
ぶっ飛んでいるのである。

いやでも本当、
今回は実に難しいな。


どんな言葉でもこの感じが
伝わる気がしてこない。


まあもう少し
頑張ってはみるけれど。


さて、たとえば初期の
彼らの代表曲の一つに、


Quiche Lorraineなる
タイトルのトラックがある。


もちろんこの原義は
フランスはロレーヌ地方の

かの有名なキッシュ、
つまりはパイ料理のことである。


チーズとベーコンと
それから玉ネギとを
主な具として使ったものを
こういう具合に称するのだそうで。


そんなもんタイトルにして
いったい何を歌うんだろう。

いや、この人たちなら
なるほどありかもしれないな、
などと思いながら聴いていると、


しょっぱなからして
なんだか風向きが違っている。


え、Doggyっていってるよな。

なんだ? レストランで
お持ち帰りでもする歌なのか?


いやしかし、
まだ始まったばかりなんだが。


もうだから、眉が寄るというか
目が点になるとでも表現すべきか、

とにかく予備知識なしで
最初に聴いた際には、


一体全体、ポップ・ソングを
流しているような気が
まったくもって
してこなかったものである。


さて、そろそろネタを
割ってしまうことにするけれど、

このキッシュ・ロレーヌとは、
実はこの曲の主人公が
飼っている
プードルの名前なのである。


このトラックは男声の
フレッドがメインを努め、


このキッシュを連れ
散歩している光景から開幕する。

でもさすがに
こういう情報からだけだと、


どんな音かまったく
想像つかないのでは
なかろうかとも思われるので、


やや無理矢理ながら
一応描写してみると

イントロはやや奇妙な度数の
二音を行き交うギターが中心で、


そこにシンセの白玉が
後ろを固める形で入り込んでくる。


大体この人たちの場合
ドラムもベースも、
それからギターも、

比較的ロックンロールの
基本的なパターンを
踏襲しているといっていい。


いやまあ、
編成の関係から時に
ベースをシンセで
代用しているような録音も


とりわけ初期には
幾つか見つかってきはするのだが、

とにかくフレーズだけ取り出すと
実は結構オーソドックスなのである。


なのに彼らのレコードが
全然ちっとも
ロックに聴こえてこないのは、


だからたぶんひとえにこの
奇妙奇天烈極まりない歌詞と、

それらを十分に表現しきる、
ヴォーカル・チームの
それぞれの個性の故なのである。



このQuiche Lorraineの
中盤にさしかかったところで、


フレッドによる
She’s a sweet puppyなんて
ラインが出てきたかと思うと、

ケイトがすぐさまだからこれに、
ワンワンって、
返事したりする訳なんですよ。


最早コーラスとは到底呼び難い。

むしろ合いの手という表現こそが
よほど相応しいくらいであろう。

これをだから
真顔でやってしまえるところが、


このB-52’sの
いわば真骨頂なのである。


ちなみにこの曲では
やがてこの一人と一匹は

散歩の途中に
グレート・デンに出くわして、


怯えたロレーヌは
結局リードを離れ
どこかへ逃げていってしまう。


幾ら探しても帰ってこない
この飼い犬に、

主人公はついに腹を立てて、
犬小屋に鍵を掛けると、


君は僕を捨てたんだ、と
嘆いたところで
曲は終わりを迎えるのである。


――なんと歪んだラヴ・ソング。

こういうの本当、
ほかのレコードで見つけることは


ほとんど不可能だと
いってしまってかまわないと思う。



さて、彼らB-52’sが
世に登場してきたのは、

こちらもまた
80年代が始まってくる
少し前の出来事で、


78年にRock Lobsterなる
こちらもまた
十分にぶっ飛んでいるトラックが、


なんとカナダでいきなり
ナショナル・チャートの一位を
獲得したりもしているのである。

なんでだったんだろうなあ。

わかるようなわからないような。

確かにカナダの方が
アメリカやイギリスよりは
ロブスターを食べるかもしれないが。

とにかくしかしだから、
しょっぱなからしてもう
ロブスターだった訳である。


もちろんあの
ザリガニのことである。


こういうの歌にしようとか
普通思わないよね、たぶん。

もうデビュー当初から、
彼ら独特の、
アプローチのスタイルというか、


つまりは奇々怪々な世界感を
ややロック寄りの


タイトなダンス・ビートに
乗せてくるというスタンスは、

ほとんど確立されていたと
いっていいのだと思う。


この曲にしたって、
岩でできたロブスターとか


本当はそんな具合に
解釈するべきなの
かもしれないとは思うけれど、

たぶん意味なんて
どうでもいいのだろうと思う


どちらかといえば
ロブスターの
ロックンロールくらいな
感じなのではなかろうか。


そういえば確か本邦にも
「ホタテのロックンロール」って
曲があったかとも思うけれど、

基本的なノリは
通じていなくも
ないのかもしれない。


もっともRock Lobsterは基本
ただのコミック・ソングでは
決してないはずである。


なのにこの曲の終盤は、
もう無茶苦茶である。

アカエイとイトマキエイで
韻を踏んだかと思えば、


クラゲにピラニア、
DogfishにCatfishに
イッカクと続き、


しかもその名詞が出てくるたびに
鳴き声だかなんだかも

よくわからないような、
女声二人の奇天烈なコーラスが


いわゆるコール&
レスポンスのスタイルで


フレッドのメイン・ヴォーカルの
合間合間に割り込んできて、

最終的にはクジラが
ビキニを身につけてやってくる。


――荒唐無稽、支離滅裂。

ほかにどう
紹介すればいいというのか。

でもまあ実は本当は
僕はこういうの
結構大好きなんですよ。



今回はタイトルも出していないが、、
ほかにはもうちょっと、
SFの方に寄せたテーマとか、


でなければ
メソポタミア文明とか、

とにかくほかのアーティストが
絶対扱わないだろうモチーフを
正面から取り上げてきて、


それなりにロック/ポップスの
範疇にまとめ上げてしまうのが、


結局のところ、この人たちの
すごいところなのだと思っている。

だから94年に
映画『フリントストーン』が、
彼らを主題歌に起用したのは、


傍から見てても本当、
これ以上はないチョイスだよなあと
つくづく思ったものだった、


企画したスタッフもお手柄だが、
バンドもよく受けてくれたなと
そんなふうに感じたものである。

ちなみに同作品に、
バンド本人がBC-52’sとして
カメオ出演していることは


まあ知っている人には
これも釈迦に説法の
レベルのネタかと思われる。


それでもあのシーンがあるものだから、
あの映画は今でも時々
見たくなってしまって借りてくる。

なお、僕の手持ちの商品には
このFlintstonesも
ちゃんと収録されているのだが、


現行の同じジャケ写のものでは、
何故だか同曲は
ほかの複数の曲に
差し替わってしまっているので念のため。


ああいう作品だからたぶん、
権利がいろいろと
ややこしいのだろうと思われる。


さて、ではそろそろ
今回のチョイスである
Good Stuffの話に行こう。


上で挙げたほかにも
彼らのカタログには
好きな曲が実は
まだまだたくさんあるのだけれど、


個人的な彼らの
ベスト・トラックは
今のところこれかな、と思っている。

先述のようにこの曲では
フロントはフレッドとケイトの
二人だけになってしまっているのだが、


それでもなお。
いかにも彼ららしいといっていい。


冒頭からしてが、
唇を震わせて出すあの

ブルルルゥみたいな
奇妙な音から始まってくるし、


しかもフレッドが低音で、
それこそ口ベースみたいに
パン・パンと唱えると、


ケイトがこれに
パパパーンと応える、

この応酬がこの曲の
すべてだといってしまっても
たぶん過言ではないのである。


しかもそれが、
ぎりぎりイロモノに
なってこないところがすごい。


繰り返し聴いているうちに
実はこれ、

ひょっとしてすごく
カッコいいんじゃないかと


そんなふうに思えて
来てしまうから
まったく不思議なのである。



いや、書き始めた時には、
バンドの結成時のエピソードとか、

シンディの実兄である
初代のギタリストの
リッキーの死のことなど、


もう少し書こうと
思っていなくも
なかったのだが、


なんだか曲の説明に
四苦八苦しているうち、

今回もまたもう
かなりの長さに
なってしまったようなので、


恐縮ながらこのへんの
バイオ的な要素については
機会を改めることにしようと思う。



ちなみに今回掲げたジャケ写は
98年に発表になった
ベスト盤のものなのだけれど、

まあ「ベスト」という
名前のついた商品が
登場してくる場合には


そのウラでは実はアーティストと
レコード会社との関係が、


あまり上手くいかなくなって
しまい始めていたり、

あるいはより最悪の場合、
バンドそのものの存続が


ひそかに危うくなっていることが
結構ままあったりするものである。


それこそ前回のカーズ(♯139)など、
まさにその好例だったと
いえるのかもしれないのだが、

どうやらそれはこのB-52’sにも
それなりに当てはまって
しまっていたようで、


本作に収録された
新音源二曲を最後に


彼らは何故だか
長い沈黙に突入してしまう。

もっとも解散などは
どうやらしなかった模様だし、


この期間にも
TV出演やツアーなどは
こなしてはいたようだから、


たぶん表には出てこない種類の
契約上の問題が
起きていたのかもしれない。

ちなみに近年彼らは
シンディ・ローパーやあるいは


ゴーゴーズなどと一緒に
国内を回って
いたりもしていたらしい。


なんとも興味深い
ラインナップではある。

さらに去る08年には
FUNPLEXなる
実に16年ぶりになる
新譜も発表されはしたのだが、


ところが先日、リッキー亡き後、
サウンド・プロダクトの
ほとんどを支えてきたといっていい、


ドラムからギターへと転向した
キース・ストリックランドが

主に体力的な問題から、
これらのツアーへの同行を


断念することを
発表してしまったそうである。


それでも決して彼は
バンドを脱退してしまう
訳でもないらしいから、

たぶんフレッドたち三人は、
まだまだステージに
立ち続けるつもりなのだろうし、


あるいは新曲の録音が
またいつか
試みられるような場面では、


このキースも今までと同じように
制作に関わってくるといった
形を採用するつもりなのかもしれない。

もちろん多少の願望というか
僕の希望的観測が
入っていることは否めないが、


こういうフレキシブルな
決断ができるところもたぶん


彼ららしいと
形容してかまわないのだと思う。

いつか生のステージを
なんとか見てみたいものだなあと、


常々そう思っている
バンドの一つである。


すげえ楽しそうなんだよなあ。

是非いつか。

まあ来日は相当難しいかなあ。


さて、ではもうそろそろ本当に
締めのトリビアに行くことにする。

79年の出来事だから
まだ彼らが
デビュー間もなかった時期である。


バミューダ・クラブなる会場での
このバンドのライヴの、


その聴衆の中に、実はあの
ジョン・レノンがいたのだそうで。

この頃レノンは、息子ショーンの
よき父親であることを最優先し、


すっかり音楽活動から
遠ざかってしまっていた。


そのレノンに、
シーンへの復帰を
いよいよ決意させたのが

なんとこの時の彼らの
ステージだったのだそうである。


ジョンはだから
このB-52’sを
目の当たりにして、


ようやくヨーコの音楽に
時代の方が追いついてきたと、

厳密に原文通りではないけれど、
まあおおよそ、


そんな手応えを
抱いたのだということらしい。


なるほど確かにこのB-52’sや
あるいは次々回予定の
シンディ・ローパーなどが、

彼女からの影響を
少なからず受けていることは


たぶん断言して
間違いにはならないだろう。


だからまあ、かくして
着手されたのがあの、

DOUBLE FANTASYだったと
いう次第なのだそうである。


いや、なんだかつくづく
いろんなものがいろんな形で、


絡み合い、影響を及ぼし合って、
シーンというのは
進んでいくものなのだなあと

なんだかそんなふうに
思わせられるエピソードである。