No.250 ふぞろいの 麦わらストロープロジェクト/社会福祉法人慈恵会 ゆいの里・株式会社Li | ART STYLE SHIGA(アートスタイル滋賀)

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高齢者と生産者がタッグ。
思い出話から生まれた、環境にやさしいプロジェクト。

 

 

 

 環境にやさしいとりくみで地域を活性化させたい、でも手間のかかる加工作業ができない…という農業従事者。一方、高齢になってもまだまだできることはあるし、社会と繋がりたい。でも出番がない…。そんな利用者を見つめる高齢者施設。この両者が繋がることで、新しいプロジェクトが誕生した。それが『ふぞろいの麦わらストロープロジェクト』だ。プロジェクトを運営するのは、社会福祉法人慈恵会ゆいの里。きっかけは「子どもの頃、麦わらをストローにしてジュースを飲んだよ」という、ある高齢者の思い出話だった。

 

 麦わらを排出する小麦やもち麦の生産や収穫は、守山を拠点とする株式会社Liv.Nが担当。麦の刈り取り後、田んぼに鋤き混み、肥料として利用するのに止まっていた麦わらを、ゆいの里の利用者が『麦わらストロー』や北欧生まれの藁製モビール「ヒンメリ」に加工する。これらは『ふぞろいの麦わらストロー』『じぃじの作ったヒンメリキット』という商品名でゆいの里で販売しているほか、びわこ地球市民の森で開催されている「びわこ手作り市」へ出店。出店日当日には、製作者である施設利用者も、売り子やワークショップの先生役として、自分たちで作った商品を広めている。売り上げは利用者に還元。地元の和菓子屋や作業所のお菓子を購入したり、コーヒーを飲みにお出かけしたりして、仕事への対価を形にしている。

 

 

 

 このプロジェクトがきっかけで、生産者はより環境にやさしい農法に取り組んだり、環境改善の取り組みを少しでも実践するようになったほか、製作者(高齢者)にも変化が。同法人守山デイサービスの主任、藤井久美さんによると「作品を仕上げることに責任感を持って取り組んでくださるようになりました。特にヒンメリづくりは麦をカットする人、パーツを組み立てる人、パーツを繋げて一個の作品に仕上げる人などの役割分担ができ、ご利用者同士で自主的に取り組まれるようになりました。知り合いや家族に配布したり、作ったものを広める活動も活発になっています」。

 

 ストローの購入者からは、「自然の味がして、お茶が美味しく感じた」「環境問題に貢献できていると感じた」といった声が届いており、今後はJA直売所おうみんちでの出店やネット販売など、販路拡大も視野に入れている。「高齢になるとできなくなることばかり、と感じておられる人が多いと思います。確かにできなくなることもあれば、できることもある。麦ストローの加工工程のほとんどが手作業。だからこそ、みなさんの活躍の場になっていると思います。

 

高齢になっても、認知症があっても、社会貢献できることをみなさんに知っていただきたいです。それに農業、福祉の分野ともに環境問題への取り組み意識が低いと感じています。今後は周りの農業仲間とともに。少しでも環境に配慮した農業実践に取り組んで、安心安全な農産物をみなさんに届けていきたい。福祉と農業のそれぞれの課題が、手を繋ぐことで未来への可能性が見えると考えています」(藤井さん)。高齢者が社会と繋がる、プラスチックに変わる自然の力を活かす。サステナブルな社会の実現のために、小さくて大きな一歩が踏み出されている。

 

【profile】
ふぞろいの麦わらストロー プロジェクト
特別養護老人ホームなどを運営する「社会福祉法人慈恵会 ゆいの里」と、水稲や大豆および露地野菜を生産している「株式会社Liv.N」。守山市を拠点に活動する両事業者が、人材や農業の副産物など、活かされていないものに目を向け、社会貢献や環境改善につなげるために2022年より始動。Liv.Nが生産・収穫する守山特産の麦やもち麦の「麦わら」を、ゆいの里を利用する高齢者が手作業でストローやモビールキットに加工し、販売。環境にやさしいものづくりと、高齢者の社会貢献活動の両立で、サステナブルな社会の実現を目指す。