烏帽子岳~三国岳~ダイラの頭 周回ルート地獄変 | 強化人間331のブログ

強化人間331のブログ

サイボーグである強化人間331の、つれづれ山行記録。
さしておもしろくもないのは、ご愛嬌。

なんか日付飛んでない?

 

前回感動の(?)フィナーレを迎えた仙塩尾根編がようやく終わりました。前回記事の日付はシルバーウィークとか言っていたのですが、本記録は11月12日のものとなります。

 

もちろんその間まったく山へ行っていなかったわけではなくて、御池岳やら池田山やらへはせ参じてはいました。ただあまり野心的なルートでもないし、もはや記憶も風化しているため、それらは割愛。一気に日付が飛んだというわけであります。

 

管を巻いていると永遠に進まないので、早速詳細を下記にて記載しておきます。ちょっとネタバレしておくと、今回はかなり往生しました……。

時山バンガロー登山口~烏帽子岳~三国岳分岐~バリルートピーク分岐点~奥山~林道着地~滋賀県側三国岳登山口~五僧峠稜線合流~阿蘇谷沿いにドロップ(失敗)~稜線へ復帰~ダイラの頭~時山バンガロー登山口(車回収)

 

日時 2023年11月12日(日曜日) 

天候 曇り のちに土砂降り

メンバー 強化人間331(単独)

装備 軽量化装備(調理器具、雨具、食料、非常食、水3リットル)

距離 約17キロメートル

推定累積標高差 1,300メートル

所要時間 8時間45分(うち昼休憩30分、その他小休止含む)

備考 既踏破ルート(ただしバリルートを積極的に選択)

 

1 鈴鹿解禁!

11月12日、さすがにもうヤマヒルは大丈夫でしょう。これよりも前にヒルが多いとされる御池岳へも登っており、その際は影すら見られませんでした。
 
岐阜県時山の阿蘇谷(あんぞたに)は鈴鹿山脈のなかでも有数のヤマヒル産出地であります。生息密度は計測不能、無限大とすらいえる。夏場に足を踏み入れれば全身に食いつかれ、失血死すらありうるという魔境ですね。
 
当初の予定では阿蘇谷を使って下山する予定でしたので、11月まで待つという十分なバッファを設け、満を持して突入というわけです。まあ結果的に阿蘇谷は使わなかったんですけどね……。
 
ところでしれっと装備は軽量化してしまいました。テント泊装備はやめました。その理由としてはアホらしいのももちろんあるんですけど、左足が成人偏平足と診断されたからです。体重をかけると痛み出し、これが慢性化しているのですね。
 
本来であれば山へ行かず保存療法とすべきなんですが、ちょっとした痛み以外に実害もないので、結局山へ入ってしまう。せめて負担を和らげようという意図で、装備が軽量化されたわけです。これもう快適すぎて、仮に成人偏平足が治ってもこのままでしょうね。軽量化装備もあかんわ、軽すぎるもん! →鎌倉ハムさんもあかんわ、うますぎるもん!
10:15、時山バンガロー近辺の道路に路駐して出発です。おそらく登山者のためのスペースなのでしょう、バンガロー手前には停めてくれといわんばかりに道路が拡張してあります。
 
ただワタクシ、2年ほど前に交通事故を起こしたことがあって、その絡みでもうこれ以上絶対に、行政罰を受けたくないのですね(いろいろありましたが計120万円実費での出費、保険グレードダダ下がり、2か月の免停というすさまじいロスでした。詳述は避けますが、相手はほぼ無傷でコレですからね……)。
 
ですから路駐のようなグレーゾーンな行動は極力避けたいわけです。帰ってきたらフロントガラスに駐禁のシールが貼られていやしないか、登山中ずっと気になりっぱなしで精神衛生上、たいへんよろしくない。
 
実際駐禁シールを貼られた実績があるのが、三重県の国道306号線のふもとです(黄金大橋のあたり)。306号線は冬季通行止めになるので、冬は登山者のみなさんがふもとにジャンジャン停めてらっしゃるのですね。わたしもそうした輩の一人だったのですが、下山すると警察車両が何台も押っ取り刀で駆けつけてるじゃないですか! 近隣住民から通報があり、違法駐車として一斉検挙という顛末でした。
 
わたしはこのとき、怒髪天を衝くほどの怒りを覚えました。306号線は冬季通行止めですから、駐車車両は誰の邪魔にもならない無害な代物だったはず(もちろんど真ん中とかではなく、端っこに寄せて停めてました)。それを近隣住民とやらは面白半分で通報しやがったのですよ。わたしはよっぽど黄金大橋周辺の住宅に片っ端から押しかけて、全員、皆殺し(by明稜帝 梧桐勢十郎)にしてやろうかと思いました。
 
そりゃわれわれ登山者は道交法違反だったかもしれませんが、法律とは本来国民の生活を豊かにするためにあるものでしょ。誰にも迷惑をかけていない登山者車両を一網打尽にして、なにが楽しいのでしょうか。性根が腐ってやがるとしか思えない。絶対! わたしは絶対通報者を許しませんよ。いつか特定して、メッタメタにしごうしゃげたる!
しょっぱなから愚痴ですいません。時山バンガローから烏帽子岳を目指す場合は、かなり明瞭な登山道が通されています。基本的には脳死状態で尾根を辿っていけばOK。
山頂直下にはけっこう密度の高い藪が。強引に押し倒して進みます。
烏帽子岳へは狗留孫岳方面からも登れます。この合流地点を抜けてさらに歩けば、
はい、11:30、地味な烏帽子岳(865メートル)登頂であります。
山頂は木々に囲まれてそれほど眺望がよいわけではありません。鈴鹿北部でもトップクラスに地味な山でしょうね。
 
ここで白状すれば、そもそもワタクシ烏帽子岳に登るつもりはありませんでした。下記地形図を見てください、三国岳へのルートは烏帽子岳を経由していませんので、本当は手前(図の赤丸ポイント)で南西へシフトせねばなりませんでした。
ただ分岐点が小ピークで直角に振っているのと、烏帽子岳へのルートはそのまま主脈を東へ直進という特性上、よほど意識していないと分岐を見落とすこと必定。案の定見落とし、意図せず烏帽子岳を登頂したという顛末でござい。
11:45、分岐点まで戻ってきました。鈴鹿北部の指導標はご覧の通りそっけない代物が多く、朝明渓谷界隈のゴージャスなものを期待してはいけません。これは見落としますわ。
 
烏帽子岳~三国岳間のルートは〈山と高原地図〉で破線になっており、その判断はおおむね合っています。尾根は全体的に痩せていて歩きづらく、一見南西へ一直線に伸びている稜線もふたを開ければ、細かく小ピークを乗り越すため支尾根へ迷い込みやすい。ペナントは潤沢に巻かれているので、小ピークに詰め上げるたびに進行方向を確認しましょう。ペナントを脳死でトレースすれば大丈夫です。
天候はイマイチですが、紅葉も最盛期を迎えておりました。豊田市に紅葉の時期に桜が咲くというスポットがあるらしく、桜好きの彼女がそこへ行きたい! と強く主張していたのを思い出します。忙しいとかで結局果たせませんでしたが。
 
忙しいゆうても、なんやかや自己都合なんですよね、あの人の場合。習い事の三味線があるとか、そういうレベルなわけです。そんなモンわたしだって山へ行きたいけれど、いろいろ予定調整してやりくりしてんねん。表面上は「土日どちらも空いてるから都合のよい日で会おう」と言ってましたけどね。
 
なんつーか、あの人は結局結婚を真剣に考えてなかったんとちがうかなあ。これから生涯をともにする伴侶になる可能性があるのに、会う頻度はせいぜい2週に1度くらいでした。もちろん全部彼女都合でそうなってたのですね。わたしの都合が悪くて会えないと言ったことは一度もありません。本当は都合が悪いこともあったけど、予定を繰り上げて時間を作っていたのであります。将来を考える相手であれば、それくらいやって当然ではないですか?
 

まあいいです。わたしだけ一人で空回りしていたのでしょうね。今回のことで学んだのは①30歳をすぎても実家にいるような女はあかん、②家族全員がドロドロに癒着しているべっこう飴一家はあかん、③良家の子女はあかん、くらいでしょうか。

 

①のエピソードをひとつ。彼女と遊んでいると、19:00ごろを目安にやたらと電話がかかってくるケースがよくありました。相手は誰だと思いますか? 当然母親です。もう夜も遅いから帰ってきさない、ということらしい。3歳ならわかりますが、30歳ですよ。親離れ、子離れできてない典型的なケースです(彼女も親が心配するから……と言ってすぐに帰ってしまいました)。

 

②について、これだけは言っておきたい。相手が無職とかギャンブル狂とかでない限り、30歳にもなった娘の彼氏にいちゃもんをつける親、というのは果たしてまともなのでしょうか。率直に言ってわたしは毒親だと思います。娘の幸せを口実に、下賤な人間を一族に迎え入れたくないという自分たちの要望が透けて見えますよね。

 

今回破談になったのはわたしの経歴以外にも、父親に瑕疵があったのも大きかった。触りがあるので詳述は避けますが、確かに(身内びいき視点を除去すれば)十分忌避案件になりかねないほどの瑕疵です。とはいえ絶縁という解決方法はあるし、実際にそれを提案しさえしました。それでもダメでしたけどね。

 

ですがそんな父親は、兄弟たち(わたし以外に3人もいます)の結婚についてなにひとつ、反対などしませんでした(もちろん母親も同様です)。「選んだ相手と結婚したらええ。それが子どもにとって一番の幸せや」というスタンスなのですね。

 

最近妹が結婚したのですが、その相手はまあ、ちょっとどうなのかなというタイプの男性だとわたしは思ってました。もちろん両親は反対しなかったけれど、内心大丈夫かなと心配はしていたのですね。

 

ここ最近、妹夫妻と差し向かいで話す機会がありまして、そこで義弟と初めて長いこと話しました。わたしはすぐに自分を恥じることとなります。見た目でDQNみたいなやつだと差別していたのですが、実態はまこと礼儀正しく気持ちのよい男だったのです。妹と両親はそれを正しく見抜いていたのですね。己の不見識を反省するばかりです。

 

負け惜しみだ、負け犬の遠吠えだと思われるのを覚悟で書きます。彼女の両親は人間性において、うちの両親にはるかに劣っています。話し合いの席を設けることすらせず、経歴や家族の瑕疵だけで娘の恋人をこき下ろす人びとと、差別をせずにきちんと相対し、フェアに相手を見るうちの両親。そんなモン、どちらに軍配が上がるかなんて考えるまでもありません。

 

彼女の家族はみんな一流大卒らしく、父上どころか祖父まで大卒なのだそうです(たぶん旧帝大)。それ自体はホンマにすごい。わたしなんて100回死んでも入れないでしょうよ。ただ賢さと引き換えに人間性を失ってしまったら、それはとても悲しいことではないでしょうか。

 

わたしは低学歴のアホですけど、もし自分に娘がいて彼氏を連れてきたら、どんな男でも反対はしないと思います。わたしの父がそうしたようにね。自分たちの育て方に間違いがなければ、娘の選んだ男がベストな選択になるはずです。それを否定するということは、自分たちの育て方が間違っていたのだと認めるのに等しい。まあ実際わたしは低スペ人材ですから、そうした意味で彼女とその両親の選択は(今回は)正しかったのかもしれません。

つまらない話が長引きました(お前のブログ、いつもつまらん話長引いてんな……)。今年は色づきがイマイチで、ちょっと寂しかったですね。写真だとくすんで見えるけれど、現場はもうちょっと色鮮やかでした。

三国岳へ詰め上げる手前はかなりの急登です。急登というかもはや崖に近い。等高線も目詰まりを起こしていて、そのすさまじさが読み取れます。登りはまだよいけれど、逆回りの際は慎重に。

12:40、三国岳(894メートル)着。山名とは裏腹に、まあこの山は地味ですね。木々に囲まれて眺望は皆無、直登ルートがないせいでほぼ誰も登っておらず、隔絶感もすごい。
 
実際この山を登ったことのある山屋がどれほどいるのか、非常に疑問です。いまでこそバリルートや滋賀県側へいったん降りるという強引な手法を採用して、烏帽子岳や三国岳を絡めた周回ルートを構築するようになりましたが、そうでないピストンの場合、岐阜県側からは三国岳は遠すぎるし、鞍掛峠から登るにしても、対岸のゴージャスな鈴北岳を蹴ってまで本峰に登るインセンティヴは湧きづらい。まさに不遇の山であります。
 
さて三国岳からは比較的道がよくなります。鞍掛峠から本峰を目指す登山者がわずかながらいるためでしょう。いったんV字に100~150メートルほど標高を下げてから、登りが再び始まります。登り切った先の無名の小ピークが、今回の目玉であるバリルートの分岐点となります。せっかくなので詳述しましょう。
そもそもなぜ登山道外の尾根を歩くのか? 上記地形図を見れば一目瞭然ですね。明らかに尾根を下ったほうがショートカットになるのです。尾根も顕著だし、比較的歩きやすそう……という想定のもと、数年前に一度歩いたことがありました。
 
結果は惨敗。あちこちに密生した馬酔木が進路を阻み、まともに歩くことすらできませんでした。ただところどころペナントが巻いてあったので、すでに先人が開拓しているはず。もっと慎重に歩けば藪を回避できたのでは……? そう考え今回リトライを決行したわけです。どうなりますやら。
 
その前にお腹がすきましたので、13:20、無名の小ピークでランチとしました。この日は11月上旬なのにもかかわらずかなり冷え込んでいて、吹きすさぶ冷風は耐え難いほど。尾根から若干外れた山腹に位置取り、体温低下を避けます。13:50、腹ごしらえを終えて出発です。
序盤は快適に歩けます。尾根も顕著で辿りやすい。支尾根が多いので迷い込まないように。
ザクⅡ(ザクザクと読んでください。同じネタを何度も使うなや!)歩いていると、すぐに馬酔木の群落にぶち当たります。一見踏破不可能のように見えますが、注意深く観察すると南側に青いペナントが巻いてあるのに気づくはず。それにしたがってトラバースしてください。藪を見事回避できるでしょう。
さらに下っていくと、一時的に踏み跡が顕著になります。木々にマーキングしてあるし、おそらく林業の現場なのでしょう。ここまで下ってきて、さああとはもう楽勝だと思うのは早合点であります。
 
またぞろすさまじい藪ゾーンが再び出現しますのでね。ここもよく現場を観察すれば青いペナントが南側に巻くようにつけられており、それにしたがっていけば難なく馬酔木の要塞を突破できます。その途中に、
奥山(780メートル)なるピークがありますね。ワタクシこの銘板を見た瞬間、全身の血の気がいっせいに引いていくのを実感しました。いったい誰がこれを設置したのでしょうか? まったく山屋というのは汎神論の神さまみたいなものです。すなわち、「山屋は森羅万象に宿る」。この世の中のピークというピークはすでに、誰かしらに踏まれているのでしょうか……。
終盤は藪こそ鳴りを潜めるものの、やたらと支尾根が分岐しているので迷い込まないように。ここまで来たらどの尾根を辿っても最終的に、林道か国道へ出るので大丈夫かとは思いますが、地形図を見ると一部、最下部が崖になっていることもあるようです(特に国道へつながる尾根は要注意)。
最下部のあたりは尾根の幅が広く、踏み跡も消失、切り倒された樹木が放置されたこの世の果てのような雰囲気です。ここまで来ればもう適当に下ってしまってOK。沢を渡渉し、対岸の林道に這いがってください。15:30、林道に着地。メモには「最後まで気を抜けない、かなりハード」とありました。
 
出発が13:50ですので、なんと300~400メートル程度下るのに1時間40分もかかっています。これは……下手をすると鞍掛峠からの正規ルートのほうが早いのでは? 地図を再掲します。
うん、これくらいの遠回りなら1時間程度で行けるでしょう。今回の尾根は一応開拓されているので立ち往生するようなことはないですが、あまりお勧めしません。通常ルートに飽きた通向け。行かれる際はGPSをおともにどうぞ。
しばらくは林道をテクります。なにも考えずに歩ける、数少ない癒しの時間ですね。
 
さて15:45、滋賀県側の三国岳登山口に着きました。指導標などはいっさいなく、色あせた火の用心の幟が突き刺さっているだけですので、ロストしないように。このルートは〈山と高原地図〉にも実線で記載されたれっきとした登山道なのですが、
な、なんか来るたびに荒れてる気が……。山腹をジグザグに切って無理やり作ってあるためか、枯葉や枯れ枝が堆積しており、ほとんど廃道に近いありさまです。
これはダメかもわからんね。ペナントは巻いてあるので、それを頼りに追尾していってください。道はほぼ消失しています。何度も通っているはずなのに、道を見つけるのにひどく苦労しました。滋賀県側ルートは辿る者とていないのか、整備の手も行き届いていないようです。
16:10、稜線に出ました。指導標などはいっさいなく、ご覧のように電力会社の管理番号が無機質に刺さっているのみ。このあたりは行政の整備対象から見捨てられた感があります。
ここから尾根沿いに登っていくんですけど、慣れないと迷いやすいかもしれません。特に815メートルピークの手前。ピークには登らず巻き道になっているので、間違えないように。〈山と高原地図〉はピークへ登るよう線が引っ張ってありますので要注意。
 
さて巻き道を辿ってダイラ方面の稜線に着きました。このあたりから阿蘇谷へ降りられるはずなんですけど、どれだけ探しても下山路が見つかりません。周辺をウロウロすること30分、あたりが暗くなり始めて焦りが生まれます。それを証明するかのように、以後写真を1枚も撮影してなかったようです。
 
わたしは山岳用GPSアプリケーション〈ジオグラフィカ〉を使って保険としているのですが、これさえあれば地形さえ読めれば事実上、遭難はありえないと思ってました。下山路が見つからないなら適当に阿蘇谷を下ってしまえ。そう判断したのですね。16:40、ドロップ開始です。
 
オチは予想できたと思いますが、すぐに行き詰りました。谷の上部は深くV字に切れ込んでおり、落差が大きくてとても下っていけるような雰囲気ではなかったのですね。やはり登山の格言通りです。〈沢を下ってはいけない〉。あたりはもうかなり薄暗くなっています。死ぬ思いでとなりの尾根をよじ登り、稜線へ復帰しました。この尾根もほぼ崖のような角度で、まったく往生しました。
 
17:10、稜線に復帰したはいいですが、どうやって里まで下りるかが問題です。阿蘇谷が使えないのなら、ダイラの頭から降りるしかありません。念のため図示しておきます。
黄緑線は阿蘇谷ルートですが、これは見つけられなかったので選択肢から除外。残りは青線か赤線となりますね。青線は登りで使ったルートですので、現在のような遭難予備軍の場合、選択すべきはこちらです。多少時間がかかろうがどうしようが、往路に勝る安全な道はないのです。
 
にもかかわらず、わたしは赤線ルートを選んでしまいました。赤線ルートは一応登山道こそ通されているものの、地図に記載のないバリルートです。なぜそちらを選択したのか? 理由はとにかく早く下山したかったのです。
 
まあその……18時台に彼女と電話する予定があったのですね。反故にするわけにはいかず、なんとしても最短経路で下山せねばならなかった。この例からわかる通り、わたしは彼女との電話に命を賭けていたのです。自画自賛になりますけどこんな男、そうそうおらへんと思うねんけどなあ……。
 
すっかり陽の落ちた山中、ダイラの頭(803メートル)へ到着したのが17:30でした。ここで突如、天が割れたような土砂降りとなりました。この勢いなら雨はすぐやむと判断し、レインコートを羽織らずに出発。これがあかんかった。
 
暗闇のなかバリルートの尾根を辿るのって、想像以上に難しいのですね。この日はヘッドランプを忘れるという痛恨のミスを犯しており、スマートフォンの乏しいライトのみ。おまけに雨のせいで霧が発生、光を乱反射するせいで有効視程は1~2メートルまで減弱してました。
 
あれ、これわし死ぬのでは? レインコートを羽織ってなかったせいで体温はガンガンズンズングイグイ下降、身体の震えが止まらず、歯の根も合いません。バリルートなので明瞭な登山道は当然なく、わずかな踏み跡と闇夜に浮かび上がるペナントを頼りに牛歩で進んでいくしかない。
 
何度も濡れた落ち葉に足をとられて背中から転び、ダメージがじわじわと蓄積していきます。本ルートは尾根が東へ振っている核心部が何か所があるのですが、このドロップポイントはまあ見つからん。見過ごした場合は慎重にたどった道を戻り、環形彷徨しないよう細心の注意を払います。
 
わたしは無意識のうちに、ペナントを見つけたら「よし!」と声かけをするようになっていました。「よし!」と自分が言っていない時間が増えたら、支尾根に迷い込んでいる指標になると踏んだのですね。これは功を奏し、掛け声を目安に無数の道迷いを芽のうちに摘むことができました。
 
このときのわたしのコンセントレーションは、ちょっとしたものでした。五感は極限まで研ぎ澄まされ、尾根芯とペナントを辿ること以外、なにも考えていなかったと思われます。パニックを起こしたが最後、谷へ落ちて帰らぬ人となっていたでしょう。暗闇でも平常心を失わない落ち着きが大切です。
 
途中、転んだ拍子にストックを1本紛失したり、スマートフォンを落として光が完全に途絶え、パニックを発症しかけるなど、小さなアクシデントは無数にあったけれど、19:00、車回収と相成りました。わたしの乏しい登山史上、ワースト5内にランクインするレベルの危機的状況でした。
 
2 電話はどうなった
18時台にかけると言っておきながら有言実行できず、連絡がないことで相当心配をかけてしまったようです。謝り倒しておきました。いまとなってはどうでもよいことですが。
 
3 反省
早出をせい、という至極まっとうなツッコミをあらかじめ除去するとして(いやそこさえクリアしとったらこんなことなってへんやろ……)、結果的にどうすればよかったのか?
 
やはり下山ルートの選別でしょう。土砂降りは想定外だったとしても、ダイラの頭ルートは過去に一度だけ使った実績のみでいけると判断してしまいました。念のため図示しておきます。
再掲です。図中の青ルートを辿ったとしたら、三国岳界隈から烏帽子分岐まで55分、烏帽子岳界隈から時山バンガローまで下山タイムで見積もって50分。1時間45分ですね。
 
いっぽうダイラの頭ルートは不慣れなのと登山道の整備がされていないことから苦戦を強いられ、1時間30分もかかっています。彼女が電話を待っていようがどうしようが、大切なのは己の命であります(あの当時は命よりも彼女のほうが――いや、もうよしましょう)。冷静な判断を下したいものですね。
 
さて次回は舞台を鈴鹿中部へ移しまして、久しぶりの朝明渓谷界隈の周遊ルートとなります。この山行もえらい目に遭いました。掲載時期は例によって未定ですが、気長にお待ちください。
 
おわり