ブログラジオ ♯88 The Riddle | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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ニック・カーショウという。

Riddle: Expanded Edition/Nik Kershaw

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申し訳ないけれど、この方も、
このThe Riddleと、
ほかもう一曲しか知らない。


実は84年から翌85年にかけて、
この方なんと、実に七曲も連続で、
全英のシングル・トップ20に
ヒットを送り込んでいたらしいから、


実際自分でも、あの当時、
もうちょっと注目していて
おかしくなかったのではないかと
若干思わないでもなかったりする。


でも、それにしても、
アルバムを聴いてみようということは
あの頃はほとんど考えてもみなかった。


それはたぶん、いや、間違いなく
このThe Riddleのインパクトが、


ちょっとどころではなく
強烈に過ぎたせいなのである。

このノリを40分前後は、
ちょっときついかな。


たぶんそれくらいに
考えていたのではないかと思う



いずれにせよこのThe Riddle、
とにかく不思議な曲だった。

一度耳にしたら
たぶん絶対に忘れられないのでは
ないだろうか、くらいに思う。


もっとも、同曲が与えてくれるものは、
感動とか、カッコよさとか、


あるいは訳もなく
はしゃぎたくなるような気分とか、

そういった、ポップ・ソングの
多くが有している種類の要素とは
全然、まったく違っている。


一言でいってしまえば、
異様さであろう。


なんとなく、ついこの前紹介した
ジャパンの音楽性にも通じそうな、

いや、それよりもさらに突き抜けた、
エキゾチズムともいうべき何かが
全編に渡って展開されているのである。


だから、聴いた瞬間から
そんなに流行るだろうとも
全然思わなかったのだけれど、


でも、とにかく曲名とこの
ニック・カーショウの名前は
一発で頭に入ってしまった。

なお、念のためだが実際は同曲、
英国では彼の自己最高位である


三位にまで上昇しており、
いまだに彼の代表曲となっている。


でもやっぱり、ポピュラーというか
ポップという感じは全然しない。

たぶんだから、
最初の立ち位置からして
何かが違っていたのだろう。


そしてこういうのが、
それこそさも当たり前のように


トップ3にまで
昇ってきてしまうところが、

あの頃の英国のチャートの
面白いところであったのだとも
そこはかとなく
思いもしたりはするのだが。


――まあとにかく。

このThe Riddleというタイトル、
いわずもがなだろうけれど、
謎なぞ、といった程度の意味である。

スネアというよりもむしろ
小太鼓といった方が
よほど似合いそうな
ドラミングのフェイド・インで開幕し、


すぐさまいきなり、
やや割ったギターが
異様な旋律を響かせてくる。


曲中執拗に繰り返される
このラインが
尋常ではなく奇妙に響く。

語彙が貧困で申し訳ないのだが
やはりエキゾチックとしか
形容のしようがない。


まさに、その極地みたいな感じ。

しかもこの曲、
ほとんど全編がこのラインだけで

できあがっているといっても
決して過言ではなかったりする。


もちろん若干の展開や、
あるいは小さなブリッジが
挟まれこそするのだけれど、


基本本当にこの箇所と同じ
パターンだけでできており、

また、それで正しいのだと思わせる、
それだけの力があるラインなのである。


以前取り上げたT.ツインズの
Hold Me Now(♭42)にも
通じるシンプルな強力さだと思う。



同時にリリクスの方も
この異様さを過不足なく補強する。

サビの箇所だけ
ほんの少し訳出してみる。



川のそばに一本の樹があって
そこには地面に穴が空いている


中ではアイルランド人の老人が
いったりきたりを繰り返している

まあ、全編こんな感じ。

ダブル・ミーニングは
多用されているし、
語順が倒置されている箇所もある。


かといって、メロディーの音数に、
合わせた結果だとも思えないのが
非常に不思議なところではある。

いずれにせよ、いわんとする
意味などまるでわからない。


でも、たぶん考える必要もない。

実際カーショウ本人、
この歌詞については
ほとんど何も考えずに書いたと
いっているようでもあるし、

それどころか、
レコード会社のディレクターから、


アルバム収録予定曲の中に
シングルにできる楽曲がないといわれ、


ほとんどその場で
一日かけずに書きあげたらしい。

それでこんなのできちゃうんだ。
しかも十分過ぎるほどのヒットに
ちゃんとなってるし。


ついそんなことを考えてしまう。

まあだからいわば、
まさしく曲そのものが、
それこそ謎みたいな
トラックだったりするのである。


ちなみにPVの方も、
やや予算不足の印象こそ
否めないではないのだが、


それでもずいぶんと頑張って、
この異様な雰囲気を、
どうにかして
映像に固定しようと試みている。


もちろん、特殊効果を見せるための
作品では決してないのだから、
そこは割り引かないとなあとも思うけれど。

いや、目をおおいたくなるほどの
ロウ・バジェットという訳では決してなく、


むしろセットも小物もそれなりに
予算はかけられているのだろうし、
やりたいことも十分にわかるのだけれど、


それでもこの世界感を表現するには、
やはりちょっとだけ安っぽい感触が
どうにも否めないのである。

さて、この方にはほかにも
もう一つ有名なトラックがあって、


いわゆる最初の
ブレイク・スルーとなったのが、


LIVE AIDSで披露された
Wouldn’t it be Good
(邦題:『恋はせつなく』)
なるトラックだった。

これがだから、
僕が知っているもう一曲である。


こちらはむしろシンプルに、
美しいと形容していい種類の
旋律を有する楽曲だった。


だからやはり、
このニック・カーショウなる人物、

ソングライターとして、
優れたセンスの
持ち主だったことは
間違いはないのだろうと思う。


その証拠という訳でもないが、
後年エルトン・ジョンが、
ギタリストとして随所で彼を起用し、


さらにDUET SONGSという作品では
パートナーの一人に彼を選んで
レコーディングを
実施しているようでもある。


なお、今回本稿を起こすにあたり、
多少調べてみたところ、


この方の作品を非常に高く
評価している文章に出会ったりもした。


そんな訳で、やっぱりちゃんと
アルバムをフルで
聴いておくべきだったかなあ、と

まあそんなような思いを
改めて強くしている
ところだったりもするのである。



では恒例の締めのトリビア。

今回御紹介のこのThe Riddle
実は93年初演の、我が国は

劇団キャラメルボックスの
『嵐になるまで待って』なる公演で


オープニング・テーマに
採用されているのだそう。


個人的には、このネタを見つけて
この曲で開幕する
舞台あるいは物語って、

いったいどんな雰囲気なのだろうと
ひとしきり頭を悩ませてしまった次第。


ちなみに同舞台、93年の初演時には
上川隆也さんが
キャスティングされていた模様です。


もう二十数年前の話ではありますが。