ヒカリ♀
ノゾ♂
交互のセリフです。最初だけ名前つけてます!




ヒカリ「あ、もう二つ目だ。案外深夜にも飛行機って飛んでるもんなんだねー」

ノゾ「ねえ」

「ん?」

「俺たち、一体何してんの」

「空を見て、飛行機捕まえてる。なんかさぁ、昔漫画で見たことあんの。飛行機を十個捕まえたら、願いが叶うってハナシ」

「それはわかってるよ。でもこんな冬の日に、敢えて外で?やる意味ある?ソファーまで運び出して」

「ふふん、うちの庭、広いでしょ」

「そう言う問題じゃないんだよ」

「だからぁ、ありったけ厚着して、カイロもいっぱい使って、寒くないようにしてんじゃん」

「……あ、三つ目」

「おお、マジだ!捕獲だ捕獲ー!
 ……まぁ、あれよあれ。もう一週間じゃない?だから色々真相に迫っていこうかと思って」

「今まで何も聞かない方がおかしいんだよ」

「タイミング逃しちゃった的な感じね。そうだな、まず〔ねえ〕さんの名前は?」

「ほんとに一週間、それで呼んでたよね。意外と名前って必要じゃなかったんだ、っていう気分になった」

「ねえ、ご飯食べる?ねえ、起きたら?ねえ、お風呂沸いたよ。いやぁ、ねえって本当便利な言葉だよねぇ」

「ノゾム。俺の名前。希望って書いてノゾム」

「じゃあノゾって呼ぶね。
 ってか、なんであんな所に落ちてたわけ?希望は田んぼの側溝に落ちてたりしないもんだけど」

「腹が減って、寒くて、眠くて意識が朦朧としてたんだよ……この辺り、街灯すらないもんな。田んぼと道の境目がわからなかったんだ」

「マジでびっくりしたわ。なんかうめき声聞こえると思って照らしたら、人間がいるんだもん」

「それを拾って持ち帰る女も、なかなかびっくり人間だけどな」

「だってあのままほっといたら、死ぬかもって思ったんだよ。警察に届けるにしても、あんた側溝にハマってたせいでびしょ濡れの犬みたいだったし。不憫でさぁ」

「犬の方がまだ安全だよ。危機管理能力もう少し仕事させた方がいい。それで助かった俺が言えることじゃないけど……。
 じゃあ、まずは一週間居候させてくれてありがとう。何も聞かないでくれてありがとう。全部、話すよ」

「おむ。あ、四つ目。ちなみにあたし、ヒカリっていうの」

「ああ、ヒカリ……うん。どこから話そう。じゃあヒカリ、マルエツの対面にある角の店、知ってる?」

「マルエツって交差点にあるスーパー?空き店舗だったけど、最近なんか入ってたね。健康器具だか食品だかの店。怪しい感じのやつ。
 でもちょっと前に撤退してた気がするけど」

「そうそう、俺あそこで働いてたんだ」

「えっっ?クビになったってこと?」

「厳密には違うけど……まぁそんな感じ。ヒカリの言う通り、あれって半ば詐欺まがいの店舗だったんだ。
 よくあるだろ、高齢者に効きますよ!なんて言って色々売りつける詐欺。腰痛に効くとか、耳が聞こえるようになるとかのサプリ。他のところがどうかは知らないけど、少なくとも俺の所じゃ全部嘘だったね。
 飲んでもなんの足しにもならない、そんな成分しか入ってなかった」

「うん、それで?」

「俺、高校卒業してから家出てさ、この会社で五年働いたんだ。随分口も上手くなったし、年寄りからもウケが良かった。でもずっと、マトモな暮らしじゃないって思ってた。
 飲み続けると二ヶ月ほどで効果が出ますなんて言っといてさ、その頃にはもう移動するんだよ。全国に貸店舗なんていくらでもあるから、もうここで稼ぎ尽くしたってなると次の地域へ移る。当然住所なんてありもしない。クレジットカードも、銀行口座も作れない。そんなのが正しい暮らしのわけがない……。
 だけどここを辞めたら、一体誰が俺を証明してくれるんだろう。誰が、俺の事を人間として認めてくれるんだろうって考えると、怖くて……」

「…………」

「でもここが俺の限界だったみたいだ。辞めたいって言ったら、当然引き止められた。まぁ俺、稼ぎ頭だったからね。でも一度嫌だと思ったら、どうしても無理だった。
 最終的に辞めさせてくれないなら警察行きますって言って、ようやく。それでも今まで稼いだ金と財布全部取られたよ。まぁほとんど金なんて入ってなかったけど。
 その後奴らは俺を置いて移動した。どこに行ったのかなんて知らない。俺はここで、もう終わるつもりでいた。腹が減って喉が渇いて、寒くて、穴に落ちた時はこのまま冷え切って死ぬんだと思った」

「そこにあたしが通りかかった。五つ目」

「そうだよ。正直あの電灯で照らされなかったら、そのまま死んでたんじゃないかな。感覚もすでになかったし」

「いやごめんね、あれ業務用の高出力懐中電灯でさ?本当は人に向けて照らしちゃダメなやつだったんだよね!」

「そうだと思った!目が潰れたかと思ったもんな!でもそのせいで意識が少し回復して、感覚が浮上した。やっぱり寒くて痛くて、腹が空いてた。
 そしたら、上から声が聞こえてきた」

「そうそう、だーいじょぉぶですかぁ〜?って声かけたんだよね。死体じゃないか確認したくて」

「それ聞いた時、なんでか俺はまだ、生きたいって思った。でも置き去りにされる可能性が高いこともわかってた。声から若い女性だなと感じたし、こんな怪しい奴助けるわけないだろうって。
 でも、そいつは手を伸ばしてきた。起きれる?とか聞いてきた。俺は手を握って、死に物狂いで側溝から抜けた。肩を借りた。足に感覚がほとんどなかったけど、一生懸命歩いた……。
 そんで今に至る、わけ」

「わぁ、なかなか波瀾万丈な人生だったんだねえ」

「次はヒカリ、お前の番だ」

「え?あたし?特に何にもないよ。一家があたし以外、もう生きてないってことぐらいしか」

「いやそれ……あ、六つ目」

「別に暗い話じゃないよ。うち母と父とあたしの三人家族でね。母が一年前に死んじゃったの。あたしは他の所で働いてたんだけど、父が心配で帰ってきた。もう本当昭和の親父って感じで、自分じゃ何にも出来ないからさ。ずっと母に頼りきりでね。
 でも、あたしじゃダメだったみたい。どんどん元気無くなって、お母さんの仏壇の前にいることが多くなって。三ヶ月前にね。
 仕事に復帰することも出来たけど、いろんな整理とか、親戚への対応とかで疲れちゃった。実家に住んでるのに、ここは自分の家じゃない気がしてたまらなかった。だって誰もいないんだもん。
 気晴らしに深夜の散歩することが増えた。誰にも会いたくなかったの。顔を見ると可哀想にとか大変でしょうとかそればっかり。みんな好奇心でしかないのに、心配してるって顔してうんざりだった。でも、それはあたしの方がねじ曲がってるんじゃないかって自己嫌悪にもなった。
 もう、何もかもが面倒だったんだ。最後に見たお父さんの背中、忘れられない。あたしがもっとしっかりしていれば、もっとちゃんと励ませてたら……」

「そんな時、俺が落ちてたわけだ」

「そう……うん、気づいたら肩かして、ご飯作ってお風呂沸かしてた。あたしが父の為にずっとやってきたこと。もう何も考えなくても出来る事……もう、必要なかった事」

「はい」

「なんでティッシュなんて持ってきてるわけ?」

「なんかこういう展開になる気がしてた。一人で住んでるわりに食器も多かったし、男物の服もあったし。多分……そうなのかなって」

「稼ぎ頭っていうのにも納得しちゃうね。エスパーじゃん。いや、名探偵?」

「そんなんじゃない。年寄りの話聞くこと多かったからさ。大概の話のオチは予想できるようになったってだけ」

「はぁ〜視界が歪む……お、飛行機発見!滲んでるせいかな、二つ見えるや」

「ん。じゃあ合計八個」

「……ノゾ、出ていく?」

「難しいこと聞くね。出て行くのが当然だろうね」

「そうだよな。あ、また飛行機」

「これで九つ目。ヒカリの願いって何?」

「寒いなぁ、やっぱり寒かったな。願いって欲ってことだよね。あたし、最近やっと気付いたんだ。人生欲無しじゃ生きられないこと。ご飯が食べたいこと、お風呂に入りたいこと、好きなものが欲しいこと、飛行機を、捕まえたいこと……」

「願い一個じゃ足りないじゃん」

「うん、ほんとそう。でもね、一つだけで良い。ノゾがいたら、全部叶う」

「……俺、悪い奴だよ」

「知ってる。でも必要悪だよ。少なくともあたしには」

「……ソファ、居間に戻そう。これ結構重いから時間かかる。そんでその後、テレビ見て、寝て、そしたらまた明日が来るから」

「よいしょっと、じゃあそっち持って。ひゃあぁ、手がかじかんで痛い〜!おもい!」

「がんばれ、明日も俺はいるよ。多分明後日もいる。ずっといるから、がんばれ」

「うん、うん……ありがと」

「ヒカリ、上見て」

「あ……十個目?いや、ただの星っぽい…?」

「誰がなんと言おうと十個目だ。これで全部揃ったな」

「そういうの、ズルっていう……」

「これは良いズルなんだから、必要悪。だろ?」

「うわぁ……。っふふ、あはは。ノゾは、悪いやつだなぁ……」