ブログラジオ ♯127 What You Need | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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さて今回からしばらくは
ダウン・アンダーこと、

オーストラリア出身の
アーティストたちを扱っていく。


まず筆頭はこのバンドから。

ほかは絶対考えられない。

リッスン・ライク・シーヴス/INXS

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しかしこの人たち、
今いったいどのくらいの
知名度なんだろうなあ。


このバンドを知っていた、
あるいは
まだ覚えてくれている方が


どのくらいここを覗きに
来て下さっているかは
さすがにわからないけれど、

INXSと綴って、
インエクセスと表記する。


でも発音すると
イネクセス、みたいになる。


ついでながらこういうのは
だいたい僕の場合、

往時の小林克也さんの声で、
脳内で再生されている。



さて、実はこのバンド、
個人的にはDD(♯10)や
デペッシュ(♯15)と同じほどの、


あるいはそれ以上の位置を
ひょっとして占めるかもしれない、
偏愛バンドの一つだったりする。

むしろ、80年代の産んだ、
最も重要なバンドの
一つであるくらいに
断言してしまうべきだとすら思う。


いや、思うくらいなら
ちゃんと断言してしまおう。


だから、80年代の産んだ
最も重要なバンドの一つが、
このインエクセスなのである。

あんなことにさえ
なっていなければ、
たぶん今なおきっと、


ボン・ジョヴィと拮抗する
人気と動員力とを誇る、


いわゆるスタジアム・バンドで
あり続けていたのに違いない。

そのくらいに思っている。


だからこの人たちの音は、
もうちょっといろんな場面で
耳に入ってくる機会があって、


全然いいのではなかろうかと、
少なからず不満だったりもしている。

まあ、部屋にこもって、
PCに向かっているのが
基本の日常なのだから、


街で流れる音に
まるで疎いことは
自分でも否めないのだけれど、


それでもまあ、
時々テレビをつけたりすると、

それこそヴァン・ヘイレンとか、
あるいはユーリズミクス(♯26)とか、


そういう人たちの
個人的にはひどく懐かしい
代表曲の一節に、


思いがけない場面で
出くわすようなことも
しばしばあるというのに、

ことこのインエクセスに関しては、
なかなかそういう使われ方すら
されていないのではないかと思う。


大いに不満である。

あ、でも
Devil Insideのギターは

なんかで聴いたことが
なくもないかもしれない。


これは全然関係ないけれど、
マツコさんの夜更かしで、
ジャガーさんが出てくる時、


決まってZiggyがかかるのは、
もうちょっと
なんとかならないものだろうか。

いや、確かに的を射た
絶妙のチョイスだとは思うのだが。


むしろ心底いいセンスだと
感心してもいるのだけれど。


でも、ハマりすぎているが故に、
ほんの少しだけ
悲しくなってきてしまうのである。

念のためだが、このZiggyは
本邦のバンドのZIGGYではなく、


その元ネタである
ボウイのアルバムの
ZIGGY STARDUSTのことである。


これもたぶん皆様には、
十分お察しだとも思うけれど。

まあ、宇宙から来た
ロッカーだからねえ。


ハマらない訳がないんだけれどね。


いや、今回もいい具合に、
話が横道に
逸れてくれたようである。

このぐらいでちょうどいろいろ
あたたまってきた気も
しないでもないので、


引き返せなくならないうちに、
そそくさとインエクセスへと
筆を戻すことにする。



元ネタがやや古くて
大変申し訳ないのだけれど、

それこそ、
「第一印象から決めてました」と、
声を大にしていいたいくらい


このWhat You Needなる曲には
一発で持っていかれた記憶がある。


それもイントロの
ベースとギターのパターンだけで、
なんかもう、

あ、すごい、欲しかった音が
こんなところから出てきてくれた
みたいな手応えすらあった。


今でもこの、
ある種の茶化し合いみたいな
バッキングを耳にするだけで、


なんというか、高揚する。

やっぱカッコいいよなあ、と
つくづく思ってしまうのである。



トラックのそもそもの冒頭には、
まるでウォーム・アップみたいな


乱雑なドラムのローリングが
しれっと収録されている。

そして、電子音みたいな
単音の連打と重なりながら、


どことなくあのビートルズの
I Feel Fineのイントロの


ジョンのハウリングにも
通じるようなニュアンスを持った、

エフェクターを絞った音色の
ぶっきらぼうな
ギター・ストロークが聞こえてくる。


アルバムの開幕には十分相応しい
このチューニングのような演出の後、


例の、ベースとギターとが
巧妙に絡み合って作り上げる、
独特のリフが始まって、

これが最後まで
トラックの全体を
きっちり引っ張っていくのである。


並べると、あるいはどこからか
怒られてしまうかもしれないが、
個人的にはこのパターン、


D.パープルの
Smoke on the Water(♯98)や、

あるいはボウイの
Rebel Rebel(♭51)に
十分比肩し得るくらいの、


20世紀に登場してきた
重要なラインの一つだと思っている。


そしてその上に、フロントマン、
マイケル・ハッチェンスの、

エネルギッシュで同時に
極めてクールな
ヴォーカルが乗っかってきて、


かくしてインエクセスでしか
絶対に出し得ない、


独特のファンクなグルーヴが
完成されるという訳である。


――これが君に必要なものだ


あたかも勝ち誇るようなシャウトで、
ハッチェンスにそう
畳み掛けられてきてしまえば、


当時ハイティーンの
終わりにいた僕らなんかは

もうただ首を縦に振るほか
為す術などなかったものである。



今になればわかる気もするが、
とにかくこのトラック、
あるいはこのバンドのサウンドは


ロックンロールのスタイルに
忠実に則った
まるっきり違う何かだった。

けれどあの当時は
僕自身まだそれを
十分に説明できる言葉を持たず、


ただその斬新さを、
耳とそれから肌とで
感じ取っていただけだった。



さて、このWhat You Needが
全米でバンド初の

スマッシュ・ヒットとなったのは
85年のことである。


これはプリンスのあの
PURPLE RAINの
発表の翌年に当たっている。


これも些か後出しだけれど、
なんとなくこの符号は
極めて納得がいく気がする。

つまり、このインエクセスが
最初から目指していた
サウンドというのは、


おそらくは殿下が切り拓いた、
ロックというスタイルが
ファンクのリズムを飲み込んでいく、


そういうムーヴメントの
一つの完成形だったのでは
なかったろうかと思うのである。

サックスとキーボードとを
固定メンバーに擁する、


六人編成というやや大所帯な
このインエクセスのサウンドは


なるほど80年代らしく、
この二つの楽器が、
随所で重要な役割を
果たしてこそいるのだけれど、

トラック全体の
いわばノリを決めているのは


なんだかんだいって、
基本はギターとベース、
とりわけギターなのである。


確かにギターは、多くの場面で
ファンク・ミュージックを思わせる

ミュート・カッティングのような
刻み方に徹しもするのだけれど、


それでいながらやはり、
ここぞという場面では、
ディストーションを効かせ、


かといって
前に出て来過ぎることもせずに、

ただ気がつけばトラックの全体の
重心みたいなものを
きっちりと定めてくるのである。


実はこれ、
ストーンズの採っていた
方法論と極めて近い。


ギターがいわば
工夫を凝らすと同時に
シンプルでもあるという

実に巧妙なパターンで、
全体のノリを弛緩なく
キープしてくれているが故に、


ハッチェンスのヴォーカルが、
自在に揺らぐことを
許されているという点も、


やはりミックとキースの
作り上げたスタイルと
非常によく似ているといってよい。

今回のWhat You Needもそうだが、
最初の方で曲名を出した
Devil Insideや


おそらくは今なお
彼らの代表曲とされるであろう
Need You Tonightも、


気がつけば強く印象に残っているのは、
ギターのパターンだったりする。

この組み立てがだから、
適度にワイルドで、
かつ適度にポップだった、


インエクセスのトラックの
秘密というか
エッセンスだったのだと思う。



さて、このいわばバンドの
最初のブレイク・スルーとなった
What You Need を収めた

今回御紹介の5thアルバム
LISTEN LIKE THIEVESに続いて、
彼らが作り上げたのが、


全世界で1000万枚を
売り上げたという、
モンスター級の一枚、KICKである。


今回は特別に、
こちらのジャケ写も
載せてしまうことにする。

キック/INXS

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発表は87年、
リーディング・トラックの
Need You Tonightは、


やすやすとビルボードの
トップ・ワンを獲得し、


のみならず
同年のMTVアワードでは、
実に5部門を獲得してもいる。

ちょっと表現が
ややこしくなってしまうのだけれど、


このNeed You Tonightは
次のMediateという曲と
メドレーになっていて、


ビデオでは、後半の
Mediateの部分の内容が、

ボブ・ディランの60年代の
Subterranean Homesick Bluesと
いう曲に合わせて作られた、


いわばビデオ・クリップの
先駆けというべき映像作品の
ある種のトリビュートとなっていて、


このアイディアもまた、
Need You Tonightの

大ヒットの後押しをしたことは
疑いを差し挟む余地はない。



で、今回いろいろと
改めてリサーチしてみたところ


当時は全然知らなかった
面白いネタが見つかってきた。

実は最初、
このKICKの音を聴いた、


当時の彼らの
所属レコード会社であった
アトランティックは、


相当どころではない
難色を示したようなのである。

予算をやるから、
オーストラリアに帰って、


もう一枚別のアルバムを
作ってきてくれないか。


どうやらそのぐらいまで
いわれてしまった模様である。

あまりにもクロ過ぎると
いったようなことだったらしい。


ブラック・ミュージック専門の
ラジオ局にしか、
プロモーションかけられないよ、
みたいにまでいわれたそうである。


でもこのKICKは本当、
僕らがあの頃、
このインエクセスというバンドに

期待していた通りの
音だったと思うよ。


でなければ
こんなセールスにまでは
絶対到達などしなかっただろうし。



だから、ところが、と
いってしまって、
たぶん大丈夫なのだろうけれど、

おそらくはおエライさんの一人が
ここまでいったにも関わらず、


このKICKはちゃんと
世に出てきている訳である。


それはつまり、
この作品で勝負して、
絶対大丈夫だと、

決断することのできたA&Rが
そこにいたということになる。


結構な逆風を突っ切って、
しっかりとバンドに寄り添える、


そういう稀有な
担当者だったのだろうと思う。


メーカー側のバンドに対する
ディレクションの方向性というのは、


大体二つのパターンに
分かれてしまうのではないかと思う。


もちろんレコード会社であれば、
プロモーションや
マーケッティングのノウハウを

それなりにどころでなく
持っているものである。


だから、過去の既知のパターンに
各アーティストのサウンドを


頭の中で当てはめて
いくことができれば、

戦略も立てやすいし、
それなりにセールスも
読みやすくなるだろうことは
なるほど決して間違いではない。


そして、A&Rもまた会社員であれば、
もちろん最優先されるべき命題は、


その仕事が会社に
利益をもたらすかどうかである。

ベーシックな売り上げを
きっちりと確保するためには、


上手くいえないけれど、
自分が理解可能な範囲に


作品を留めておきたいという心理は、
働いて当然かもしれないとも思う。

そういうのがたぶん、
この時のアトランティックの
拒絶反応の遠因だったのだろう。


でもそのやり方からはたぶん、
本当に強烈なものというのは、


生まれてくることが
できないのではないかとも思う。

ピンク・フロイドの
『ATOMIC MOTHER』や
あるいは本邦のサザンなどが、


やはり似たような挿話を
身にまといながら
シーンに登場してきたことは、
実に興味深いといっていい。


そこにもし、彼らと心中する
覚悟を決められる担当者がいなければ、

これらの作品なり
アーティストなりは、


世に出てくることすら
できてはいなかったのである。


だからもう一つの
方法論というのは、

向き合わねばならない作品本位に、
セールスなりプロモーションなりを
頭の中で、
ゼロから組み立てるということになる。


ま、毎回毎回だと、
それは相当大変だろうが。


それでも、つい最近取り上げた
a-ha(♯121)のようなケースは、
たぶんこちらの例に当て嵌まる。

まあ、組織というものが、
まずは存在し続けることを
基本命題としている以上、


どうしたってどこかが、
保守的になるのは
仕方がないことなのではあるのだが、


とりわけこの、いわば
アートの分野に関していえば、

そのスタンスは時に
致命傷にもなって
しまいかねないのではないかと思う。


こういうのはでも、
まったくの余談なのだけれどね。


もちろん当時の
アトランティックの担当を

知っている訳でもなければ、
発言を目にした訳でもない。


ただこんなことを、
レコードを聴きながら
勝手に想像しているだけである。



さて、インエクセスの結成は
実になんと77年にまで遡る。

当時メンバーのほとんどは、
まだ十代の、
それも半ばくらいであった。


作詞を受け持ったハッチェンスと
それから作曲のほとんどを手がけた


鍵盤のアンディ・ファリスとが、
ハイ・スクールの同級生で、

そしてこのアンディとドラムス、
それからリード・ギターの三人が
実の兄弟だったりするのである。


だからたぶん、そもそもまずは、
近所の倉庫かなんかで、


それぞれがちゃんと楽器を
マスターするところから、
一緒に始めていたんだと思う。

ハッチェンスとアンディとが、
アンディの弟を捕まえて、


ドラム叩ける奴いないからさ、
お前やれや、頼むわ、


みたいな感じで
説得しているような場面が
容易に想像できなくもない。

やがて80年代に入り、
地元オーストラリアから、


アメリカ、そして世界へと、
このいわば幼馴染の


悪ガキたちのバンドは、
一気に昇り詰めていったのである。


しかしながら97年の11月、
ハッチェンスの突然の自死により、


このインエクセスは
その栄光の歴史に


唐突な幕引きを迎えることを
余儀なくされてしまったのである。

厳密にはほかのメンバーが、
新たなシンガーを何人か採用し、


名前を維持して、
ついこの前まではどうにか
存続してこそいたようなのだが、


とうとう去る2012年、
正式な活動停止を
発表してしまった模様である。

17歳から37歳までの20年間で、
時代の寵児といっていいような
ポジションにまでたどり着いた


このハッチェンスという人物の中で、
いったい何がうごめいて、
自ら命を絶つことを選ばせたのか。


それは誰にもわからない。

内なる悪魔に負けたのだと、
そんなふうに彼のリリクスを
引用しながら言葉を飾るのは


たぶんたやすいのだろうけれど、
何も説明できはしない。


でも、言葉を降ろすことが時に、
死への誘いによく似た姿の、
ある種の異物へと肉薄する、

そういう代償を要求することは、
なんとなくわからないでもない。



最後につけ加えておくと、
ハッチェンス以外のメンバーは


彼の死後の十五年間を加えた
計三十五年のバンドの全歴史の中で、

一度たりとて
入れ替わることはなかった。


こういう例は、ほかには唯一
U2(♯39)の名前が
挙がってくるだけではないかと思う。



では今回のトリビア。

マイケルの死と同じ年に、
DDがMEDAZZALANDという
アルバムを発表している。


これ、調べてみると、
アメリカと日本でしか、
ディスクが発売されなかった、


つまり本国イギリスを含む
ヨーロッパ全域での、
正式なリリースが一切なかった

彼らのキャリアの中でも
極めて不遇な一枚でも
実はあるらしいのだけれど、


このアルバムの中盤に
Michael, You’ve Got
a Lot for Answer toなる


やや長いタイトルの
バラードが収録されている。

このMichaelというのが、
実はハッチェンスのことを
指しているのだそう。


切々とした訴えは、
確かにある種のレクイエムにも、
聴こえてきはするのだけれど、


不可解なのは、同作の発表が、
ハッチェンスの自殺に
一月も先行していることである。

すると曲は当然、
それよりもさらに以前に
書かれていたことになる。



DDとこのインエクセスとは、
ビデオ・ツールを戦略的に活用し、


プロモーションの基本を終始
展開していたこともあって、

ルックスの人気ばかりが
ある意味では極端なほど
先行していく形となり、


ともすればその音楽的な先鋭性が、
適切に評価されていないとでも


いったような部分は
否めないのではないかと思う。

そんな辺りに、それこそ前回の、
ボン・ジョヴィと
ヨーロッパの関係とも比較できる、


互いに互いを意識する要素が
少なからずあったのかもしれない。


実際ヴォーカリスト二人は、
十分な親交があったらしいから、

あるいはハッチェンスが、
サイモン・ル・ボンに向けて、


何か自らを苛む苦悩を
吐露するような場面も、
実はあったのかもしれない。


そんなことを考えながら
改めて聴いてみると、

この曲の歌詞は
極めて意味深である。


まあ、そろそろだいぶ長いので
この曲の詳しいご紹介は、


そのうち気が向いたらと、
させていただくことにするけれど。


重いんだか軽いんだかも
よくわからなくなる
独特のDDのサウンドは、


絶対に彼らのレコードからしか
聴こえてくることはないし、


一方でインエクセスの
ファンキーなこのドライヴ感は、

やはり彼らのレコードの中にしか
いまだに見つけることができていない。


僕の中では両者はいまだに
それぞれやはり
ワン&オンリーのままでいる。