ブログラジオ ♯16 We Love You | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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通称OMD、正式名称を
オーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダーク
という。強いて訳せば、暗闇の中の管弦楽的戦略。
なんじゃそりゃ、と僕もそう思いました。

おそらく彼らの一番有名な曲はというと、
まず間違いなくENOLA GAYになる。
代表作ではない。あくまで知名度という観点からである。

エノラ・ゲイというのは、知っている人には
説明するまでもないだろうが、
広島に原子爆弾を投下したB29のことである。
機種名ではなく、名前、固有名詞。
船でいうなら、タイタニックとか、QEⅡとかみたいな感じ。
まあ厳密にはちょっと違うとも思うけれど。
とにかくだから、まさにこの名で呼ばれていた機体が、
あの悲劇の直接の引き金を引いたということになる。

テーマと裏腹に曲調はひどく明るい。
だがもちろん、リリクスは
その行為を賛美するようなものでは決してない。
それでもやはり、僕ら日本人には素直に享受することの
ひどく難しい種類のモチーフだった。
実際まだ高校生かそのくらいにこの曲を知った僕自身、
その音楽の新しさを十分に評価しながら、
後ろめたさとかある種の引け目のようなものを
同時に感じざるを得なかった。

まあそれはさておき。
この手の、いわばポップスとは到底相性のよくなさそうな
モチーフをトラックの要として採用するという
ちょっと他に類例のないアプローチは、
やがてOMDのお家芸みたいなものになる。
ある時はジャンヌ・ダルクの生涯を歌にし、
また、生贄の子羊を意味するアグヌス・デイという
タイトルで曲を書いたりもしている。
下で言及するシュガー・タックスは、
アメリカの独立戦争の発端となった砂糖税のことだし。

さて、その彼らの傑作アルバムが、
86年発表のThe Pacific Age。
全曲捨て曲なし。アルバムとしての構成も見事。
いわゆるエレクトロ・ポップの到達点の一つだとすら思う。
あるいは彼らの場合は、テクノ・ミュージックといった方が
より相応しいかもしれないけれど。
実際このアルバム2曲目収録の(Forever)Live and Dieは
あの『プリティ・イン・ピンク』の
サントラに採用されたIf You Leaveと並んで、
バンド史上最大のヒットとなっているはず。
ミディアム・テンポの非常に美しいナンバーである。

さらにすごいなと思うのは、彼らがこの当時すでに、
サンプリングの走りみたいなことを
極めてユニークなやり方で試みているという点である。
しかもその素材が、あのキング牧師のスピーチだったりする。
六曲目に収録のSouthernというトラックで聴ける。
残念ながらあの有名なI have a dreamの
部分は出てこないのだけれど、熱気は十分に伝わってくる。
ちなみにこの手法は、次のアルバムSugar Tax収録の
APPOLLO XIというトラックで一つの完成を見ることになる。
こちらでサンプリングされているのは、
人類初の月面着陸を寿ぐJFKのスピーチである。
これ、本当に面白いです。もし興味が湧いたら、是非。

さて、その名盤The Pacific Ageの
いわばハイライト・トラックが
このWe Love Youである。ラス前の収録。
能天気という言葉が相応しいようなリズムを、
開幕からいきなりキーボードが畳み掛けてくる。
まさしくポップ、すなわちはじけるという形容こそが
一番相応しいような一曲である。
サビのメロディーもシンプルで心に残る。

もう少しヴォーカルに声量か、
あるいは個性があれば、もっとすごいグループに
なっていたんじゃないかなあ、なんてことを
たまに思わないでもないけれど。
それでもThe Pacific AgeとSugar Taxとの二枚は
今でも時々引っ張り出して聴いている。


ではトリビア。
エノラ・ゲイが広島なら、
長崎のそれはボックス・カーという。
これ、僕はこのブログの最初に紹介した
たがみよしひささんのマンガから教わりました。
軽シンです。もっとも内容は、
あの戦争とは全然関係のないものなので、念のため。


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