【書評】『風』青山七恵著 自分にあぐらをかく勇気 | 毎日のニュース

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 「こじらせる」という言葉がはやっている。「女を-」「自分を-」などの用法が多いようだが、世間の求める役割に適合できず、自分の中にわだかまることを言うらしい。さてでは、一度こじれたものを解くことはできるのだろうか。どうやら難しいことは、ここに収められた3作(見返しと栞(しおり)に載っている2つの掌編は除く)を読めばわかる。

 「ダンス」の主人公は、幼稚園の時から人前で踊ることができないまま大人になり、産んだ娘が幼稚園生になったときに、子供と踊らねばならないという危機に今更ながら見舞われる。「二人の場合」では、落ちこぼれ同期新卒営業社員だった2人の女子が、深い友情を築きつつも、1人は少しずつこじらせを解消していき、他方は会社を辞め結婚もせずおのれの道を歩みつづける。2人の関係はどうなっていくのか。

 最後の「風」は、父親の経済的な庇護(ひご)の下、社会での役割を見つける機会をもたないまま老いてしまった姉妹2人の物語。父亡き後、ひっそりと2人住みしているが、小学生並みの精神年齢のまま喧嘩(けんか)と和解を繰り返す。そこに保険外交員の若い男が訪ねてきて、一筋縄ではいかない姉妹を懐柔すべく、マーチングバンドへ勧誘する。意地の張り合いから、妹だけが入団したにもかかわらず、練習には姉も必ず同伴し、いがみあう2人の姿は周囲から浮く。