『バカの壁』で436万部の驚異的なヒットを記録した解剖学者、養老孟司さんが、『死の壁』『超バカの壁』に続いてシリーズ8年ぶり、4冊目となる新刊『「自分」の壁』(新潮新書)を発表した。「自分ということにあまりこだわるな」と話す養老さんに刊行の意図を聞いた。
他者と話が通じないのはそこに「バカの壁」が立ちはだかっているからで、それを自覚すれば世界の見方が変わってくる、としてさまざまな社会事象を論じ、幅広い支持を集めた『バカの壁』(平成15年)。同書でも「『個性を伸ばせ』という欺瞞(ぎまん)」と1章を設けて個性尊重のおかしさを論じたが、新著では個性の持ち主である「自分」に焦点を当てた。「若いころの自分を客観的にみてみると、今の若い人も同じような落とし穴に落ちているようにも感じた」
「すべて国民は、個人として尊重される」と憲法で規定された戦後の日本では「自分」が重要視され、個性や独創性が尊重されるようになってきた。ところが「そんなものがどれだけ大切なのかは疑わしい。世間と折り合うことの大切さを教えたほうが、はるかにまし」と斬って捨てる。
普通の人が思っていながら口に出せないことも、さらりと言ってしまう。いじめについても「あんなものなくなるわけがない。それが結論です」と明快だ。もっとも、いじめ自殺を防ぐ方法はある、と説く。一つは自然の中に逃げ場所を用意しておくことだという。