ブログラジオ ♯120 Don’t You Ever Leave Me | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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続いては森と湖と
それからサンタ・クロースの
現住所があるらしい国、

フィンランドからの
アーティストのご紹介である。


でもこの人たちは、ある種そんな
メルヘンチックなイメージとは、


多少どころか、
まったくかけ離れている
バンドだったりする。

その名をハノイ・ロックスという。

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実はこの人たちのこの一枚は
何故だか相当好きだったりする。


なんかよくわからないのだが、
ふとした場面で聴きたくなって、

終わると頭からもう一回、
流してしまうことが
しばしばだったりするのである。


何度かここでは似たようなことを
書いてきているとも思うし、


そもそもが隠すつもりもないので
また改めて告白してしまうが、

実はHR/HM系のレコードは、
なかなかこういう感じで、


ある種エンドレスで
かけておくことができない。


正直もうくたびれてしまう。

年齢的なものも
多分にあるのだろうとは思うのだが。


それでもやはり
ここを書く時は基本、


取り上げるアーティストの作品を
延々とリピートしながら、

テキストを仕上げることに
一応はしているのだけれど、


この前のハロウィン(♯117)の時は、
記事そのものが


予定より相当長くなって
しまったせいもあって、
実は少なからずきつかった。

まあ、いろいろと懐かしく
思い出したりもしたから
それはそれで楽しかったのだけれど。



さて、このハノイ・ロックスが
メタルかどうかについては
たぶん疑問符がつくだろうけれど、


でもやっぱり、ハード・ロックの
範疇に入ってくることは
九分九厘間違いはないと思う。

それでもこういう聴き方が、
この人たちのこの一枚だけは
昔からできてしまうから不思議である。



どうしてなんだろうなあ、と
改めて今回よく考えてみて、


一つだけ気がついたことがある。

もちろんなんとなくでしかないし、
所詮は個人的な
所感に過ぎないものではあるけれど、


たぶんこの人たちの、
いや、厳密には、
ソングライティングを
一手に引き受けている、


ギタリスト、アンディ・マッコイの
作り出してくるメロディー・ラインが

どこかで初期から中期にかけての
ビートルズの作品群を
想起させるエッセンスを


隠し持っているからなのでは
ないだろうかと思ったのである。


いや、アンディ・マッコイが
もしこんなことを聞いたら、

ひょっとして
怒られてしまいかねないかも
知れないなあという気も
少なからずしないでもないが。


それでもなんだか
そう思ってしまったのである。


なんというのか、
ギリギリやんちゃなのである。

本当、どういえばいいのか
すごく迷ったのだが、


きっとこの言葉が
一番相応しいのだろうと思う。


ただひたすらに
完成に向かっていこうとする

そういういわば発展途上の
エネルギーみたいなものが、
あちらこちらに感じられて、


たぶんそれが心地好いのだと思う。


実際本作に収録の
どのトラックからも

そういう気配が
随所で立ち上ってくる。


Ice Cream Summerとか、
Love’s an Injectionとか、


改めてよく聴くと
これが80年代の音かよ、と
いいたくなるくらい

古臭いというか、
展開が素直なのである。


さらにいってしまえば
演奏の方も、


レコードだからミスこそないが、
少なからずという形容では
済まない程度に荒っぽいし、

コーラスに至っては、
おい、やる気あんのかよと、
突っ込みたくなるような場面が
実をいうとないでもない。


この点ではむしろだから
ビートルズと一緒にしてしまったら、


おそらくはジョンとポールと
それからジョージとに

こっぴどく怒られて
しまいかねないくらいにも思う。


でもそういったラフさが、
なんだか全部、
トラックの持つ粗野な空気と
むしろ絶妙に噛み合っているところが


本当につかみどころが
ないといおうか、
なんというべきか、

とにかく彼ら独特の
魅力になっているのである。


そんな訳で、一旦全編聴き終えても
もう少しこのラフなムードに
身を任せていたくなって、


気がつけばもう一度
プレイボタンを押し、

頭から繰り返し聴き始めて
しまっているのである。



まあ、絶対本人の目には
止まらないだろうと高を括って
ここまで好き勝手
書いてきてしまっておりますが、


ひょっとしてほとんどそうは
読めないかもしれませんが、
基本相当誉めてるつもりです。

もう本当にこの
MILLION MILES AWAYは
何度も聴いているのである。


だからおかげさまで、
最初はそんなに大した曲だとも
思ってさえいなかった


Malib Beach Nightmareさえ、
すっかり好きになってしまった。


ちなみにこの
MILLION MILES AWAYなる
コンピレーション・アルバム、
実は日本だけの企画盤なのだそう。


欧米でも同じタイトルで、
リリースされているものが
どうやらあるにはあるらしいのだが、

収録曲がかなり違っていて、
僕の手持ちのものの選曲は
日本側が行ったらしい。


だから、そういう要素もたぶん
この聴きやすさには、
少なからず影響しているのだと思う。


バンドの音楽への入り口に適当で、
かつ僕ら日本人の、

肌に合ってくる種類の旋律を
有する曲が、
絶妙に選ばれているのだと思う。



そして個人的にこの一枚の
白眉といっていいと思っているのが、


今回の標題に取り上げた
Don’t You Ever Leave Meと、

それからCCRのカヴァーである
Up Around the Bendなる
トラックである。


もちろん異論はあるだろうし
認める準備もあるつもりである。


所詮音楽は、結局のところ、
好き嫌いだとも思うし。

でもこの曲は本当、相当いい。

Don’t You Ever Leave Me
――僕を捨てたりしないよね。


まあ、そういう歌である。

未練というか、すがりつくというか。
はっきりいって
ちっともロックっぽくはない。


たぶんほかのバンドがやっても
まるで決まらないだろうとも思う。


でもこういうのが
不意に出てきちゃうところが、

このバンドの面白い
ところだったのだと思わないでもないし。


しかもこの話者、サビの最後では、
もっとさらに情けなくなっていく。


僕を置いていくなんて
それは殺すようなものなんだよ

こんな具合にサビのメロディーで
繰り返されてくるフレーズは


いってしまえば
ただもう未練がましいだけである。


ところがこれが
サウンドの基本が
ハードロックであるものだから、

そんなにカッコ悪く
聴こえてこないのである。


なんとも不思議な雰囲気である。

このほか、だいたいどの曲も、
ハロウィンのそれとは
また違った意味でメロディアスで、

加えて、僕が気に入っているのは、
ここを繋ぐなら、
これしかないよねっていう
感じのラインを


決して外さないといおうか、
むしろ衒いも外連味もなく
真正面からぶつけてくる、


そのある種の
肝の座り方だったりもするのである。

とりわけこの今回の
Don’t You Ever Leave Meの


Aメロのパートの
歌と歌を繋いでいる箇所のギターは、


もう本当、ここはやっぱ
これしかないよねっていう
ラインではないかと思う。

割と普通のスケールなのだが、
こういうのがやはり
とりわけ耳に残るのである。


付け加えておくと、
Up Around the Bendの方では、
開幕から繰り出される、
すっとぼけたとでもいうような、


ギターのリフが
ひどく気に入っていたりする。

だからこの二曲を聴くために
僕は何度もこの一枚を
気がつけばプレイヤーに
載せてしまっているのである。



さて、このハノイ・ロックスを
取り上げる以上は、
触れざるを得ない悲劇がある。


84年、一枚の企画盤を含めて数え
通算四枚目に当たるアルバムで、
いよいよ念願だった
欧米メジャーとの契約を獲得し、

いざ全米へと
進出しようかという矢先、


バンドはラズルという名の
当時のドラマーを
交通事故で失ってしまう。


ハンドルを握っていたのは
アメリカのやはりロック・バンドの

モトリー・クルーに在籍していた
ヴィンス・ニールという人物だった。


酔っ払っていたニールは無事で、
ラズルとそれから
事故の相手とが即死してしまった。


なんともコメントの
しようがない事件である。

このラズルの死のニュースが
飛び込んできたのはたぶん、


僕がバンドの名前を知ってから
ほとんど間もなくの
ことだったはずである。


だから本当に、日本でも
ようやく注目を集め始めた
ばかりのところだったのだろう。

その後バンドは
幾人かのドラマーを
試験的に採用してみることもするのだが、


結局存続は無理という決断を下し、
85年に一度解散してしまう。


この最初の解散の際に編まれたのが
今回のMILLION MILES AWAYなる
一枚だったのである。

その後、紆余曲折を経て、
バンドは01年にようやく再結成、
09年までの八年間だけ復活している。


それでも、もうこのバンドで
できることはやり尽くしたと宣言し、


最後の最後には、
故郷のヘルシンキで

一週間連日の計8公演、
小さなホールながら
すべてをほぼ満員にし


今度こそ、すべての活動に
ピリオドを打ったのだそう。


以来もう六年くらい、
再結成の話とかも一度も
出てきてはいない模様である。

すごく、らしいな、と思う。

ちなみにこのファイナル・ライヴは
現在DVDでも観ることができる。


きちんと整理していないけれど、
たぶん今世紀に入ってからの
復活後に発表されたトラックも

セットリストには
複数載っているのだろうが、


実はこれが
まったくといっていいほど
古い曲と違和感なく並んでいる。


ああ、こういうのがこの
ハノイ・ロックスの
ロックなんだよなあと思わせてくる。

芯がぶれてないといえば
やや誉め過ぎなのかもしれないが、


とにかく40になろうが50になろうが、
まったくヤンチャな
人たちだった模様である。



さて、では締めの小ネタ。

ストレート・エッジと呼ばれる
ライフ・スタイルがある。


クスリはもちろん
酒も煙草もやらない。


快楽のためだけのセックスも
ご法度とする。
そういう生き方であるらしい。

だから、ロッカーというものに対して
巷間広く流布しているであろう、


ある種自堕落といっても
いいような種類のイメージへの


アンチ・テーゼともいうべき
こういった信条を
この名前で呼ぶのだそうで。

そして、このハノイ・ロックスの
リード・ヴォーカリストである
マイケル・モンローが


どうやら現在に至るまで
これを貫いているのだそうである。


このモンローは
上に掲げたジャケ写の通り、

見た目まさにこう、
ある種爛れた
ロックンローラーという
イメージを装っている方なので、


その彼がこういう
生き方を選ばずには
いられなかったのは、


それはやはり、
あのラズロの事故が
あったからこそのこと

だったのかもしれないなあ、
などとふと考えてしまうと、


なんだか切なさとも違う
不思議な気持ちが
起きてきてしまったりもする。



なお、このほかフィンランド出身の
著名といえそうなアーティストには、

ストラトヴァリウスなる
こちらはメタルのバンドがある。


これもあるいは
釈迦に説法の
レヴェルかもしれないが、


ストラディヴァリウスという
やたら有名なヴァイオリンの
いわゆる歴史的名器があって、

その名前にギターの
ストラトを引っ掛けて
命名されているのは
たぶん一目瞭然であろう。


さらにまた、全然関係ないのだけれど、
このストラディヴァリウスという


ヴァイオリンの存在を
まず最初に僕に教えてくれたのが、

手塚治虫さんの
『ブラック・ジャック』の
エピソードの一つだったことは


ずいぶんと鮮明に
記憶に残っていたりもしたりする。