野の宮の黒木の鳥居
黒木鳥居は、樹皮のついたまま建てられた原始的な鳥居
簀の子(すのこ)
板や竹を少しずつ間をあけて並べ、横板に打ちつけたもの
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
源氏は、過ぎ去った日々を悔やんだ。
野の宮は、小柴垣をめぐらした中に小さな板張りの家屋がいくつか並んでいる簡素な社であった。
どこかしら仮普請のようでもある。
ただ黒木の鳥居は古格があって神々しく、数名の神官たちが立ち働いている様は、さすがに他とはちがう厳かな雰囲気が漂っている。
火焼屋(ひたきや)には、火が静かに燃えている。
六条御息所に来意を告げると、琴の音がぴたりと止んで、女房たちが立ち騒いでいる気配が感じられた。
衣擦れの音や、ほのかな香の匂いがゆかしく伝わってくる。
しかし、御息所はなかなか姿を見せない。
女房を通じての挨拶ばかりだ。
源氏はだんだん不愉快になって、従者に告げさせた。
「このような外出も、今ではままならない立場となりました。お察しいただければと存じます。いつまでも、注連(しめなわ)の外で待たせないでください」
女房らも源氏に同情して、御息所に取りなした。
「あんな所にお立ちになったままでは、源氏の君がお気の毒ですわ」
「さて、どうしたものでしょう。神官や女房たちの目も気になるし、娘の斎宮もおります。源氏の君のおそば近くにでるのは慎しまなければなりません」
とはいうものの、御息所は冷淡な態度をとり続けられるほど気は強くない。
思い悩んだ末に、ためらいながら部屋から出てきた。
その立ち居振る舞いは相変わらず優美で、一年にわたる野の宮での生活に面やつれしているせいか、奥ゆかしさが一段とましている。
「簀の子に上がらせて頂きましょう」
源氏は、待ちくたびれたとばかりに庭先から簀の子に上がった。
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あわせて出かけようと思っています