『ジャージー・ボーイズ』 | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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こんなの、好物でないはずがない。

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フォー・シーズンズなる
アメリカのグループの歴史を素材にした
ジューク・ボックス・ミュージカルの
映画化である。



ジューク・ボックス・ミュージカルとは、
その作品のために
新たな楽曲を書き下ろすのではなく、


既存の音楽を使用することを前提に、
脚本の方を書き起こしていく
ミュージカルの一形式のことである。


アバを素材にした『マンマ・ミーア』が
たぶん今までのところ
一番代表的な例になるだろうか。


ほか、ビリー・ジョエルを扱った
『ムーヴィン・アウト』や


クイーンの『ウィ・ウィル・ロック・ユー』
EW&Fの『ホット・フィート』などが
挙がってくるだろうかと思われる。


とりわけ2000年代になってから、
この手の作品が増えているのは、


たぶん『アイ・アム・サム』のサントラが、
セールス的に予想外の成功を収めたことも、
絶対少なからず影響しているだろうと思う。


もっとも、同じビートルズを素材にして、
似たようなことをやろうとした作品は
『アクロス・ザ・ユニバース』を筆頭に、
ほぼ目も当てられないような出来なのだが。


さて、ところで上に挙げた作品例においては、
物語のプロットは、使用音楽の
オリジナルのアーティストとはほぼ関係がない。


『マンマ・ミーア』以外は未見だが、
『ウィ・ウィル・ロック・ユー』など
あの『1984』ばりの近未来SFであるらしい。


ところがこのJBミュージカルのスタイルと、
伝記映画とを組み合わせた作品が、
時折登場してくるのである。


ある意味では、この前ここで扱った
『キャデラック・レコード』や、
あるいはレイ・チャールズを取り上げて
J.フォックスの代表作となった『Ray』など、


原作となる舞台は存在しないものの、
目指しているところは同じだといえよう。


あるいはイギリスではボーイ・ジョージに、
彼の自伝を舞台化した
『タブー』という作品がある。

これも一回見てみたいな、と
ずいぶん前から思ってはいるのだが、
なかなかそういう手段がないままでいる。



そしていわずもがなのことだけれど、
とりわけこの手の作品群は、


音楽と、それからその作られた背景とが
絶妙なまでに絡み合ってくるので、
観ていて個人的にすごく楽しいのである。


さて、いつものように長い前置きだったけれど、
ようやくそろそろ本題である、
今回の『ジャージー・ボーイズ』の話に
入っていくことができそうである。


フォー・シーズンズなるバンドについては、
たぶん過去ここでも二回くらい
名前を出しているのではないかと思う。


SherryやBig Girls Don’t Cry辺りは、
たとえそれとは知らなかったとしても

たぶん誰でも一度ならず
どこかで耳にしているのではないかと思う。


バンドの紹介文等を改めて確認してみると、
ライチャス・ブラザーズと並んで、
ブルー・アイド・ソウルなるジャンルの
いわば草分け的存在であるとのこと。


なるほど確かにそういう音楽性かもしれない。

だからこんなの、
絶対に好物でないはずがないのである。



物語は大まかにいって、前半がバンドの形成と、
最初の頂点に至るまでのサクセス・ストーリー、


後半がグループの瓦解と、
それからとある代表曲の
誕生秘話という構成になっている。


ちょっとネタバレになるかも知れないけれど、
この代表曲というのが、あの
Can’t Take My Eyes off of You、
つまり『君の瞳に恋してる』なのである。


ま、僕らの世代はたぶん絶対知っている。

ボーイズ・タウン・ギャングなる
ユニットによるカヴァーを、
それこそ飽きるほど
耳にしているはずなのである。

当時のディスコ・シーンで、
一世を風靡したトラックである。



もうね、イントロだけですぐ
むずむずと踊り出したくなってくる。


さらにあの間奏のブラスが始まってしまえば、
最早制御など効かない。効くはずもない。

いや、僕は今ワープロ打ってるから
実際に踊り出したりはしないけれどね。



――本当だってば。


さて、ところで実はこの
同曲に関する作中のエピソードに関しては、

史実というか、本当の事実関係に比べると
やや大胆に時系列をいじってあるので、
ちょっと無理やり感がなくもない。


まあでも、面白ければそれでいいよね、
という気になってしまう。


別に本作はノン・フィクションだと
高らかに謳っている訳でもないからね。


それから、個人的に紳士的というか、
いわばアメリカ人らしからぬ
ある種のスノビズムみたいなものの
系譜にあるように捕らえていたこの彼らに、


実はこんな、ある種バンカラな
歴史があったのか、という
驚きみたいな発見があったことも本当である。



それにしてもこの作品の
ラストの演出の
なんと気が利いていることか。

端的にいうと、映画なのにちゃんと、
カーテンコールをやっているのである。


ちょっとインド映画みたいだけど、
やっぱり楽しいんだからそれでいい。


スポットライトを模した街灯の下での
四人によるSherryのアカペラから始まって、

December, 1963(Oh, What a Night)へと
間髪を容れずに雪崩れ込む。


絶対この曲は、ここまで
取っておいたに違いない。
物語そのものみたいな手触りである。



そして、この華やかな曲とともに、
キャストのそれぞれが

一番印象的だった衣裳で登場してきて、
ブロードウェイみたいな
ストリートで全員一緒に踊るのである。



こういう作品の幕引きに、
これほど相応しい演出はないだろう。


その直前のシークエンスの
台詞の割り振りも絶妙だったしりて、

さすがはクリント・イーストウッドだなあ、と
思いを新たにしたりもしたものである。



なお本作、原作が舞台である関係もあって、
キャストがカメラに向けて
いきなり語り始める演出が随所に出てくる。


違和感を感じられる向きもあろうかと思うが、
でもやっぱり、この手法でないと、

必要な情報量を、限られた時間で、
受け手に提供できないことも、
また同時に本当なのだろうと思う。


ミュージカルって、どうしても
音楽に尺を取らないとならない関係上、


こういうギリギリ説明に寄り過ぎる
演出に頼らざるを得なくなるのである。


以下、本作のスペック的なもの。

制作は昨年14年、
メガホンは上でも触れた通り、
ダーティ・ハリーことイーストウッド。


キャストはブロードウェイ版の
オリジナルを中心にして選ばれているので、

たぶんこの作品が、
スクリーン・デビューという面々が
少なくはないらしく、
馴染みのある名前はほぼ見当たらない。


ま、『レント』の時もそうだった。

だからイディナ・メンゼルは、
舞台の『レント』がデビュー作なんですよ。

そしてもちろん、その分歌がすごい。

いわずもがなだけれど、ほぼ、
舞台で実際歌っている面々なのである。



さて、そんな中でバンドを、
中でもシンガーのフランキーを

終始バックアップしているマフィアのボスに、
クリストファー・ウォーケンが扮している。


代表作は『ディア・ハンター』になるのかな。

名前は知らなくても、たぶん絶対、
どこかで顔を見ている役者さんだと思う。


このウォーケンが本当にはまり役だし、
若い俳優たちの演技を、
きっちりと引き締めている印象がある。


しかも、その彼がだから、
ラストでは皆と一緒になって
踊っているのである。


最初は半分笑いながら見ていたのだが、

ところがなんと、実はこのウォーケン、

元々のキャリアはダンサーから
スタートしたのだそうである。


――納得しました。

御年71歳。
むしろカッコいいほどの健脚ぶりで
いらっしゃいました。


ですから、最後はそこにも注目です。