ブログラジオ ♯18 Video Killed the Radio Star | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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紹介がやや遅過ぎた感もあるが、バグルズである。
80年代を語ろうとすれば、おそらくこのグループを
避けて通ることは決して叶わない。
後にそれぞれ押しも押されぬ地位を築くことになる
トレヴァー・ホーンとジェフ・ダウンズの
二人を含む三人組である。
もっともギターにクレジットされている
ブルース・ウーリィなる人物については、
申し訳ないが僕はよく知らない。

ビデオクリップ、あるいはプロモーションビデオと呼ばれる
レコード会社の宣伝ツールは、おそらくその起源を
ビートルズにまで遡るといっていい。
とりわけアメリカではなかなかテレビ出演することまで
簡単には敵わなかった彼らが、自分たちの映像を
局に送りつけたことから始まる
――のではないかと思う。
正式にそう断言している資料は残念ながら見ていない。
だがそれでも、彼ら以降そんなものを制作する、
あるいは制作してもらえるアーティストは
しばらくの間ほぼ皆無だった。
今のようにネットなどない時代だから、映像作品を作っても
オンエアされる、つまり人の目に触れる機会を得ることが
そもそもひどく難しかったからである。
レコーディングさえ、ただでは決してできない。
映像にはそれ以上の予算が必要になる。
費用対効果は常に検討されるものである。

とにかくである。ビデオがラジオ・スターを殺した、
という一見奇妙なタイトルを持ったこの曲は
そういった時代背景の中にあたかも爆弾のように投下された。
今でこそ、シングルにはほとんどプロモーション用の
映像作品が付随して作られる時代になっているけれど、
80年前後というのは、まだその黎明期だったのである。
嗅覚の鋭いボウイ辺りは70年代末からすでに
自分の手法として取り込むことを始めていたけれど、
決して一般的ではなかった。
おそらくマイケル・ジャクソンが、あのThrillerの
異常なほどの衝撃で一気にこのメディアの可能性を
極限まで切り開いてしまうまでは。

ピアノを模した鍵盤の
印象的な分散和音で開幕するこの曲は、
ところが滑り込んでくるホーンの加工されたヴォーカルで
冒頭からいきなり聴くものに強烈なインパクトを与えてくる。
そしてあの印象的な女性コーラス。
まるでコミックソングすれすれの手触りである。
なのにどこか物悲しい。
キーボードのバッキングも創意に富んでいるし、
リズム隊の匙加減もばっちり。特に後半、
冒頭と同様再びドラムとベースが抜けた編成で
曲が展開する部分が、ドラマチックで素晴らしい。

しかも、この曲にもちゃんとクリップが
制作されているところが、
なんだか自虐的というか、メタ・フィクショナルというか
なんともいいようのない所感を抱かせてくれる。
この曲については後年幾つかの
カヴァー・ヴァージョンを
一度ならず耳にもしたけれど、
そのどれもが到底原曲に叶うものではなかった。
登場した時からすでにポップ・ミュージックの
歴史の一コマだったのだから、
まあ当然といえば当然だろう。


では恒例のトリビア。
トレヴァー・ホーンは後にZTTなるレーベルを
自身で立ち上げ、プロデューサーとして
フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドや
アート・オブ・ノイズなどをヒットさせ、
80年代のテクノポップ・シーンの立役者の一人となる。
一方のジェフ・ダウンズは、
イエスのハウと結成したエイジアを
紆余曲折どころではない波に揉まれながら
ほぼ一人で担って今なお存続させ続けている。
そのメンバーの豪華さから話題性の先行した
デビュー・シングルHeat of the Momentほどの
ヒットには残念ながら恵まれてはいないけれど、
それでも放り出してしまわない姿勢は、
ものすごく立派だと思う。


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