ラジオエクストラ ♭71 Child’s Christmas in Wales | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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今年のクリスマス・ソングの
僕のチョイスはこちら。

ジョン・ケイル(♯80)のトラックである。

まあややマイナーというか、
今年はちょっと
渋めなところからにしてみました。


Paris 1919 (Exp)/John Cale

¥2,392
Amazon.co.jp

収録アルバムは73年発表の
ソロとしての傑作の一つに
数えられている一枚である。

御恥ずかしながら僕は、
この方のソロ作品は、


自分が担当したあのライヴ盤と、
今回ジャケットを載せた
この一枚しかまだ
聴いたことがなかったりするので、


だから、決して自分自身の
実感ではないのだけれど、

このアルバムと、
それから直後に続いて発表された


アイランド時代の三作というのが、
結構評価が高いというか、


ある意味ロック/ポップスの
スタイルの範疇に留まっていて、
いわば手を出しやすいらしい。

もっとも、このケイルに対し、
ポップという言葉を使うと、
あるいはどこからか
怒られてしまうかもしれないけれど、


ここではポピュラーという
意味での形容のつもりである。



それに、このPARIS 1919にしたって、
純正のロックンロールかといわれれば、

そういうトラックも確かにあるけど、
全体としては
決してそういう印象ではない。


だから本当、この人の
やっていること、
やろうとしていることは
すごく難しいのである。



スタート、つまりヴェルベッツ時代は
いわばそれこそ、ついこの前触れた、
サイケデリック・ロックなるジャンルに、

分類するのが一番
相応しいのかもしれないが、


たとえばHeroinなんて曲は、
まさにそういう
ことなのかもしれないけれど、


それはたぶん、
ルー・リードのセンスに
重きを置かれた方向性で、

ソロになって後、このケイルの方は
映画音楽や、前衛音楽の世界にも
手を伸ばしていく。


まるで、音楽そのものに
挑もうとでも
しているようなキャリアである。



実際本編で扱った、このアルバムの
タイトル・トラックにしたって、

オリジナルは基本
弦楽によるバッキングだし、


ライヴではピアノの
弾き語りで披露されている。



それでもつくづく、
やっぱりジョン・ケイルって、
本質はロッカーなんだよなあ、と思うのは、

彼の書いた歌詞に目を通す時である。

攻撃性といってしまうと、
ちょっと違う気もするんだけれど、


やっぱりどこか、
現状への異議申し立てみたいなものが、
強烈に感じられる場面が
多々あるのである。

このスタンス、
たぶん佐野元春さんとも
どこかで共通して
いるのではないかと思っている。



考えてみれば、
シャロン・テート事件なんてのは、
この人の歌から教わったしなあ。


いや、あんまりクリスマスに
相応しい話題とは、
到底思えないから、

これ以上掘り下げるのは
今回は止めておくことにするけれど。



そういう訳で、ピックアップの
Child’s Christmas in Walesも、


なんというか、リリクスは
真正面からクリスマスを寿ぐ、
楽しむなんてことは、
まったくちっともしようとはしていない。

むしろ何をいおうとしているのか
ちっともさっぱりわからない。



10個の殺されたオレンジが
船上で血を流し
そうやって恥辱というものに
喜劇性を付け加えていく



いや、本当にこんな感じに
訳すしかないのである。

だけどメロディやトラックの全体は、
ものすごくクリスマスっぽい。


間奏のオルガンなんか、
賛美歌みたいなラインだし。


しかも、随所に挟み込まれてくる
ヤドリギとか、ハレルヤとか、
そういった言葉たちが、

文脈とはおよそ関係のないところで、
全体の雰囲気を盛り上げてくる。


――いや、いったいどういう作り方だ。

本当に頭を抱えてしまう。


そして圧巻はこのラインである。

所有の旗印を引きずり下ろせ
さすれば壁は崩れ落ちよう


これ、日本語では上手く出ないけれど、
最後のところは原詩では
Falling Downと歌われている。

これがやっぱり、どうしたって
降りしきる雪のイメージを
喚起せずにはいないのである。


絶対企んでやっている。

なかなかエアプレイとかされませんが、
もしお耳に止まる機会がありましたら。


あ、そうそう、
いわずもがなとも思いますけれど、
『追憶の雨の日々』(発表時タイトル)と
いう作品は


延々とこのケイルのアルバムを
プレイヤーに載せながら書きました。


あとヴェルヴェッツと、
それからチャイコフスキーに
ドビュッシーね。

それから時々レノンのソロ。

まあもちろん、一応は
250枚を越している
長編のサイズのテキストなので、


これら以外のラインナップも、
たまにかけたとは思いますけど、

メインはこの五つですね。


ではやや短めですが、
今回はこの辺で。


Of Course,
I Wish You Merry Christmas, All of You.