260年間平和が続いた、江戸時代の政治の象徴。
彦根城を、世界遺産に。
去る10月、比叡山延暦寺に続く県内2番目の世界遺産登録に向けて、大きな一歩があった。ユネスコの諮問機関の事前評価で、彦根城が世界遺産登録の可能性があるとされた。 彦根城の歴史を振り返ると、1604年に江戸幕府の命により、全面的なバックアップをうけて建設が行われ、1607年頃に天守が完成した。 日本の江戸時代は、260年もの間安定した社会が続いた時代で、世界でも『パクス・トクガワーナ(徳川の平和)』と呼ばれている。長きにわたって平穏な時代が続いたのは、当時の将軍が各地の大名に領地を任せ、政治の権限や財源を認めることで、大名に責任をもって地方の政治を行うよう求め、その拠点として一つの城を預けたことによる。城は二重の堀と石垣で区画され、その中に政治を行う場所として御殿と重臣屋敷を集め、政治理念を共有するための施設として庭園などが造られていた。
このような形をした城は、明治以降の廃城や戦災等を経て失われていった。その中でも現在、彦根城は最も残りが良く当時の政治の仕組みを体感できる唯一の城となった。 「城といえば戦いをイメージしがちですが、江戸時代は平和な時代。平和な時代における統治拠点としての新しい城や歴史の見方は、意外と気づかれていないのではないでしょうか。堀が完全な形で残されている城は、彦根城を含め全国でも数例しかありません。また、重臣屋敷の一角に位置する西郷屋敷長屋門は、全国に残る長屋門の中でも最大級の大きさを誇ります」と、彦根城世界遺産登録推進協議会事務局の上井佐妃さんも語る。
世界遺産の制度では、同時代、同種類の同じ価値を持つ資産を新たに登録することができない。17世紀初頭の木造城郭建造物の建築様式を示す人類史上の傑作と評された『姫路城』は、1993年に世界遺産登録。そのため彦根城は先に登録された姫路城とは違う価値があることを説明する必要がある。事前評価は、推薦書の提出に先立ち、顕著な普遍的価値が備わっているかをユネスコの諮問機関から事前に公式なアドバイスを受けるというもので、今回、世界遺産登録に向け大きく前進したことになる。彦根城は、地域にとってなくてはならない存在として長い間親しまれている。彦根市では、市内で出前講座を継続的に開催。
毎年秋に開催される『ひこねの城まつりパレード』には、こども大名行列などに市内の小中学生総勢数百名が参加している。そんな地域の当たり前の光景が、世界遺産に登録されれば、世界的にもかけがえのない宝になる。 順調に審査が進めば最短で2025年度に国内で推薦候補に決定、2027年のユネスコの世界遺産委員会での登録となる。「彦根城の世界遺産登録には、地域の皆さまの応援が不可欠です。彦根城の世界遺産への取り組みを知って、ご家族やご友人、周囲の方とPRイベントなどにご参加いただき、一緒に活動を盛り上げていただけたら嬉しいです。応援のほどよろしくお願いいたします」(上井さん)