ラジオエクストラ ♭3 Be Near Me | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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ABCである。この前はWhen Smokey Singsを取り上げた。
実はあの時も、こっちとどっちにしようか相当迷ったのである。

いい曲である。このタッチが一番、マーティン・フライの
ヴォーカル・スタイルに合っているような気がする。

収録は彼らの3rdアルバムであるHow to be a Zillionaire。
このタイトルのZillionはたぶん造語。
いや、数学の世界ではひょっとして使うのかもしれないけれど
あえて訳せば無量大数万長者になる方法とでも
いったような意味になるだろうかと思われる。
ちなみに百万長者になる方法という、なんだか一見
自己啓発書の題名みたいなタイトルのトラックが、
同作の7曲目に収録されてはいる。
ただのタイトル・トラック的な扱いにしないところに
このバンドの、あるいはマーティン・フライなる人物の
遊び心のようなものをひしと感じざるを得ない。

当時バンドは四人編成だった。マーティンとマークのほかに、
ちょっと変わったベーシストと女性のドラマーとを迎えていた。
残念ながらこの編成がどのくらい維持されていたのかは不明。
ステージや、あるいはツアーが敢行されたのかどうかも
はっきりとはわからない。
ただ、アルバムのプロモーションのために作成された
幾つかのビデオ素材では、この二人の姿を
どうやら確認することができる。
ベースのデイヴィッドはかなり小柄で、
逆に紅一点のイーデンはメンバーの中で一番身長が高い。
おそらくそういうところも狙って、マーティンたちは
メンバーのオーディションを行っていたのに違いないと思う。

だからたぶん彼はこの時、いわば御伽の国のロック・バンド
みたいな感じに自分たちを演出したかったのではないかと
そんなふうに感じるのである。
実際Be Near MeのPVで四人が身につけている衣裳は
まさにそんな印象だし、それどころか続いて製作された
How to be a Millionaireのそれでは、メンバーの四人が
四人ともカートゥーンになってさえいるのである。
そういう非現実性を、バンドのパフォーマンスという形で
この人たちは現前させたかったんじゃないのかな、
と思ったりするのである。

だが悲しいことに、残念ながらこの編成も長くはもたなかった。
同アルバムのB面の頭に収録されているのはA-Zという楽曲で、
おそらくはライヴで演奏されることを前提に、その歌詞には
メンバー各々の自己紹介が織り込まれてもいるのだけれど、
そんな茶目っ気も、今となっては
単に虚しく響いてきてしまうだけである。
アルバムの完成度が高いだけになおさらである。

Be Near Meは、タイトルからすぐ察せられるように
極めてシンプルでストレートなラヴ・ソングである。
だが決して甘ったるいだけではない。むしろ
バンドのセンスによってスタイリッシュに洗練されている。
ほかにもこのアルバムは本当に佳曲揃いだし、
いや、それをいうなら2ndアルバムのBeauty Stabだって、
突出したキャッチーさを誇るトラックの有無という点で
本作やあるいはデビュー作に一歩譲ることは認めたとしても、
アルバムの構成としてはむしろ三枚の中でも出色のできで、
だからとにかく80年代のABCには、実は一曲たりとも
外れがないと断言してもかまわないくらいなのである。
機会があれば、是非。

How to Be a Zillionaire/ABC

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