■戦う男たちの心のよりどころ
あの戦艦大和の中には、奈良県にある大和(おおやまと)神社が祀(まつ)られていた-。
旧日本海軍の軍艦内には、必ずと言っていいほど船の守り神を祀る神棚があった。それが「艦内神社」である。
艦内神社には、艦名とゆかりのある神社の祭神が分霊されていた。前出の大和神社をはじめ、戦艦榛名は群馬県の榛名(はるな)神社、戦艦武藏は武藏国一宮である氷川神社(埼玉県)、というように。
著者は、強力な外国の敵と戦う男たちにとって艦内神社は「究極的な心のよりどころ」であったと述べる。本書は、そんな艦内神社について、どの艦にどの神社が分祀(ぶんし)されており、いかに選定されたのかにスポットを当てた。
取りあげた軍艦の数、およそ60隻。艦名と神社名が同一ならば調査しやすいが、巡洋艦衣笠(きぬがさ)などは、平野神社(京都府)、走水(はしりみず)神社(神奈川県)という艦名とは異なり、しかも2つの神社を分霊元とする。著者は当時乗艦していた元乗組員の証言をもとに、戦前の資料を丹念に調べ、わずかな手がかりから分霊元神社を解明してゆく。
だが元乗組員たちは高齢のため、直接取材できる時間が残り少なくなってきた。実際、本書の取材にご協力いただいたなかで、完成を伝えられずに物故された方もいた。
本書は国防と神について、真正面から考えた一冊である。艦内神社を正確にまとめた書籍はいまだない。本邦初となる本書を、軍艦ファンならずともぜひご一読いただきたい。(祥伝社・本体1600円+税)
祥伝社 書籍出版部 竹口栄一