これまで度々ジンブレードについて書いていますが、三度書いてみたいと思います。
ジンブレードは、運動学者の高岡英夫先生が提唱している概念です。
非常に難解なので、私の解釈が誤っている可能性もありますが、自分なりの解釈でサッカーに応用させていただいています。
簡単に言えば方向転換の身のこなしなのですが、最も速い身のこなしということです。
たとえば進行方向に向かって左に切り返します。
そういうとき、普通の人は身体正面を左方向に向けてから、そちらの方向に動きます。
↓5分22秒で元プロサッカー選手の那須大亮さんがスラロームをやっています。
普通にやれば、99%の人がこういう動きになります。
ですがジンブレードを使うと、身体を正面に向けたまま、側面に倒れるように移動します。
↓26秒メッシのスラロームは、明らかに普通の人とは身のこなしが違います。
むしろ進行方向に背中を向けるようにして動いています。
なぜメッシがこの身のこなしをできるのかはわかりませんが、推測ではアルゼンチンで一般的に行われていると思われるスラローム練習に一因がある気があります。↓ボカジュニアーズジャパンの3分44秒からです。
ジンブレードでも、インサイドジンブレードとアウトサイドジンブレードがあります。
アウトサイドジンブレードの方が難易度が高いと高岡先生は言っています。
進行方向の左を向かずに、正面を向いたまま切り返しています。
つま先は真っすぐ前で、側面に倒れるように切り返します。
そして上半身は不思議なことに、こういったときは進行方向の逆の右に回るのです。そしてそれが天然のフェイントになります。
そういう観点で見ると、メッシは理想的なアウトサイドジンブレードが使えているのではないでしょうか。
私はそういった点で、練習の「質」というのをより重視する時代になったのではないかなと思います。
AIや科学技術の発展で、どんどんサッカーを分析するツールは発展し続けています。素晴らしいツールを使えば、いくらでも分析できる時代になってきました。
私は現役時代、不思議に思ったことがありました。
コーチには「1日休めば取り返すのに2日かかる」と言われ、そのつもりで練習するのですが、やればやるほど動きが悪くなるのです。そこで本能的に、月に1回くらいは仮病を使って練習(学校も)を休んでいました。
今にして思えば、おそらく間違った動きの動作を徹底して反復すると、それだけ下手になるのだと思います。
たとえば那須大亮さんのようなスラローム(那須さんにまったく他意はありません、99%の人が那須さんのような動きをすると思います)を徹底してやっても、ある程度その動きはよくなっても、飛躍的な向上、質的転換は起きないと私は思っています。
反復練習をたくさんやると、練習をやった気分になりますが、ある程度上達した後は、もうちょっとゆっくり考えながら練習してもいいのではないかなと思います。
スラロームをやるにしても、メッシの動きをできるように、1回1回考えながら試行錯誤してやったほうが伸びると思っています。
「考えながらやろう」とは、どの指導現場でも言われていることです。
ですが技術や身のこなしについては、いくら選手が考えても、よほどの天才でないかぎり、指導がなければ改善は難しいと思います。
特に身のこなしについては、けっこう盲点になっているのではないかと推測しています。
たとえば「母指球を強く踏んで一歩目を出る」と、よく言われていますが、私は再考の余地があると思っています。
母指球を意識してつま先立ちをすれば、身体は後ろに倒れます。
足の着地点より身体の重心が前にないかぎり、つま先あたりは「ブレーキ役」なのです。
さらに三苫薫のドリブルを評するときの「軸足リード」理論があります。
三苫は軸足を前に踏み込んでいるから、その分速く前にいけるという理論です。
ですがやってみて、その効果を実感した人はほとんどいないのではないでしょうか。
というのは一歩目に重心より前に足を踏み込んでしまうと、地面から負の摩擦力を受けるのです。
三苫は振り出した軸足を着地するときに引っ込めて、自分の重心より後ろにするようにしています。
こういった動きの質を変えるものは、必死に反復練習しても身につかないと思います。
日常生活の感覚の延長線上で必死に努力しても、やっぱり日常生活以内にとどまってしまいます。
そこで今まで使ったことがない動作を入れることになります。
それは最初異質なので、奇妙な感覚だし、なかなかうまくできません。
そういったものに対して「おもしろい!」と思うか「つまらない!」「俺には俺のやり方がある!」と思うかで、その後の伸びは全然違ってくると思います。
勉強でも同じだと思います。
伸びる子は素直です。
甥っ子は、開成高校と同じ偏差値の某国立高校に合格しました。全国模試でも、数学は全国10番台とかをよく取っていました。
彼に勉強を教えていたとき、とにかく素直なのです。
自分のやり方があっても、私が違う解き方を教えると「おお、これおもしろいね!」と素直にやってみます。
ただ、人の指導を「おもしろい!」と思う感性の子は少数派です。少数派だからこそ、その子たちは成功するのだとも言えるのだと思います。