『命のビザを繫いだ男 小辻節三とユダヤ難民』著 山田純大 | それでも僕は行こう

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命のビザを繋いだ男―小辻節三とユダヤ難民/NHK出版

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山田純大さんは、俳優をしていらっしゃる。皆さん、ご存知だろうか?
色んなドラマにチラホラ出演されていて、クールでダンディーな方である。
私はファンだった。
英語は堪能。経歴というか色々あるが、ここでは割愛しておこう。
「命のビザを繫いだ日本人たち展」というものが開催され、そこで純大さんがこの本にまつわるトークショーを行うとのこと、わくわくしながら参加。

杉原千畝の『命のビザ』は有名だが、滞在期間は10日から2週間、その後のユダヤ人の行方を考えたことがあるだろうか。
純大さんは、感動しながらも疑問を追求するべく調査していくのだ。
この小辻節三という人の資料は、日本にほとんど残っていないので、純大さんはずっとずっと地道に調べていく。
小辻氏の家族にも会いに行き、何度も断られたそうだが、何度も何度も赴き、誠実な思いが心を開かせ、地道に地道に取材を重ね、十数年かかったと言われた。
この小辻節三という人は利益などを度外視して、人道的な見地からとヘブライ語を学んだ縁からユダヤ難民救済に携わるのである。
厳しい状況下、一筋縄ではいかないビザ延長をやってのけ、ユダヤ難民の強制送還を逃れ日本国外へ送り出せたのだ。
その後も、世界的に反ユダヤ思想が広がる中、『ユダヤ民族の姿』を出版している。そして、特高に拷問を受けたりもする。
小辻氏は、神道、キリスト教、ユダヤ教、と突き詰めユダヤ人を愛し、エルサレムに埋葬されている。
「義を見てなさざるは勇なきなり」という言葉を行動規範にしていたのだそうだ。
大変な時代背景の中、ひるむことなく小辻氏は自分の道を邁進した。
こんな誇らしい日本人が埋もれていたのである。
そして、自伝を英語で書き、アメリカで出版している。これも複雑な背景がある。純大さんが苦労して翻訳された。
何と純大さんは、小辻氏の卒業論文も翻訳されたらしい。
その後の取材も素晴らしいのだ。
命のバトンを繫いだ人たちは、やはりそれを繫いでいく。
小辻氏は、「百年以内に誰か、自分をわかってくれる人が現れるだろう」と言い残したそうだ。
それが純大さんの役割だったのだ、きっと。
初め頑なだった娘さんたちも、小辻氏の大事な資料を渡していく。純大さんを信頼し、偉大な父親の功績を広めてくれる実感が持てたのだろう。
純大さんは、このほとんど世に知られていない小辻節三氏の掘り起こしと世に伝えていくことを、使命であると書いている。
確かに、ふとした出会いで関心を持ち、その魅力に取りつかれ、伝えていきたいと強く思う様は、きっと導かれたのだと思う。
小辻氏の人生はまるで映画のようである。商業的ではない、小辻氏の魂が伝わる映画を作ってほしいなあ。
時代も、国同士の関係性、日本の立ち位置など非常にわかりやすかった。


現在、奇しくもシリア難民の事がニュースとなっている。
トークショーでは、山田純大さんと同じくユダヤ人難民の取材を進めている古江孝治氏が同席された。
その中で、どんな理由も戦争を肯定するものではない、戦争はどんな理由があってもだめなのだ、というようなことを言われていた。
正しく、その通りだと思う。


山田純大さん、知らない世界を紐解いていただいて、ありがとうございます。
俳優業の傍ら、大変だったことと思います。


素晴らしい本です。
是非是非、多くの方に読んでいただきたいと思います。