【正論】震災で身にしみた「一日の貴さ」 文芸批評家、都留文科大学教授・新保祐司 | 毎日のニュース

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 東日本大震災の発生から3年の月日が流れた。しかし、あの当時の不安は、今も記憶にはっきりと残っている。今日は、鎮魂に深く思いを致す日である。

 多くの日本人と同じく私も何気なく続いていた日常生活が、突然断ち切られ、ふと人間が生きているということの根柢(こんてい)にある何かを垣間見たような瞬間に襲われた。

 このときに向こうからやって来たような感覚をもって感じ取ったことは、極めて貴重な経験であって、試練の中で体得した思考が、これからの日本人および日本の在り方の根本を支えるものとなっていかなければならないであろう。

 ≪戦後日本人の思考を変える≫

 それは、長く続いてきた日本人の思考の「戦後的なるもの」を打ち砕くはずであるし、戦後の高度経済成長時代に出来上がってしまった日本人の生活観を変えるものに違いない。それに伴い、日本という国家のかたちも、折しも進行している安全保障環境の苛烈化の中で大きく変更していかなければならなくなっている。

 大震災の被害があまりにも大きいので、当初、動揺するしかなかったのだが、その頃、頭をよぎったものの一つに、中原中也の詩集『在りし日の歌』の中の絶唱「春日狂想」があった。愛児の死という悲痛の中で書かれた詩である。