銀次:俺の名は烏丸銀次。イタリアンマフィアだ。弱小ではあるが、シチリア島の西部でコルボファミリーに所属している。

 0:〜ファミリー所有の邸宅にて〜

銀次:今日は昼から会合で……夜はパブの売上回収と……久々に日本の情報でも収集するか……。ツイッツァーは今どんな話題が出てるん……!?

0:銀次、スクロールの手を止める

銀次:今日はマフィアを焼きますだと!?なんだこいつは!?こんなに正々堂々と放火を公言して!?

銀次:どうせ打ち間違えかなんかだろ。紛らわしい奴だフォロワーも少ないし、アイコンもなんか素っ気ねぇな……でもこういうやつが案外凄腕の殺し屋だったりするからな

銀次:馬鹿馬鹿しい、何を考えてるんだ俺は。仕事に集中しろ、仕事に。

銀次:(M)そう、思っていた。何かの間違いだろうと。

銀次:(M)でもこの日……俺のファミリーは……

銀次:火災で、崩壊した。

0

0:マフィア、焼きました!

0

銀次:ボス、本気なのか?

ボス:こんなに綺麗に焼けちまったんじゃあ、もうぶっ壊すしかねぇだろう。

銀次:じゃあ拠点はどうするんです!?

ボス:銀次、いい機会だとは思わねぇか?もうここいらでファミリーは……

銀次:何馬鹿なことを言ってるんですか!?まだまだこれからでしょう!

ボス:現実を見ろ、もうこのご時世、マフィアだけで食ってくのも大変なのはわからぁな。それに……俺も、老いた。もう潮時なんだよ。

銀次:そんな、嘘でしょう!?納得できません!!

ボス:わりぃな銀次、俺はこれからはベーべちゃんと、一緒に穏やかな余生を過ごすつもりだ

銀次:誰ですかそれは!?俺の知ってる女ですか!?

ボス:ほれ、お前もよく知ってるだろ。可愛くて仕方ねぇよな……わかるだろ?

銀次:ってこれ!俺が拾ったブッサイクな猫じゃねぇか!!目を覚ましてくださいボス!つーか、今にも死にそうだったのにずいぶんふくよかになりやがって!!毛艶も!

ボス:ベーべちゃんの事を悪くいうな!めちゃくちゃ可愛いだろうが!!とにかく、お前は日本に帰れ。もうここにいても養ってやれねぇ

ボス:とはいえ途中でほっぽりだすのは悪ィと思ってる。これは餞別だ。日本でお前らしく生きろ。

銀次:金なんて……!俺は、ボスと

ボス:まぁ、達者でやれや。何かあったら連絡はするから

銀次:(M)実にあっけなく。俺の三年に及ぶマフィア生活は幕を閉じた。ボスからの餞別は三百万……こんな金!!

銀次:アイツだ!あの野郎が、俺のファミリーを!!ぶっ殺してやる!日本に帰って復讐してやる……!!

0:間

銀次:(M)それから俺はそのアカウントを監視。奴は随分間抜けなようで、最寄りの駅やよく寄っているコンビニから大まかな住所は割れた。

銀次:(M)そして奴はスイーツショップに勤めており、厨房担当らしい。殺し屋とスイーツ、正反対で全く繋がらない……奴は相当手練れなのではないか?行ってみれば、わかる……帰国した俺は、真っ直ぐに奴の元へ向かった。

銀次:この辺のはずだ……パティスリーグランブルージュ……あった!

明日樹:いらっしゃいませー!

銀次:………は、いるか?

明日樹:はい?何かお探しですか?

銀次:ここに、ツイッツァーネーム、アズキはいるか!?

明日樹:お!つぶやき見て来てくれたんですか?僕がアズキです!

銀次:お前かぁ!!俺のファミリーを焼いたのは!!!

明日樹:……はい??

銀次:マフィア焼いたのはお前かどうかって聞いてんだよ!!答えろ!!

明日樹:……あ、あー!あの誤字ツイッツァー見て来た人!?すいません、あれ、マフィンの誤字です

銀次:……は?マフィン?

明日樹:マフィンです、知ってますか?マフィン。あまいやつ

銀次:んなことわかっとるわ!!

明日樹:いやー、ツイッツァーの誤字って編集出来ないんで、消そうと思ったんですけど万バズした手前もったいなくて

銀次:じゃ、じゃあ、お前が焼いたのはシチリアのマフィアじゃなくて、ただのマフィン!?

明日樹:シチリアのマフィアなんか焼けるわけないでしょ!命がいくつあっても足りないでしょうが!!

銀次:そんな……俺は、一体なんのためにここまで……

明日樹:え?え??どういう意味ですか?最初からお客さん、イケメンだけどドス効いた顔してるなぁ〜と思ってましたけど、まさかマジモンのマフィアだったりします?

銀次:そうだが?俺はシチリアのマフィアだった、んだよ……それがあの日、アジトが焼け落ちて……

明日樹:え、え、え、ほんと、に!?うわぁぁあぁ!!!店長!警察呼んで!あっ僕が店長だった!いやぁぁ!!違いますよ!?僕がやったんじゃないですよ!?

銀次:……んなことは、お前のその間抜けなツラ見たらわかる……っと、電話が

ボス:ヨォ銀次、元気にしてるか?

銀次:散々ですよ何かありましたか?

ボス:いやぁ、べーべちゃんがな?

銀次:そいつの話はいいです……

ボス:べーべちゃんがどうでもいいだと!?銀次、てめぇいつからそんなに偉くなりやがったんだ?俺のメスが飯食わなくなったんだよ!!どうすりゃいい?

銀次:……

明日樹:あのぅ……

ボス:ぁあ?

明日樹:あ、僕の声聞こえます?

ボス:聞こえるが、誰だお前は

明日樹:あのぅ、僕、アズキと申します。ちょっと猫には詳しかったりするのでよかったら、べーべちゃん見ましょうか?

ボス:あ?じゃあ、頼む。この子がべーべちゃんだ、可愛いだろう?

明日樹:わぁ、見事な富士額ですね〜!可愛いです!ちょっと口の中見せてもらっても?

ボス:そうだろそうだろ!お前、なかなか話がわかる奴じゃねぇか!あぁ、ほーらべーべちゃん、お口開けてなぁ〜

明日樹:ん、なるほど……虫歯ですね!

ボス:は?虫歯??

明日樹:はい、虫歯です。明日にでも動物病院で抜歯してあげてください。猫は歯がなくてもご飯食べれますから、大丈夫ですよ。

明日樹:逆に虫歯を放置している方が危険なので、なるべく早めの処置してあげて下さいね。

ボス:そうか!助かったぞ!銀次、お前からもよくよく礼言っといてくれ!じゃ!

明日樹:ボスさん、日本語ペラペラですねぇ

銀次:は?あ、あぁ、そうだな……前は外交してたらしいから、何ヵ国語かは喋れるらしい……

明日樹:へぇ〜すごい方なんですね……

銀次:………

明日樹:あのぉ

銀次:なんだよ

明日樹:ヒィッ!顔怖い!あのぉ、銀次さんはこれから、どうするんですか?

銀次:……どう、するって。

明日樹:イタリアに帰るんですか?

銀次:……まだ、決めてねぇ

明日樹:ひとつ、提案があるんですけど





銀次:あずき

明日樹:はい、なんでしょう

銀次:俺は一体、何をやってるんだ?

明日樹:マフィン売ってますね!

銀次:いやいやいや、なんでだ?なんで俺はマフィンを売ってるんだ?こんなクソダセェ前掛けまでつけて!?

明日樹:前の子がエプロン残してくれてて良かったです!

銀次:俺は、おれ……

明日樹:丁度バイトちゃんが辞めちゃって銀次さん本当にナイスタイミングだったんですよ!売上もほらぁ!こんなに!

銀次:なぜ……おれがマフィンなど

明日樹:銀次さんイケメンだから、お客さんすごく増えたんです!接客スマイルはゼロどころかマイナスなのに!

銀次:この俺が!女子供にヘラヘラするわけねぇだろ!

明日樹:そういうとこなのかな〜、なんか来るお客さんってほとんど銀次さん目当てなんだもんな〜僕だって一応男なのに……

銀次:お前は今流行りのジェンダーレスみたいな感じだろ

明日樹:そういうこと言うと怒られますよ!流行りとか関係なく、僕は僕です!でもですよ、普通は逆じゃないですか?

銀次:なにが

明日樹:こーいうスタイルの物語だと、普通は寡黙な脛に傷ある系のイケメンが焼き係で、自分みたいなちょっと中性的可愛い系が売り子だと思うんですけど

銀次:自分で可愛いとか言うな。俺が焼いても絶対焦がすし、適材適所ってやつだろ

明日樹:だからですね、銀次さんにもマフィンの焼き方覚えてもらいます!お客さんも増えたし、新作の構想も兼ねて!

銀次:せっかくの休みだったのに……

明日樹:付き合ってくれるあたり、銀次さん割といい人ですよね

銀次:一応住むとこまで手配して貰ってんだ。仁義は通す、それだけだ

明日樹:かったいなぁ〜、別に気にしなくてもいいのに……よし、それじゃ新作の話なんですけど、食事系のマフィンを作ろうと思うんですよね!

銀次:それがいい。ここのマフィンは甘ったるくてかなわん……賄いがそれだけとか舌がバカになる

明日樹:僕のとこのはかなり甘さ控えめですよ!?

銀次:知らん。他の所のマフィンなど食わんしな。それで、中に何入れるんだ

明日樹:それが悩んでるんですよね〜ベーコンとかチーズじゃありきたりだし銀次さんの好きな食べ物ってなんですか?

銀次:イカの塩辛

明日樹:うへぇ……マフィンに入れたら絶対生臭いやつぅ……

銀次:魚入れるならオイルサーディンとかいいんじゃねぇのか

明日樹:それってイワシでしょう?生臭くないですか?

銀次:塩辛いが、そんなに生臭くはねぇかな……気になるならバジルぶっかけときゃいい。向こうではトマト混ぜて食ってた

明日樹:お、なんか……良さげな気がしてきたぞ!?トマトは水っぽくなるから、半ドライぐらいが丁度いいかも……?試作してみましょうか!

0:間

明日樹:ん〜ちょっと塩辛い

銀次:イワシの量減らして、トマト多めにしたらどうだ。マフィンって案外簡単なんだな

明日樹:分量と温度と時間さえ守れば、それなりに出来ますからね

銀次:……着信だ、少し出てくる

銀次:はい

ボス:よぉ銀次、調子はどうだ?あずきと上手くやってるか??

銀次:まぁ……ぼちぼちです

ボス:お前に伝えることがある。近々そっち行くわ

銀次:は?え?来るんですか!?

ボス:あずきとやらも見てぇしな。後で地図送れよ

明日樹:あ、おかえりな……って顔怖ッ。どうかしました??

銀次:ボスが、来るらしい。多分三日後だと

明日樹:なんかあったんですかね……

銀次:さぁ、どうだろうな

明日樹:銀次さんは、なんでイタリアのマフィアになったんですか?どう見ても日本人ですよね?

銀次:ボスに拾われたからだ。三年前に、日本で碌なことしてなかった俺はヘタ打って半殺しにされた

明日樹:ひぃ、なんか知らない世界の話だなぁ

銀次:いよいよ死ぬかってなった時……

明日樹:ボスが来たんですか!?

銀次:いや、最後の力を振り絞って俺は逃げた

明日樹:え、思ってたんと違う……

銀次:逃げて逃げて逃げついた先が、小汚いバーだった。そこで雇ってもらって働いてた時、ボスが来たんだ

銀次:俺の何が気に入ったのかわからねぇが、一緒に来ないか?って誘われた時、もう日本は捨てようと思ったんだが……

明日樹:………

銀次:こうやって戻ってきて、暮らしてると懐かしくてたまらねぇんだ。俺は本当は帰りたかったのかもしれない。ボスは、気づいてたのかもしれねぇよな

明日樹:もし、ボスが……

銀次:あ?

明日樹:戻ってきてくれって言ったら、どうしますか

銀次:……わからねぇ





ボス:よぉ、銀次

銀次:ボス!お久しぶりです……!!

ボス:随分可愛らしい格好してるじゃねぇか、似合ってるぞ

銀次:こ、これは!ここの制服で!

明日樹:初めまして!明日樹です!

ボス:お前がアズキか、銀次が世話になったなぁ

明日樹:こっちこそお店の売上に貢献してもらってます!あの、べーべちゃんは元気ですか??

ボス:おう、ほら愛らしいだろ

明日樹:わ〜!めちゃくちゃ懐いてる!可愛いこのお鼻の黒子、いいですね〜!

ボス:だろ!?銀次ときたらこの黒子の事鼻くそなんて呼びやがる!全くセンスのねぇやつだよな

銀次:明日樹、少し外していいか

明日樹:はい!積もる話もあるでしょうし、僕一人でお店は大丈夫ですよ!

ボス:悪いな、ちょっと銀次借りるわ

明日樹:銀次さん

銀次:?

明日樹:あ……

銀次:すぐ戻ってくる。待っててくれ

0:間

ボス:銀次、お前日本に戻ってからどんくらい経つ?

銀次:三ヶ月、くらいですかね

ボス:その間に随分と腑抜けに成り下がったみてぇだな?ゆるい顔しやがって

銀次:……すいません

ボス:放火の、犯人が見つかったんだわ

銀次:え……

ボス:マルロとファルだ

銀次:な、なんで兄貴たちが!?

ボス:一応小さくても縄張りはある。対抗勢力にそそのかされたみてぇだな

銀次:今、じゃあファミリーは……

ボス:銀次、戻ってくるか?

銀次:え、

ボス:解散だなんて言ったがな、新しい拠点も見つけてる。部下もほとんど戻った

銀次:そう、ですか……

ボス:戻ってくるなら、上に上げてやる。マルロの位置がお前だ。

銀次:俺は、ボスに従います

ボス:おい、俺はお前に聞いてんだよ。お前が選べ。お前がやりたい方を選ぶんだよ

銀次:俺は、選べる立場じゃ……

ボス:お前がつまらなさそうな顔してたら連れて帰ってやろうと思ってたが……銀次、お前はよく似てる

銀次:誰に、ですか

ボス:息子。もういねぇけどな……息子はマフィアなんぞ嫌だとずっと言ってた。なのに抗争に巻き込まれて死んだんだ……

銀次:……

ボス:で、どうなんだ?お前の気持ちは

銀次:俺は……ここに、残りたいです

ボス:その理由は俺への忠誠よりも重たいもんか?

銀次:重くないです。ずっとずっと軽いです……でも、たった三ヶ月、日向に出ただけで……もう、影には戻れなくなっちまったんです……

ボス:そうか

銀次:あなたへの忠誠は嘘じゃない、感謝してるんです!新しい世界を見せてくれて!新しい居場所を作ってくれた!

ボス:明日樹と、同じようにな

銀次:すいません……

ボス:いーや、俺も試すような事して悪かったよ

銀次:え?

ボス:お前に帰る気がねぇのは、顔見た瞬間わかってたんだわ。ただ、ここでやる覚悟がどれほどのもんか確かめたくてな

ボス:大体雨の日にネコ拾ってくるような、善人ステレオタイプのお前にマフィアなんぞ向いてなかったんだよ。まぁ、よくやってくれてたとは思うけどな

銀次:ボス……

ボス:さ、戻るか。あんまり遅いとアズキが心配する。お前にはもったいないぐらいの人間だ。大事にしろよ

銀次:はい……ありがとうございます



明日樹:銀次さん、ボスさんおかえりなさい!

ボス:おぉ、すまねぇな、結構時間取っちまって

明日樹:大丈夫ですよ、今日は少なめに焼いてたので、早めに店じまいしたんです!

銀次:そうか、世話かけたな

明日樹:いいえ!……あの、それで、銀次さんはえぇと、その

銀次:明日樹

明日樹:は、はい!なんでしょう!

銀次:また、世話になる

明日樹:へっ!?

ボス:ふつつかな?男だが、よろしくしてやってくれ

明日樹:僕……てっきり帰るとばっかり……

ボス:それがな、明日樹がいないとダメなんだってよ〜

銀次:そっそんなこと一言も言ってねぇじゃないですか!!

ボス:あっはっは!怒るなよ!さて、俺はそろそろ帰るわ

明日樹:えっ!?もうですか?もうちょっとゆっくりして行ったら……

ボス:ありがてぇけど、ボスってやつもなかなか多忙なんだよ。気持ちだけ受け取っとく

銀次:ボス本当に、すいません……

ボス:馬鹿、謝って済むんならケーサツ要らないってこの国の言葉だろ。お前はどこにいても俺の息子だよ、元気でやれ

明日樹:あの、これ……

ボス:なんだ?

明日樹:僕と銀次さんで作った新作マフィンです!なんか、ちょっと考えてみたら、イタリアの香りがするんです

ボス:ほぉ?そうか……そうか。ありがとう、帰りにでも食ってみるよ

銀次:ありがとうございました!俺、ここで頑張ってみます!




明日樹:行っちゃいましたね

銀次:あぁ

明日樹:泣いてます?

銀次:泣いてねぇよ!!ふざけたこと言ってんじゃねぇ!

明日樹:はは、調子戻ってきた

銀次:明日樹

明日樹:はい?

銀次:ありがとな

明日樹:お互い様ってやつですよ。さ、明日は今日の分取り戻さなきゃ!仕込み仕込み!早くお店入って!

銀次:今日は俺が焼いてみる 

明日樹:はい!今日も美味しいマフィン、焼きましょうね!