ラジオエクストラ ♭40 Young Bloods | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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久々に、佐野元春さんである。

前回名前が出てきてしまったことと、
ほかにもちょっとした理由があって、
なんだか取り上げたくなってしまった。


Young Bloodsは今さらあえていうまでもない、
86年の、佐野元春最大のヒット曲なのだが、


今回はこちらのアルバムからの御紹介。

月と専制君主

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2011年一月に発表された、キャリア初の
セルフ・カヴァー・アルバムである。



VISITORSからSTONES AND EGGSまで
つまり80年代の後半から


前世紀の終わりまでにかけて
発表されてきたアルバムの中から、

佐野さん本人が全10曲をチョイスして、
いわば徹底的に化粧なおしを施して
全曲録音しなおされた作品集である。



不思議なことにSWEET 16やFRUIT、
あるいはTHE BARNといった
アルバムからの選曲はなかったりする。


逆にCAFÉ BOHEMIAからは
三曲もピック・アップされていたりする。

この辺り、個人的には極めて
興味深いものがあるのだけれど、
どうやらこの時佐野さんは、


今の時代にあえて届けたいと思えるような
リリクスを有していることを
主な着眼点としてセレクトされたらしい。


なるほど「クエスチョンズ」や
表題作となった「月と専制君主」辺りの
先鋭的な言葉遣いには、

確かに、むしろ今だからこそ
はっとさせられるものがある気もする。



さて、今回のYoung Bloodsもまた
CAFÉ BOHEMIAからの選曲である。


これ、原曲をよく知っている方ほど、
より一層驚かされるのではないかと思う。

この曲のラインが、これほどまでに
このタッチにはまるとは。


ウッドブロックと、それから
ギロでいいのだろうか、
擦るような独特の音が刻んでくるリズムに
純正のオルガンみたいな鍵盤が載ってくる。


だから雰囲気は、
まったくもってボサ・ノヴァのそれである。

でもリズムは決して、
ボサ・ノヴァ特有のパターンに
留まろうとはしていない。


それっぽい感じが出てくるのは
いわゆるAパートだけなのだが、


ここでもギターのパターンに、
ちょっとしたアレンジが効いていて、

このトラックを単純に
ボサノヴァと呼んでしまうことを
どうやら許してはくれないのである。


間奏からのフルートの導入、
オルガンに寄せた鍵盤のコードワーク。


終わり間際に登場してくる管のパターンは、
どうやらティミー・トーマスなる
アメリカのアーティストの

Why Can’t We Live Togetherという曲に
由来しているらしいのだけれど、
遺憾ながら僕自身は同曲は未聴。


ちょっとだけ思い出したのは、
むしろスタカンの
My Ever Changing Moodsだったりする。
ちょっと違うかもしれないが。



さて、アルバム『月と専制君主』の開幕は、
なんとモータウン・ビートに
すっかりモデル・チェンジしたJujuである。

バスドラのキックが刻むあのパターンは、
たぶん聴けばすぐ、ああ、これか、とわかる。


モロ、シュープリームスみたいなやつね。

そしてタイトル・トラックの
『月と専制君主』は6曲目の収録。

でもこれはいったいなんだろう?
ブラジリアン・サンバだろうか。


とにかく原曲とはだいぶ違うし、
手触りはむしろロックに近いのに、


COYOTE BANDとのステージで聴いた
スタイルともまたかなり異なっている。

これもまた、不思議な仕上がりといっていい。


基本的なコンセプトの性質上、
アルバム全体がどこか
レトロスペクティヴであることは
確かに否めないかもしれない。


むしろ徹底的に、
ノスタルジーを掻き立ててくる。

でもどの曲にも、原型にはなかった
新たな工夫が凝らされていて、
それぞれにサプライズを
演出してくれている。


結局のところ、さすが、と
唸るよりないのである。


なお、作中唯一のゲストとして、
デリコこと
LOVE PSYCHEDELICOのお二人が、

「彼女が自由に踊る時」に
参加していたりもするので、
その辺りも聴き所だろうと思われる。



また本作では、それまでの
すべての佐野作品には必ずあった、
曲名の英文標記がほぼ削除されている。


例外はC’mon一曲のみ。

VISITORSの名曲Sunday Morning Blueは
「日曜の朝の憂鬱」と
改題されてしまってさえいる。


だから本当は、今回の記事のタイトルも
ヤングブラッズというカナ表記が、
厳密には正しいのだということになる。


その辺りにも、この何年かの、
佐野さんのリリクスへの意識の変化が

否応なく現れているのかも
しれないな、とも思わされたりもする。


まあ、今日のところはこの辺で。


さて、では最後に、冒頭で触れた
ちょっとした理由というやつの種明かし。


年頭の挨拶でちらりと御案内した、
音楽関係のお仕事というのが、


実はやっぱり、佐野元春さんに関する
原稿だったりするのである。


タイトルはまだ控えるけれど、
今回は雑誌ではなく書籍――だと思う。

正式な告知が可能な状態になりましたら、
また改めてこの場で御案内いたします。


恐縮ですが、今しばらくお待ち下さい。


という訳で、レギュラー60本、
エクストラが今回40本目で

僕がこの企画を始めてから、
ちょうど100曲目のエア・プレイでした。



ちなみにこのエアは、
オン・エアのエアではちっともなくて、


むしろどちらかといえば、
エア・ギターの方の用法に近いかと。


お、ひょっとしてちょっと
上手いこといえたんじゃないか?


そうでもないか。