ブログラジオ ♯13 Everybody Wants to Rule the World | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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――誰もが世界を支配したがっている。
すげえタイトル。最初にまずそう思いました。
しかもですね、この後半の部分、デモテープの段階では
実はDo the Warだったなんて話もまことしやかに届いてきて、
いやさすがにそれはオンエアできないから
フォノグラムも許可出さなかったんだろうな、なんてことを
考えたりもしたものでした。

ティアーズ・フォー・フィアーズという。以下TFF。
ローランド・オーザバルとカート・スミスの二人組み。
どちらが音楽的な主導権をとっていたのかはよくわからない。
声質もよく似ていて、コーラスなど綺麗にはまる。
バイオグラフィーによれば、二人とも離婚家庭の出身だそうで
ある意味ではそんな部分でも支えあえた。
いいコンビだったんだろうなとも思う。
いや、もちろんこれも単なる僕の想像に過ぎないのだけれど。

当時はたぶんまだオルタナティヴ・ロックなんて
言葉はなかったのではないかと思う。
おそらくはその先駆けとして位置づけられるべき
幾つかの重要なバンドのうちの一つである。
もっともオルタナがコマーシャルの反意語だとしたら、
あまり頷いてはもらえないかもしれないけれど。

二人の唱法や旋律には、やはり黒人音楽の影響が色濃い。
だが彼らが引き出そうとしているのは、
ジャズやソウル、あるいはファンクといった
ある種表面的なスタイルの部分に留まらない、
むしろゴスペルにまで遡る
宗教的と形容してもいい種類の、祈りにも似た
エッセンスだったのではないかと思っている。

だからなのか、彼らの音楽は時にひどく重たい。
深いところまで届いてきて、正直聴いているだけで
多少の疲弊を覚えてしまうようなこともある。
Shoutがそうだし、Woman in Chainsにも
似たような手触りがある。
だから彼らのアルバムを引っ張り出す時には、
どこかで身構えなければならないような気持ちになる。
少しでいいから手加減してよ、そんなふうに感じるのである。

81年のデビューからカート・スミスの脱退まで9年。
この間彼らが発表したアルバムはわずかに三枚のみである。
そのどれもが水準以上の完成度であることは
確実に間違いがないのだけれど、やはり傑作は
ラストアルバムともいうべきThe Seeds of Love。
タイトルトラックも、サイケデリックなアプローチが
曲のテーマと相俟って、巧妙に成功していて見事。
だが個人的なフェイヴァリット・トラックはこちら。
セカンドアルバムShoutからの二枚目のシングル。

イントロの透明感のあるギターがかっこいい。
鍵盤のシンプルなコードワークが決まっている。
歌詞もクール、サビのメロディーの展開なんてもうさすが。
何よりも、ロッカ・バラードの印象的なリズムが
こんなにユニークな形で成功してるトラックを
寡聞にして僕は知らない。

些か野暮だとは思うのだけれど、一応補足。
ロッカ・バラードとは、本質はいわゆる四拍子なのだが、
その一拍一拍を三連符で刻むスタイルのこと。
いわゆるワルツのリズムに近いし、
八分の六拍子ともよく似ている。
大体の場合は、上までいってまた下がってくる、
シンプルなアルペジオでこのリズムをキープすることによって
曲全体のイメージを作り出していることが多いのだけれど、
もちろんTFFはそんな安直なことはしていない。


ではトリビアのご紹介
TFFとして単身次のアルバムを完成することを余儀なくされた
ローランド・オーザバルは、極短期間ではあるけれど、
ジョニー・パニック・アンド・ザ・バイブル・オブ・ドリームズ
というプロジェクト名を自身の作品に採用している。
これ、イギリスのシルヴィア・プラースという
女流作家が残した唯一の作品集のタイトルなのである。
同名の一編も確かあったはず。
だからレコード・ショップでこのフレーズを見た時、
あれ、なんで、とすごく思った。
うろ覚えで申し訳ないのだが、彼女はデビュー数年で、
ガス・オーヴン機に頭を突っ込むという壮絶な方法で、
自らの命を断ってしまっているのである。
そういう訳だからもちろん残した作品の数は少ないし、
評価に関しても決してずば抜けて高かった訳ではない。
言葉は悪いが、当時からすでにもう
いずれ忘れ去られて然るべき種類の作家だった。
何故だか僕は、まあ大学の専攻の関係もあったのだが、
一応翻訳で読んでこそいたのだけれど、
今となっては内容もほとんど覚えてはいない。
ただその強烈な死に様と、
奇怪ともいうべき異様なタイトルばかりが
どうにも拭いがたく記憶に貼りついているのみである。




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