ラジオエクストラ ♭21 Driving | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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二回目の、EBTGこと、
エヴリシング・バット・ザ・ガールである。

彼らの出世作ともいえる87年のアルバム
THE LANGUAGE OF LIFEからのチョイス。


Language of Life/Everything But the Girl

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このアルバムもまた、名盤に数えられて
しかるべき完成度を誇っている。


以前紹介した通り(ブログラジオ #20)、
この二人の活動の本拠地は、
イギリスのチェリー・レッドという
インディーズ・レーベルだった。

にもかかわらずデビュー作のEDENから
僕自身もうすでに知っていた記憶があるから、


早くから日本のリスナーあるいは音楽関係者は、
このバンドに注目し、積極的に
紹介していたのだろうと思う。


その彼らが、大手メジャーと契約し、
満を持して発表したのがこの一枚だった。
アトランティックレコードからのリリースで、
ロスで録音されている。

改めて、非常にいいアルバムである。
彼らの最大の魅力である音の透明感が
本当に余すところなく表現されている。


全体に物静かなトーンを基調にしつつも、
トラックはどれも完成度が高く、
同時にヴァラエティーに富んでいる。


Me and Bobby Dなる、やや珍奇ともいうべき
タイトルを持つ楽曲の、
なんというのか、ちょっとこちらを
からかっているような手触りを持った
独特のサビも極めて印象に残る。

収録中唯一のカヴァー作品Take Meでは
ピアノがいい感じにリズムを作ってくる。


Meet Me in the Morningの
ちょっとアンニュイな感じや


あるいはタイトル・トラック
The Language of Lifeが醸し出す
どこか荒涼としたノスタルジーは、
やっぱりこの二人独特のものだと思う。

しかし改めてクレジット見て驚いたのだけれど、
この作品、あのマイケル・ブレッカーや
スタン・ゲッツが、それぞれ一曲ずつながら、
サックスを吹いていたりもするのである。


どちらもが当時からすでに、
重鎮といってもいいくらいだった
ジャズ/フュージョン界の大物である。


また、この二人の知名度にはやや劣るが、
ドラムは全編オマー・ハキムが叩いていて、
ベースにはジョン・パティトゥッチが
名前を連ねている。

さらにはジョー・サンプルが
タイトル・トラックでピアノを弾いている。


この辺り皆、ソロ・アルバムを
発表しているクラスのミュージシャンである。


自ずと当時のアトランティックの
力の入れようが察せられてくる。


確かに明らかに、この作品以前の
二人のアルバムのタッチとは、
一線を画す仕上がりになっている。


アレンジの面まで含めて、
楽曲が潜在的に持っていた力が、
極限にまで洗練されて立ち現われている。
そんな気がするのである。


完成度が極めて高い。
やっぱりそう表現するしかない。

本当にどの曲を聴いても、
美しさにため息が出てくる。
隅々にまで様々な注意が行き届いている。



それでもやっぱり特筆されておくべきは、
オープニングトラックである
このDrivingなのではないかと思う。


この曲が冒頭にあることで、
アルバム全体が、なんというか
きっちりと決まっている気がするのである。

ストリングスのような使い方で導入された、
たぶんコーラスを加工した不思議な音色で、
このトラック、ひいてはアルバムは幕を開ける。


メロディーラインの美しさはいうに及ばず、
随所に聴こえてくるコーラスも綺麗だし、
いわゆるミドルエイトの手触りも見事。


そしてそこに続いてマイケル・ブレッカーが
聴かせるテナー・サックスの短いソロが、
本当に切なげに響いてくる。


同曲のリリクスの内容は、
いつか恋人に別れを告げなければならないのだ
という覚悟を秘めた女性の視点から綴られている。


だけどもし貴方が呼んでくれるなら、
私は両輪が叶えられる限りの速さで、
車を飛ばして戻ってくるわ。


みたいな感じ。

いや、ドライヴという短い語で
すっきりと表現されている内容を
いい感じに日本語になおすのが、
これほど難しいものだとは。


詳しいことはほとんど何も語られてはいない。
リリクスそのものの分量も極めて少ない。
メロディーに載せるのに
必要最小限の言葉しかないといっていい。


それでも届いてくる、諦めや無念に似て、
それらとはまったく違う何か。
それがトラックの全体から
ひしひしと迫ってくる。

だから、こういうのにぶつかってしまうと、
改めて音楽ってすごいよなあ、と
半ばジェラシーに似た気持ちが起きてくるのを
禁じざるを得なくなるのである。


文字、あるいは文章だけでは、
決して手の届かないものがある。
その事実を痛切に突きつけられる。


まあこの二人の作品はたぶん、
また繰り返し取り上げるだろうと思う。


以下、まあついでながらの余談。

09年に『オールド・フレンズ』なる作品を上梓する際、
彼らの同名の曲からエピグラフを引用させて頂いた。


詳しいことは省くけれど、これが生憎
ジャスラックさんの管理楽曲ではなかったので、
当時の担当がバンドと直接コンタクトを取ってくれた。

ベン・ワットは快く了承してくれたのみならず、
自分の作品がそんなふうな形で、
日本という遠い国にいる物書きに
ある種の影響を及ぼしたことを、
とても喜んでくれたそうである。


こちらこそ、という感じである。
本当に光栄な話である。


もっとも、彼が僕の名前まで、
覚えてくれているかどうかは
残念ながら定かではないのだけれど。