背油上等!
およそ喧嘩の売りどころがわからぬ文句が、のぼりに書かれたラーメン店を訪れたのである。
入り口。
ガラスの引き戸に手で触れると、早速ではあるが、指先が何やらねばつく。
……油であった。
しかしながら尚も臆することなく、わたくしは薄暗い店内に足を踏み入れる。
……壁。
長年の積み重ねにより何度ふいてもぬぐえないほど、それは染みついたのであろう。
店の内装が一様に油じみている。
わたくしは、静かにカウンター席に腰をおろす。
店員「ご注文は? 何かご要望などあります?」
他のメニューには目もくれず、余計な言葉は添えず、ただ「ラーメン」と一言だけ返す。
はじめて訪れるラーメン店において、その店を知る一番の方法は、何よりもまず、ただ「ラーメン」を頼むことだと思っているからである(うるせえよ)。
注文をすませ、鼻をすすり、ページの擦り切れた、こち亀(漫画)を読み待つこと数10分……。
白いふきんで覆われ丁重に運ばれてきた、ふつふつ煮えたぎるラーメンドンブリは、側面に油おびただしく付着し、手の触り場もないほどであった。
……麺が見えぬよ。
スープは、まるでタピオカのように、ぷかぷか背油浮いており、ふらりと興味本位で訪れた、わたくしが完食するのには、それなりの覚悟を要求されるものであった。
ドンブリの縁から縁、どでーん、と横たわるチャーシューは薄暗い蛍光との光を浴びながらも、スープに負けず劣らず、妖しくぎらついている。
箸を慎重にスープに差し入れる。
つかんだ黄色味おびた麺を、口にすすり入れる。
……玉子麺かもしれぬ。
麺は、背油ひしめきあうスープの熱さゆえか、口先ですするには、くったりしていた。
コシというコシ、皆無であった。
幾度もすするたび、もう少し口先ですする、という感触を味わいたい、そう思われる麺であった。
(次に訪れる機会があれば麺固めで)
そして、
……テーブル。
……服。
気がつけば、じゅるじゅるのスープが、カレーうどんなみに、びちびち、よくはねているラーメンであった。
のぼりには、偽りなしの、こってりとした店であった。
帰り道。
アスファルトの上で、靴すべる。
2012.1.9 polished