ブログラジオ ♯123 Joyride | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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さて続いては、
ロクセットなるユニット。

こちらは男女の二人組みである。

ふたりのときめき/ロクセット

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女性のマリーの方は専ら
ヴォーカル・メインだけれど、


男性のペールの方は、
やはりヴォーカルを取りつつも、
同時にギターも弾く模様。

ちなみにソングライティングは
ペールの方がほぼ一手に
引き受けているといっていい。


厳密には、次第に
マリーの手による楽曲も
増えていってはいるようだが、


現在までのところ、代表曲はほぼ
ペールの筆によるものである。


だから、似たような編成でも
どちらかといえば、


ユーリズミクス(♯26)よりは
EBTG(♯20)に
近いのかなとも思う。


ただしEBTGにしても、
基本的には
トレイシーのヴォーカルが
ほぼメインだったと思うのだが、

このロクセットの場合は、
ペールの方がリードを取った


トラックの比率が多いところが、
ちょっと特徴的かもしれない。



まあ実は、それも道理で、
この二人、そもそもは決して

最初から一緒にやっていた
訳ではないのだそうである。


まずペールの方はすでに
10代のうちから、


ユーレネ・ティーデルなるバンドで、
スウェーデン国内での
デビューをいち早く果たし、

同バンドのデビュー・シングルから、
もうすでに、国内のチャートでは
トップを獲得してもいるのだそう。


一方のマリーもやはり
バンドのヴォーカリストから、


ほどなくソロ・シンガーへ
転向したという
キャリアの持ち主で、

だから両者とも、
ロクセット結成の段階では、


もうすでに国内での知名度は、
十分にある存在だったらしい。


しかも、結成より
十年も前から、二人は互いに、

同じミュージシャンとして、
その存在を
知ってもいたのだそうである。


実際マリーの方が、
ペールのバンドに、


ゲスト・ヴォーカルとして
参加していたりもするらしい。

もっともこの音源は
さすがに手元にはないのだが。



ところが、やがてバンドを解散し、
ソロとして活動を始めたペールは、


しかしこの局面では
少なからずどころではなく
苦戦を強いられてしまう。

ありていにいえば
さほど売れなかったのである。


この時に、
彼のソングライティングの手腕を
非常に高く評価していた、


当時の所属レコード会社の
プロデューサーが、

ペールに対し、彼の楽曲を、
マリーと一緒に歌ってみることを


提案したというのが、
このロクセットの誕生の
きっかけとなったのだそう。


そもそもがそういう経緯だったから、
当初はたぶん、マリーの方には、
少なからず抵抗が
あったのではないかとも想像される。

その証拠という訳でもないが、
ロクセットとしての
最初のアルバムのリリース後も、


実はマリーは並行して
ソロ活動を継続してもいる。


ペール自身、
マリーがロクセットの方に
向いてくれることを

期待して待っているような時期が
有ったことを否定してはいない。


それでも二人を結びつけていたのは、
いつか英語で歌った自分たちの曲で


世界に進出したいという
夢だったということらしい。


かくのごとくいわば最初から
ビッグ・ネーム同士の
共演であったから、


ロクセットのデビュー作も、
さらに続いた2ndアルバムも、


国内ではそれぞれに
相応のヒットとなりはした。

だがこの二枚目の、
現在では
バンドの出世作として
揺るぎない地位を誇る、


アルバムLOOK SHARP!も
発売直後の時点では、


国外からの反響というのは
ほとんど皆無に
近かったようである。


ところがここで、
奇跡とまでいってしまうと
ちょっと大仰ではあるけれど、


まあそういった種類の
幸運な偶然が、
彼らの身の上に起こってくる。


たまたま同時期に観光か何かで
スウェーデンを訪れていた、
ミネアポリスの学生が、

彼らのLookのシングル盤を
購入して持ち帰り、


これがどういう経緯でか
ラジオ・ステーションに渡って、


そこで強力にエア・プレイされ、
次第に人気を博していったのである。

この状況を受け、
LOOK SHARP!の米国での発売が
すんなりと決まってしまうと、


そこから先はもう、
快進撃としか
いいようのない事態となった。


――雪ダルマ式。

まさにそういう状態
だったのではないかと思われる。


実にアルバムLOOK SHARP!は
二曲のトップ1を含む、
三曲のトップ3ヒットを生み、


さらには映画『プリティ・ウーマン』の
サウンド・トラックに提供された

次のIt Must Have Been Loveもまた
すんなりと一位を獲得してしまう。


ロクセット旋風とでもいって
いいような事態であったのだろう。


これらがおおよそ、89年から
翌90年にかけての出来事である。

この時点でもう、
彼らはすでに
ビッグ・スターだったといっていい。


そして周囲が、
さて、はたして次にこの二人は、
いったいどんなものを
送り出してくるのかという、


期待というか、おそらくは
それ以上のプレッシャーの中で
完成されたのが、

今回のピックアップである、
3rdアルバム、JOYRIDEだった。



正直、僕自身は当時は何故か、
Lookとかその辺りは、
ほとんどスルーしてしまっていた。


スウェーデンからのバンドが
なんかものすごく

流行っているらしいくらいには、
認識していたとは思うのだけれど、
そんなに触手が動かなかった。


その印象が一変したのが、
本作のタイトル・トラック、
Joyrideだったのである。


いや、よくJ-WAVEで
耳にしたものである。

あの時この曲を手元に
持っていたいがために、


本アルバムを
購入したのは間違いがない。


イントロというか、
冒頭からして相当気が利いている。

たぶんこういう場合に
使っていい言葉だと思うのだが、


フェアグラウンド・アトラクション、
すなわち移動遊園地の
呼び込みみたいなものを思わせる
SEというか、アナウンスが、


さあチケットを買って、
この楽しいライドに参加しよう、と、
フェード・インしながら呼びかけてくる。

そしてしかも、この歌い出しである。

――Hello, you fool, I love You.

あえて訳出はしないでおくけれど、
それこそ、あんたバカぁとか、
まあそういった感じであろう。

あの当時はまだ、
ツンデレなんて言葉は
影も形も
なかったはずだと思うが、


これがまあ、マリーの声というか、
キャラクターに見事にはまっている。


ちょうどプリテンダーズ(♯27)の
クリッシー・ハインドみたいに、

ディーヴァという言葉より、
ロッカーという呼び方の方が、
似合うタイプのシンガーなのである。


そんなこんなでこのトラック、
タイトルの通り、全編から、


純粋な陽気さみたいなものが、
はじけんばかりに炸裂してくる。

言文一致といったら、
少しおかしいかもしれないが、


トラック全体が、
まさにJoyrideを
体現しているよな、くらいに思う。


こういうのと出会うと、
音楽の、というか
ポップ・ミュージックの力を
まざまざと感じる。

個人的には、中間部分で
Aメロのアレンジが
変わって聴こえてくる箇所の、


壊れた金管楽器のような
シンセサイザーの音色が、
見事なまでにツボである。


冒頭から口笛の音色で、
聴こえてきているパターンね。

この箇所で同時に前に出てきている
ギターの弾き方も相当カッコいいし、


いや、本当、
最後にバンド名をシャウトする
おかずというか、悪戯も含めて、


細かい部分まで
実に気が利いていると思う。

それにしてもこの
ロクセットの音楽、
一貫して不思議な手触りである。


キャンディ・ロックとでも
いえばいいのか。


結構ヘヴィーな感じに
ギターを鳴らしてくるにも関わらず、

甘ったるいといったら、
やや語弊があるし、


浮わついているといったら、
さらに印象が悪くなって
しまうかもしれないけれど、


でもなんだか、そういう感じを
醸し出してくる曲調なのである。

シリアスになり過ぎる
必要なんて、
たぶんどんな場面でも
まったくないんだよ。


そんな具合にいわれている気がする。

だから、当時圧倒的に
ティーンネイジャーを中心にして
人気を集めたといわれているのも
わかるような気がしないでもない。

たぶんもう少し早く
シーンに登場してきていたら、


つまり、僕自身が
あの頃よりまだもうちょっとだけ
若い時期に
出会っていたとしたならば、


ひょっとして相当
ハマっていたかもしれないな、と
思わないでもないサウンドである。


ちなみにこの
ロクセットというバンド名、


パブ・ロックのルーツといわれる
ドクター・フィールグッドの
曲名から採られているのだそう。


こちらのバンドに関しては、
お恥ずかしながらまだ
手を出したことがないので、

あるいはその辺に、
このロクセットの作品の、
全編に漂っている、


軽快なノリみたいなものの、
秘密があるのかもしれないとも思う。



さて、実はこのロクセット、
90年代をトップギアで走り抜いた後、

02年頃から、ほとんど目立った
活動をしていなかったらしいのだが、


これはどうやら、マリーの方が
脳に腫瘍が発見されて
しまったためであるらしい。


その後、手術は無事に成功し、
二人は揚々とシーンに復帰、

10年代に入ってからは、
コンスタントに新作を
発表している模様である。



では今回のトリビアは、

アルバム・タイトルでもある
Joyrideの曲名の由来から。

LOOK SHARP!の大ヒットの直後、
2nd のタイトルに悩んでいた際に、


ペールが聴いていた
ラジオか何かに、
あのP.マッカートニーが
出演していて、


この時、ジョンとの
ソングライティングの作業を、

終わりのない
Joyrideみたいなものだったと、
形容したのだそうで。


聴いた瞬間、これだな、と
思ったのだそう。


この言葉がまずもう完全に、
アルバムのタイトルとして、
置き場所が定まってしまい、

それから曲ができた、みたいな
感じだったのかなあと想像される。


それでこんな名曲が
出てきてしまうんだから、
やっぱり音楽というのは
つくづく面白いよな、と思う。



そしてまた、
例によっての余談ながら

なんかこんな話を
思いがけずに知ってしまうと、


このジョイライドという
言葉を使ったタイトルで


僕自身もいつか
短編の一本くらい
書けないかなあ、という

気持ちになって
しまったりもするのである。



まあ、そのうち
頭の中で十分転がしたら、
いずれ挑んでみるかもしれない。