ブログラジオ ♯70 Everybody Have Fun Tonight | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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ワン・チャンという。

王貞治GMの現役時代のニック・ネームが
由来になっている訳では決してない。


Mosaic/Wang Chung

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まあつまらない冗談はさておくとして、
この一風どころでなく変わったバンド名、


大方お察しであろうかとも思われるけれど、
やはり中国語に由来しているのだそうである。

日本の漢字で書くと、
「黄鐘」となるのだそう。


そしてこれ、中国の音階の、
最初の音を意味する言葉なのだとのこと。


いやあ、そんなこと初めて知りました。

イギリスの方から
中国語を教わるなんてことも
まあこんな具合にある訳ですね。


なお、正確な発音に準ずれば
標記はハン・チャン(Huang Chung)と
なるのだそうで、


実際当初はこの彼らも、
スペルこそこのままではないとはいえ
大体このように名乗っていたそうである。

レコード会社だかマネージメントだかからの
アドヴァイスか何かがあって、


英語圏で発音しやすいよう、
HをWにしてしまったらしい。



さて、今回はなんだかしょっぱなから
トリビアみたいになって
しまったような気もするけれど、

このワン・チャン、
ワンといいながら二人組みである。


デュオという訳でもないけれど、
バンドともなかなか呼びがたい。


基本はギタリスト兼ヴォーカリストと、
ベーシストという組み合わせで、

実際一時期は、ドラムを加えた三人だったり、
さらにはサックス・プレイヤーが加入したりと、


バンドの形が整っていた期間も
一応なくはない模様である。
先述のようにバンド名も幾度か変えている。


だから、メンバーがまた抜けていって、
バンドから二人だけが残って、
活動を維持し続けていたというのが、
実情に近いのではないだろうかと思う。


そしてこのワン・チャンなのだが、
86年にこの4thアルバムMOSAICの
リード・シングルだった


Everybody Have Fun Tonightという曲が、
本当に、まったく突然に大ヒットする。


少なくとも個人的には
前も一度同じような言葉を使ったけれど、
それこそ彗星みたいな印象だった。

で、この曲がけっこう好みの音で、
それで慌ててアルバムを
聴いてみたという次第である。



結果的にはいわゆるONE HIT WONDER、
すなわち一発屋となってしまったと
形容するしかないだろうなとは思う。


厳密にいうならば、同曲に続いて
シングル・カットされたLet’s Goが9位、

さらにはその次のHypnotize Meも36位と
そこそこの成績を収めてはいるし、


このブレイクからやや遡った84年にも、
実は二曲のトップ40ヒットを
持っているらしい。


でもDance Hall Daysなんて曲、
全然記憶にないんだけれど。

しかもさらには、あの頃すごく
もてはやされていた、
ジョン・ヒューズ監督の85年の映画


『ブレックファスト・クラブ』のサントラにも
書き下ろしの新曲を、一曲だけだが
提供したりもいたりする。


だから、こうやって
改めてきちんと振り返ってみると、

少しずつ、でも着実に地歩を築いた上での、
あの大ヒットだったのだとも
どうやらいえるようではある。


ちなみにこの
『ブレックファスト・クラブ』なる映画の
サウンド・トラック盤は、


何よりもシンプル・マインズの
Don’t You(Forget About Me)を
世に出したという点で、
今なお大きな意義を持つ一枚である。

ただ、ほかのラインナップがあまり
魅力的には思えなかったので、
僕自身はこのサントラには手を出さなかった。


聴いていれば、たぶん名前くらいは
そこで覚えていたのではないかと思う。



しかしこのEverybody Have Fun~、
バングルズのEgyptianに阻まれて
ビルボードでの一位は逃してこそいるけれど、

キャッシュボックスでは新年をまたいで
三週一位をキープしているし、


しかもそのビルボードの87年の
年間チャートで12位にまで入っている。


発売は前年だったにも関わらず、である。

いったいどれだけ売れたんだ、と
改めて思ったりもしてしまう。



ただし、ここできっちり補足して
おかれなければならないのは、


この曲がこれだけの耳目を集めた背景には、
そのビデオ・クリップが
少なくないどころではない貢献を
はたしていたはずだという点である。


このビデオ、ゴドレイ&クレームという、
映像作家チームが手がけた一本である。


元10CCのメンバーだったこの二人もまた、
とりわけこの音楽ビデオの世界では、
あの頃本当に引っ張りダコだった。


ポリスのEvery Breath You Take以下の
アルバムSYNCHRONICITYからの三曲、

それからDDの問題のGirls on Filmや
ハービー・ハンコックのRock It、


後に紹介するつもりの、
フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドなる
ちょっと変わったバンドのTwo Tribesなど、


なんかおかしなことやってるな、と思うような
ビデオ作品の多くが、

当時は大体、このゴドレイ&クレームの
ディレクションによるものだった。



スティングのSet Them Freeでも
この方たち、ちょっと似たような、


つまり、基本演奏シーンなのに、
映像の加工の仕方で興味を煽るような
手法を採用しているのだけれど、

この時のワン・チャンのビデオは
もっと徹底していて、


全編がストップ・モーションで、
まるでパラパラマンガが
映像になっているような印象だった。


目に優しいとはとてもいえない。

実際アメリカでも、一部の局ではどうやら
放映禁止になっていたりもした模様である。


あのポケモンショックを
十年余り遡る時期の話である。



いずれにせよ、このMOSAICは
本当にいいアルバムだったと思う。

AB面各四曲で、全八曲。

バンド名とは裏腹に、
オリエンタルなサウンドを
目指している訳では決してない。


全編にギターが割りとシャープな、
カッティングの効いたプレイで鳴らし、

そこにブラスを中心にした華やかな音を
思い切りかぶせてくるようなスタイルを
得意としていたように思える。


やっぱり、ある種の
パーティー・ソングなのだと思う。


何も考えずにただ
明るくなってしまえばそれでいい感じ。
基本はそんな手触りが中心だった。

Everybody Have Fun~以下の
シングルになった計三曲はどれも、


この路線に則ったアップテンポの
ダンス・ナンバーだったのだけれども、


しっとりめのバラードのBetrayalや、
ワルツのリズムを採用した
A Fool and His Moneyなどの曲も

それなりに違和感なく、
全体の構成の中にはまり込んでいた。


そして圧巻はラストの
The World in Which We Liveなる
トラックで、これが実に
七分を越えてしまっている力作。


アフロっぽいビートを基本に、
なんともいえない不思議なスケール感を

ブラスやコーラスの導入で次第次第に、
終わりに近づくほどに盛り上げてくる。


アルバムの終幕に相応しいと思うし、
また、こういう場所でなければ
成立しない種類の楽曲だったとも思う。



まったく、なんで買っていないんだろうな。

何度か探して、次回のビートの作品と同様に
店頭ではついに見つけられなかったことは
おそらく確かではあるんだけどね。


まあ、今はネットもあることだし。
いずれそのうち。



なお、このワン・チャンは
89年に5thアルバムを発表するものの
こちらはセールス的にぱっとせず、
残念ながらそのまま解散してしまっている。

この作品は聴いていないので
本当はなんともいえないのだけれど、


曲名を見る限り
どれもがどことなく小難しいので、


このMOSAICの一番いいところだった、
どこかあっけらかんとした派手さ加減が、

上手く継承できなかったのかな、
などと、まあ勝手に想像している。



さて、今回はトリビアといってしまうと

些か語弊がありそうな
ネタになるのだけれど、

上で少しだけ触れた、
映画監督のジョン・ヒューズについて。


この方、監督業ばかりではなく、

『ホーム・アローン』や
『ベートーベン』といった

後にシリーズ化されることにもなる、
メジャーなコメディの、その一本目の
脚本を手がけていたりもなさる。



なるほどそういえば、確かにあの頃、
ずいぶんといろんな場面で
お名前を目にしていたような気もする。


それにしては近頃めっきり
お噂を聞かなくなったよなあ、などと
そこはかとなく思い始めかけたところ、

今回の諸々のウラ取りの中で、
09年に心不全のために
お亡くなりになってしまっていることがわかった。


享年59歳だったそうである。

しかも、ずいぶんと早くに
現場からは離れてしまっていたらしく、

91年の『カーリー・スー』なる
一本が遺作となってしまっている。


いわれてみれば同作、
タイトルだけは確かに聞いたことがある。


今度どこかで探して
ちゃんと観てみようかなと思っている。