ブログラジオ ♯91 You Spin Me Round | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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デッド・オア・アライヴである。

眼帯の、ピート・バーンズなる
異形のシンガーに率いられた四人組。


Youthquake/Dead Or Alive

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実はこのバンドも、かなりの
ビッグ・イン・ジャパンであった。


まあ昔から、ディスコ・シーンでは、
ノーランズとか、アラベスクとか、

何故か我が国で、突出した
人気を獲得してしまう
グループというのが
時折出現したものである。


今になってみれば、それぞれの
レコード会社のA&Rが、
よほどの確信か、あるいは


相応の思い入れをもって、
プロモーションして
いたのだろうなあとも思う。


それにしても、本当に
このSpin Meはよく耳にした。


とにかくこれがフロアに流れると、
その場の空気を全部持っていった。


歴代屈指の破壊力を誇った
一曲だったといっていい。

イントロも、それからAメロの頭も
それぞれにインパクトがあって、


さらには、全編に渡って、
高音に寄せて展開される
キーボードのパターンと、


ウッドブロックみたいな音色の、
ドラムの遊びとがキープする
奇妙なリズムが
何故だかひどく心地好く響いた。

それから、最初のサビの
直前の箇所辺りから登場してきて、
随所随所でキメてくる


右上がりとでもいうべき、
鍵盤の早弾きみたいなラインも
個人的にはとても気に入っていた。


だがそんな諸々以上にこの曲、
何よりもサビのラインが
この上ないほど強烈だったのである。

You Spin Me Right Round
Baby Right Round

Like a Record, Baby
Right Round Round Round――。


あえて訳出はしないけれども、
このシンプルな繰り返しが
やっぱり非常に効いたのである、


当時はまだ、CDがようやく市場に
浸透し始めたといったような時代である。

もちろん、DTMなど夢のまた夢。

当然ながら、ディスコの主役は、
あのターン・テーブルという奴だった。


そこに、Round-round-roundである。

シチュエイション的にも
見事にハマっていたといっていい。


レコードのほか、
扇子やら何やらはもちろん、
ほかにも形も名前もないような、


とにかくまあ、いろんなものが、
一緒に回っていたものである。


さて、このSpin Meは85年の作品で、
バンドのセカンド・アルバムの


オープニング・トラックであり、
もちろんリード・シングルだった。


リヴァプールで結成された彼らは
この前年に当時のエピックから
念願のメジャー・デビューを果たし、

そのファースト・アルバムの中で、
KCアンド・ザ・サンシャイン・バンドの
That’s the Way(I Like It)なる
超有名な楽曲をカヴァーして、


本国で、決して小さくはない
注目を集めることに、
曲がりなりにも成功していた。


もっともこの段階では、
音楽というよりは、
ピート・バーンズのルックスと、
セクシュアリティーの部分とが、

話題の中心に
なっていたのではないかと思われる。



上のジャケットの衣装の
濃い紫色からしてすでに、
大方お察しいただけて
いるのではないかとも思うのだが、


このピート・バーンズ、最初から
自身がゲイであることを公言していた。

もっとも、デビュー当時すでに
この方は既婚者だったらしいから、
厳密にはバイ・セクシュアルと
いうべきかもしれない。


まあでも、すでにシーンには、
ボーイ・ジョージや
フレディーがいたから、
そんなにびっくりはしなかったが。


ボウイにも一時期そんな噂もあったし、

むしろ、さもありなんという
感じだったような気もする。


まあとにかく、そこで、
もう一段ステップ・アップを
目指さなければならない


重要な位置づけを持った
この2ndアルバムの制作に当たり、

レコード会社なりバンドなりが、
プロデューサーとして
起用することを選んだのが


前回のリックの項でも名前を出した
あのS/A/Wなるチームだったのである。


きちんとデビュー作の全体と
本作を聴き比べた訳ではないので、

はたしてこの起用が、
どれほどの変化を、
このバンドの音楽にもたらしたのかは、
きちんと断言はできないのだが、


いずれにせよ、この起用がやはり
大当たりを導き出したと
いうことにはなるのだろうと思われる。



いや本当、ディスコもので、
アルバムを一枚通して
楽しんで聴ける作品というのも
なかなかめずらしいのではないかと思う。

冒頭から休むことなど一切しない、
有無をいわせぬといった種類の、
ほとんどタテノリに近いリズムと


決してヴォーカルとぶつからない、
それでも同時に極めて派手な
随所に工夫のあるバッキングとが、
全編にわたって見事な融合を見せ、


当時のダンス・フロアを
牽引していた典型的なビートが
次から次へと繰り出されてくる。

まさにユーロビート、あるいは
ハイ・エナジーという感じ。


しかも、楽曲も微妙に変化に富んでいて、
それぞれ適度に強力だった。


事実、Spin Meを含め計四曲が、
このアルバムからシングルとして
カットされてもいるのである。

ただまあ、個人的には
相当楽しんで聴いたのだけれど、


名盤とまで呼んでしまうのが
ちょっとどころでなく
躊躇われてしまうのは、


基本、最初から彼らがどこかで、
いわゆるイロモノみたいな
存在だったからだろうと思う。


ちなみにこのSpin Me、
S/A/Wのプロデュース作品の中で、
初めて全英一位を獲得した
トラックなのだそう。


だとすると、この曲の成功がなければ、
バナナラマやキム・ワイルドの


それぞれの全米大ヒットなど、
まるでありえなかったのかもしれず、

あるいは前回のリック・アストリーや、
いずれは取り上げる予定の
カイリー・ミノーグなども、


少なくともシーンへの登場の仕方は
まるっきり違っていたのだろうと思う。


そんなことを考えてしまうと、
自分でも存外に、
感慨深い気持ちに
なってきたりもするこの頃である。

まあ、いずれにせよ、何もかも
30年かそれ以上も前の出来事である。



なお、後年このピート・バーンズは、
美容整形にのめり込んだ挙句に失敗し、


なにやら大変なことに
なってしまったようなのだが、

まあ、今回もまた
すでに相当長くなってしまったので、


その話は、もし別の機会を、
エクストラの方で作る気分に
僕がなったらということで。


それから最後に、前回の予告の種明かし。

彼らの後年の作品に
Turn Around and Count 2 Tenなる
トラックがあって、
これが結構有名だったはずなので、


まあ、あそこはついつい
あんな文章になってしまったという、
いってみればただそれだけのことです。


なお、同曲は89年の発表で、
欧米ではさほど
振るわなかったにも関わらず、

国内ではカヴァー・ヴァージョンが
登場するほどヒットしていたりする。


まあ、まだバブル全盛の時期である。

だからやっぱり、このイロモノ具合が
時代とほどよくマッチしたのだと思う。


なお、次回のアーティストもまた、
イギリスの産んだもう一組の
強烈なイロモノの予定である。



さて、では締めのトリビア。

上で少しだけ触れた
KCアンド・ザ・サンシャイン・バンドの
That’s the Way~なるトラックなのだが、

これが実は本邦はウルフルズの
あの大ヒット曲、


『ガッツだぜ』の、
ある種の元ネタになっているのだそう。


もっとも、パクったとか
そういうことでは決してなく、

曲作りに悩んでいたトータスさんが、
家で半ば悶々としながら、お気に入りの
この曲を繰り返し聴いているうちに、


まあだから、このサビの歌詞、
つまりThat’s the Wayの部分から


ガッツだぜ、の一節が、不意に
出てきてしまったのだそうである。

このフレーズなら、
行けるんじゃないか、
みたいな感じだったのだろうと思う。


いうまでもないけれど、
両曲は、メロディーも
リズム・パターンも
全然まったく違っている。


まあ促音の前に、
アクセントが来ているところは
共通しているかもしれないが、

それはなんというか、
音韻の理(ことわり)とでも
呼んで然るべきものだろう。


考えてみれば、ガッツなんて和製英語を、
大胆にサビとタイトルに載せてくる
その発想だけで
十分なインパクトがあったといえる。


万が一、金田一とか、
個人的にも結構好きだった。

だからあの曲が、なんというか、
そっか、実はあのKCから
思いついていたのか、とか
思いがけずに知ってしまうと、


あまりにトータスさんらしくて、
むしろ個人的には
すっかり喜んでしまったくらいである。


ちなみに『ええねん』は、
着想の段階では実は
AMENだったのだそう。

念のためですが、
いわゆる「アーメン」です。


テンポも今よりもっとずぅっと
ゆっくりだったらしいですよ。


それがどうやったらああなるのかと、
ひとしきり頭を捻ってしまいました。

すごいとしかいいようないです。

だからこれ全部、
誉め言葉のつもりですので念のため。