上野公園の医薬神
「五條天神社」本殿
とは言っても、京都の「てんしの宮」のことではない。上野公園にある医薬の神さまとして名高い「天神さま」だ。病気治癒の回などで、ちらほら紹介はしていたが、「五條天神社」としてのご紹介は今回がはじめてになる。どうしてかと言うと、難しかったから。とにかく境内にあるものがわからないものだらけで、どうつながっているのか頭を悩ますばかりなのだ。
○都内有数の古社
近年できたばかりの鳥居
境内はかなり狭い。隣接する「花園稲荷神社」と併せても、見回す程度の広さしかない。ただし、歴史はかなり古い。すでに創建から1900年以上がたっていて、この歴史に匹敵する歴史を持つのは「大國魂神社」など東京では10社くらいしかない。日本武尊が東征時に創建したと伝わっている。そう考えると、京都の「五條天神社」は弘法大師が創建した社だから、東京の「五條天神社」が先にあったということになる。歳時月は違うが、お祭りにも「宝舟」の神事があったりして、どうも関係があるような気がする。
話が少し脱線するが、京都の「五條天神社」は、源義経と武蔵坊弁慶が出会った場所だと言われている。私の知っている逸話では、それは確か「五条大橋」だった気がするが、それはさておき、弁慶は比叡山延暦寺の僧で、空海(弘法大師)の高野山の真言宗とは当時は対立していたはず。高野山縁の社に入ってくるだろうか? まるで弁慶の泣き所のような話である。そうなってくると「武蔵坊」という名前も気になってくる。関東と京都をつなぐ何かが、そういった逸話に語り継がれていったのかもしれない。
○「清」「払」が最も似合う神さま
御嶽神社(大田区)境内にある多くの石碑
「五條天神社」の祭神は、大己貴命(大国主命)と少彦名命である(正確には菅原道真公も相殿されているが、今回は話がめんどうになるので省略)。
簡単に説明すると、オオクニヌシは出雲大社の神さまであり、スクナヒコナはオオクニヌシを助ける神さまとして登場することが多い。私はこのスクナヒコナの神さまがかなりお気に入りなのだが、なかなか祀られていることの少ない神さまだ。と、いうよりたぶん、ある時代に「菅原道真公」にとって代わられたのだと思っている。どちらも「天神さま」とよばれる神さまだったため、愛称で呼んでいるうち、神さまの正式名称がわからなくなったのではないかと。全くの蛇足だが、民話「一寸法師」のモデルはスクナヒコナとも言われている。
オオクニヌシとスクナヒコナは、2柱一緒のことが多く、一番有名なのは、昨年大噴火をした木曽の御嶽神社の祭神のうちの2柱であり、また東京では神田明神、鎧神社、穴澤天神社、布多天神社とかなりいわくつきの神社に祀られていることがわかる。それはたぶん、スクナヒコナが強烈な「厄払い神」であり、「清め神」であるからなのではないかと思う。転じて、病気治癒やきれいな水の守り神とされているのだ。
○横のつながりが果てしなく広い
本殿の横の仏像
上野公園一帯は、以前からご紹介しているように、江戸時代は寛永寺の境内で幕末には御府内で唯一戦火にまみれた場所である。その名残を公園内で探すのは難しいが、実は「五條天神社」の本殿の横に、ひっそりと置かれている仏像にそのかすかな名残を感じる。どうしてこの場所に置かれているのだろう。しかも神社なのに。一般には入っていけない場所に、ところどころが壊れかけた石像が数体置かれているのだ。
「五條天神社」の「一山霊神」の石碑
それから、本殿横にある「一山霊神」の石碑。「一山霊神」とは、木曽御嶽神社の行者・一山のことである。オオクニヌシとスクナヒコナという祭神つながりなのだろうが、「一山霊神」ということは、大田区の「御嶽神社」とのつながりか。
また、本殿脇に鎮座する狛犬の姿は、オオカミ風で、これも日本武尊伝説のひとつである、おつかいが日本狼だったということにちなんでいるようだ。これは「武蔵御嶽神社」の創建話を思い起こさせる。
本殿脇の狛犬
それにしても、どうして「五條」なんだろう。
京都の「五條天神社」は、奈良の宇陀から勧請された当初は別の名だったらしいが、のちにこの名に変更されたのだとか。東京の「五條」も最初は違ったのかもしれない。宇陀に残る神社の名前と祭神の名をつらつら眺めていると、水の神さまのなんと多い事か。ヤマトタケルはいったい、大和(奈良)のどこから神さまを呼んできたのだろう。
隣接の「花園稲荷神社」は縁結びの神さま
結局、不思議な神社であるということ以外わからないままなのだが、境内には七福神の社もある。オオクニヌシは大国さまだし、スクナヒコナはえびすさまとも言われているので、当然なのかもしれない。
ああ!忘れてならないのは、ここに菅原の天神さまがいるおかげで、合格祈願、特に医学部、薬学部、お医者さま、看護婦さんなど医薬に関係した学問の合格祈願に特にご利益が高いということ。御嶽山という霊山のご利益も加わるなら、まさに鬼に金棒の強力さであることは間違いない。