槍ヶ岳詣で 2019 完結編 | 強化人間331のブログ

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サイボーグである強化人間331の、つれづれ山行記録。
さしておもしろくもないのは、ご愛嬌。

全速前進!

 

前回はアウターの盗難なんかこれっぱかしも気にしてないと大見得を切ったにもかかわらず、主張に反して愚痴が長々と続いてしまい、結果的に槍の穂先だけで1記事消費してしまいました。

 

今回は似たような轍を踏まぬためにも巻きでいきますよ(はいそこ、喜ばない)。脱線はなしでね。おそらく。たぶん。きっと。あるいは……。

もうコース概要はいいですね。気になる人は中継ぎ編の冒頭をご覧ください。槍から南下して稜線を歩き、南岳新道で下山するという流れです。1泊2日で槍を攻略する際の王道コースですね。

 

①稜線逍遥

 

槍の穂先から帰還し、山荘へ荷物を回収しに戻り、いざ鎌倉。6:45、すべての準備を完了して進撃です。

飛騨沢から稜線に詰め上げるときの峠、飛騨乗越には15分ほどで着きました。飛騨沢ピストン組とおぼしき連中がザックをデポでして対岸の大喰岳へ遠征してました。なんでもないような窪地に見えますが、標高3,020メートル、日本でも指折りの峠でしょう。

7:10、大喰岳(おおばみだけ、3,101メートル)登頂。こんななんでもない道標の山でも三千メートル越えですからね。登ってきた、というような感慨も湧いてきます。

そしてどうですこの1枚。対岸から見る槍の穂先。個人的な感想ですけれども、おそらく槍がもっとも映えるのは大喰岳から眺めたときではないでしょうか。これはすごいわ。

後ろ髪を引かれながらも進んでいきます。道はほぼ忠実に稜線に沿ってつけられてます。

もうね、絶景すぎて何度も立ち止まって撮影してしまう。難しいところもなく、のんびり漫遊できる雲上の散歩といった趣。

この稜線はぜひともガスの出てこない朝一番で歩いてほしい。まったく文句なしであります。

これなんていいですねえ。漫画に出てくるような登山道です。これくらいの標高ですと植生も乏しく、雑草みたいなのしか生えてません。いかに厳しい環境なのかがわかろうというものです。

遠目に写すと道は細そうに見えますが、実際は人一人分は十分にあります。わかりづらいですが、画面下のほうに十字架のように両手を広げた登山者が写ってるでしょ。それをスケールにしてもらえれば幅の感じは掴めるでしょう。

8月も末だというのに陽の当たりづらいところにはまだ雪が。すれちがった夫婦がなんで解けないんやろうねと不思議がってました。それは白が日光を全反射する色だからです。ですから気候の冷涼な高峰では一度雪が積もるとなかなか根絶されません。

 

あれ、ちょっと待ってくださいよ、なにやら脱線が始まってませんか。みなさんの悲痛な叫びを映画「コマンドー」風にもじれば(またか)、次の通りとなります。

 

強化人間331「脱線はしないと言ったな」

読者「ああそうだ、だから本編だけ続けてくれ大佐」

強化人間331「あれは嘘だ」

というわけでお急ぎのかたは写真だけ眺めてってください。登山道は終始こんな感じで心が洗われるよう。5年ほど前にも一度歩いたことがあるんですけど、そのときは土砂降りでした。低山なんかは雨でも植物のみずみずしさを堪能するとか代替要素がありますけど、高峰はただひたすら風と雨に耐え忍ぶだけのお仕事になりがち。ぜひ晴天を狙って歩いてみてください。

 

地球は幾度も氷河期を迎えてるけれども(われわれの生きてる現代は氷河期と氷河期のあいだ、間氷期なんですね)、過去に二回ほど全球凍結という、文字通り極地方から赤道にいたるまでが凍りつくという途方もない現象が起こったようです。これをスノーボール・アースと呼びます。

 

この状態はかなり長いあいだ続きました。先ほど書いた通り、雪は日光を反射するので一度積もってしまうと簡単には融けません。その間地球の生物は大絶滅をきたし、わずかな生き残りが凍りついた大地にしがみついていたのでした。

 

全球凍結状態がいまのような暖かい地球に戻ったいきさつはいろいろと議論されてますね。海面の表層が凍結したせいで空気中の二酸化炭素の取り込みが滞り(海は二酸化炭素の貯蔵庫と呼ばれているほどよく同元素を吸収します)、濃度が上がる。温室効果で雪が融ける。海面の表層が液体になり、二酸化炭素が取り込まれて温室効果の暴走も止まる。

なんて言ってるあいだに7:42、中岳(3,084メートル)に登頂。ここの登りは手前に短いながらも垂直のはしごがあるけれども、べつにどうってことありません。しかし三千メートル峰だというのにこの山名、なんとかならなかったものか。景色は文句なしですけどね。

 

温暖化がどうとか騒いでますけど、地球はかようにダイナミックな気候変動をくり返してきたのであります。二酸化炭素はまちがいなく温室効果ガスではあるけれども、地質年代にわたってくり返される温度の上下を人間ごときがコントロールするなんて、おこがましいと思わんかね。(漫画「ブラックジャック」より本間丈太郎医師の台詞を改変)

 

地球はいまのところ人間の住める唯一の星ですし、よその惑星をテラフォームするのは途方もなく金がかかるので当分は実現しないでしょう。大切にしなければならないのはいまさら書くまでもありません。とはいえ熱力学の第二法則が厳然たる事実として存在するこの宇宙に住む限り、地球を永遠に使い倒すのは不可能です。

脱線がノーナ・リーヴスの楽曲並みにくどくなる(またか)のとは対照的に、景色はまことに爽やか。無理してでも休暇をとってよかった。それにしてもすっかりノーナにドはまりしてしまった。いまも「P-O-P-T-R-A-I-N」を聴きながら書いてますよ。ホンマにごっつかっこええわ。

 

熱力学の第二法則というのはエントロピー増大の法則とも呼ばれてまして、ざっくり要約すれば「部屋は放っておけば散らかる」ということです。なんらかのエネルギー(たとえばあなた自身の労働力)を投入しない限り、部屋は散らかるいっぽうです。扉を開けたらあら不思議、妖精さんが片づけてくれていた、なんてことはありえません。

 

これは地球そのものにも敷衍できます。化石燃料であれウランであれ、燃焼させて熱エネルギーに変換してしまえばもう、それは二度と戻ってきません。熱エネルギーというのはもっとも低品質のエネルギー形態でして、空間に散逸したこれらが凝集して有用な燃料に戻ることは絶対にない。宇宙はとてつもなく広いので(差し渡し600億光年ほど)、熱が拡散していく余地はいやってほどあるわけです。宇宙がやたらに寒い(マイナス270度くらい)のもこれが理由です。広い部屋は暖まりにくいのですね。

 

ですから結局エコとかいって一生懸命ケチったとしても、いきつくところは同じです。あらゆる燃料はいずれなくなります(正しくは熱エネルギーに変換されて散逸する)。太陽光ですら50億年後には消滅しています。

 

蛇足:とはいえ当面は太陽光がもっとも有望なエネルギー源になるでしょう。宇宙に巨大な太陽光パネルを建設し、マイクロ波にして地上へ伝送、地上でそれを受ける施設(レクテナ)を作る。金さえあればすぐにでも実現する技術です。

中岳の南側は広大なガレ場でした。いかにも北アルプスといった雰囲気です。

 

さてそろそろ結局なにが言いたいの、という落ちの問題にいきつくわけです。わたしの結論はこうです。無理して再生可能エネルギー開発をするよりも、じゃんじゃん使っちゃえばいいじゃん。石油が本当に枯渇すれば値段が高くなるでしょ。そうなれば必ず誰かが安いエネルギー源を開発します。なぜなら儲かるからです。

 

地球のためなんていう歯の浮くようなお題目より、この儲かるという動機はたいへん強力です。およそありとあらゆる不可能を可能にする推進力になるのです。いまはまだウランも石油もたっぷりあるから誰も本気になって取り組んでませんが、数世紀後はおそらくなんとかなってるでしょう。

 

わたしは人間の叡智と貪欲さがある限り、なにも心配することはないと思います。必要に駆られれば誰かがやる。政府がお節介を焼く必要はありません。民間の利潤追求は無敵です。わたしはそう信じます。

 

え、なんですか。ちゃんと話を落とせ、ですって? やだなあ、さすがにこのまま投げっぱなしにするはずないじゃないですか。ええとその、つまりですね。

 

すまん、落とせんかった……。

 

ええ……。(困惑)

まれに見る失態も演じたことですし、ここからは巻きでいきますよ。8:18、天狗原分岐です。天狗原というのは稜線を通らない巻き道らしいです。いつかこちらも歩いてみたいものですね。

分岐からは南岳へ向かって緩やかな登り。

遠く表銀座の稜線が。あ、ちがうかもしれへんわ。確信がないわちらつくシャム語録

槍がもうあんなに遠くに。

本日最後のピーク、南岳(3,033メートル)です。8:35でした。風もほとんどなく非常に平和。緩やかに下ると、

南岳山荘ですね。快晴とあって屋根一面に干された布団が。若い娘さんがのびのびと作業に従事しておられました。どうでもいいんですけど山小屋のバイトって、風呂はどうするんでしょうかね。さすがに1か月以上も入らないわけにはいきませんよね。それともそうなのか? だとしたらぜひともすっかり臭くなった若い娘さんの匂いを嗅いでみたいものです

南岳山荘から少しだけ登ると、獅子鼻展望台というのがあります。ここからはご覧のように北穂高と、その前に立ちはだかる大キレットを拝めます。さすがは北アルプス南部の難所、迫力がちがいます。

対照的に南岳はたおやかで女性的な山容です。ただこの山って意外に登頂しづらいんですよね。直登ルートは新穂高からの南岳新道ルートのみ。この登りは死ぬほどつらいので思いっきり避けられてますね。もしどうしても南岳に登りたいという人は、上高地から槍沢~天狗原経由できたらよかろうかと思います。

大キレットの全貌。もう1日余裕があれば足を伸ばしてもよかったのですが、またの機会にしましょう。(怖いのでもういかないような気もしますが

獅子鼻展望台から眼下をのぞき込みます。わかりづらいんですけど、これものすごい高度感ですよ。これは一度ご自分の目で見てください。足を滑らせば千メートル近く下まで真っ逆さま。くわばらくわばら。

パノラマ撮影というやつで見納め。9:12、下山開始です。

南岳新道の尾根。道はなるべくジグザグにつけられてはいますが、とにかくものすごい勢いで下っていきます。これ膝もつんやろか。

短いけれどもこの丸太はちょっとビビりました。造りが粗末で非常に心もとない。雨の日はウエットになってさらに往生するでしょう。

尾根は尖りすぎて辿れないらしく、道はいったん沢へシフトして、

再び尾根へ合流します。そのあとはもうひたすら、本当にただひたすら尾根を下るアルバイトが待ち受けております。

 

上部は解放感抜群で目を楽しませてくれるけれども、道は歩きやすいとは言いがたいです。とくに下りはその歩きづらさに愕然とするでしょう。この道は登るのも下るのもしんどい。登ってくる猛者もちらほらいましたが、誰もがいまにもくたばる寸前のような状態。気持ちは察するに余りあります。

 

テント泊装備っぽいじいさんもいたりして、いったい彼はどれほどの業を背負っているのでしょうか。そうでなきゃあんなふうに自分自身をいじめ抜けるはずないじゃありませんか。登り切った先に南岳山荘があるのになぜテント泊なんぞを……。

 

さて足場の悪い登山道を四苦八苦しながら下ってますと、注意力散漫になったんでしょう、ウエットな岩に足をとられて思い切り右の太ももを下敷きにするかっこうで転倒しました。体重+テント泊装備で70キロ以上のウエイトが太ももに集中。悲鳴が山中にこだましました。

 

しばらくうずくまってあまりの痛みに悪罵を喚き散らさずにはいられません。おそるおそる歩き出しましたが右足を接地させるたびに痛みが走ります。おいおいまだ半分もきてないねんぞ、どないすんねんホンマ……。

 

ここからは本当にきつかった。あまりにつらかったからか、ほとんど記憶にも残ってません。痛みに歯を食いしばりながら徐々に高度を下げていきます。やがて11:40、やっと槍平小屋。ここで昼飯を摂り、ほっと一息。あとは緩やかに高度を下げるだけです。

 

とはいえ相変わらず右足は痛いし道は長いしで、まったくうんざりさせられました。13:12、白出沢出合、あとはひたすら林道を歩き通し、14;30ごろ、車に戻ってきました。もう死ぬ、あかんホンマにもう死ぬわこれ……。

 

②温泉

 

大ダメージを負おうがどうしょうが温泉だけははずません。北アルプスの日帰り温泉といえば平湯温泉「平湯の森」で決まりでしょう。多種多様な露天風呂、広々とした内湯、入りごたえのあるサウナ、まったく申しぶんのない時間でした。これで500円は安い。さあうまいもん食うどー!

 

③反省

 

というわけで夜はうまいもん(ブロンコビリーでのサラダバー食べ放題でした。ほぼ炭水化物しか摂っていないと無性に肉と野菜が食べたくなるものです)を食べ、満ち足りたのでした。

 

翌日は仕事のメールが100通以上きており、当然終電までやったけれどもまったくリカバリできず、水曜日入っていた飲み会の予定をキャンセルするという痛恨のミス。これは痛かった。年下の娘さんもきたそうで、誘ってくれた後輩にも悪いことをしました。ユウジ、正直スマンカッタ……。

 

にもかかわらずわたしは、晴天の北アルプスは無理やり休暇をとってでもいくべきだと再度、この山行で確信した次第であります。幸い太もものダメージは思っていたほどではなく、むしろ1週間以上も続く筋肉痛が深刻でした。久しぶりのきつい行程だったとはいえ、2~3日は手すりなしでは階段を降りることすらできませんでしたからね。

 

夏山シーズンもぼちぼち終焉に向かいつつありますが、もう1度くらいは泊まりでどこかへくり出したいですねえ。

 

おわり