No.248 電車と青春21文字プロジェクト/京阪電鉄石山坂本線沿線住民らでつくる市民グループ | ART STYLE SHIGA(アートスタイル滋賀)

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「滋賀には魅力的なアーティストがたくさんいる。
この素敵な事実をみんなに伝えたい」、そんな想いで始めた"アートスタイル"。
ミュージシャンやモデル、俳優、お笑い芸人、芸術家、建築家など幅広いジャンルのアーティストをご紹介。

青春21文字のメッセージ
「ことばが光るとおもいが届く」

 

「青春と電車」をテーマに、21文字で表現する「第17回青春21文字のメッセージ」。その優秀作が先月発表された。最優秀賞に当たる知事賞を受賞したのは、近江鉄道に勤務する男性駅員が作った『子ども切符を買った子の手に十円の跡』。そして同じく最優秀賞の大津市長賞は、神奈川県の女性による『さり気なく譲る少年。お腹の子もそう育てたい』。自分で初めて切符を 買うのかもしれない子どもの緊張感と高揚感、もうすぐ母となる女性の、少年を見守る眼差し。どちらも目の前に情景が浮かぶとともに、温かい空気感も伝わってくる作品だ。

 

このコンテストは、大津市内を走る京阪電鉄石坂線(石山坂本線)の沿線住民らでつくる市民グループ「電車と青春21文字プロジェクト」が開催している。沿線には学校が多く、朝夕には制服姿の中高生で溢れる。ある女子中学生の「石坂線って青春っぽい」という一言から、始まった。俳句や川柳(17文字)でも短歌(31文字)でもない「21文字」は、石山坂本線に駅が21あることにちなむ。第1回から応募する常連組や、祖父母・父母・子・孫の4世代でメッセージを寄せる家族も。近年は国語の授業で取り組み、団体で応募する学校も20を超えたことで、10代の応募が半数以上を占めるのもプロジェクトの特徴だ。最終審査員の歌人俵万智さんも、「継続してきたことで「21文字」という新しい様式の文芸が生まれた」と期待を寄せる。

 

 

「人との距離感の持ち方に繊細になったコロナ禍の時代、「言葉が君の背中を押す」というキャッチコピーで(コンテストに)取り組む中、前向きになれる言葉の力に気付いた人が増えたのかもしれません」と語るのは、電車と青春21文字プロジェクト代表の福井美知子さん。「とくに今回設定した「出発・駅舎・笑顔」というサブテーマの影響もあるのか、「恋愛」を詠んだこれまでの作品以上に、「人と人のふれあい・交流」に着目したまなざしで、情景や交わされる笑顔がありありと浮かぶ作品が多く見られました」と続ける。

 

 受賞作を電車の広告スペースに中吊りにして走る『石坂青春号』は、今や大津の春の風物詩。近江鉄道の「あかね号」でも同時期に中吊りに掲出されるほか、信楽高原鐵道・JR西日本・比叡山鉄道の車内や駅構内、大津ナカマチ商店街でも展示される。また、観光の分野にも貢献。受賞作の電車展示を見るために、県外の受賞者が家族で訪れたり、商店街での入賞作を鑑賞する旅行ツアーにも他県からの参加者もある。

 

 

「言葉が光ると思いが届く。毎日見慣れた駅や電車が、言葉を介して人と人を温かい心で繋げる場に変身することに気付いて、想いを言葉にしていただければ嬉しい。滋賀が発祥の「青春」がテーマの文芸、「電車」という小道具(吊り革、席を譲る、窓からの 変わりゆく風景、改札など)、独特の電車という装置が生み出す世界から、他には見られない世界が生まれる。当たり前が宝物という、ささやかな日常を言葉にする取り組みが全国に広がり、笑顔を生み出してくれると幸いです」(福井さん)。
年齢制限がない「青春21文字のメッセージ」。電車に揺られながら、次回はあなただけの21文字を綴ってほしい。

 

【profile】

電車と青春21文字プロジェクト
公共交通を舞台に、ことばの力で地域の魅力を発信する市民グループ。メディア関係者、企業経営者、地元金融機関など、地元に根付いたこの活動を継承していきたいというさまざまな分野の有志が運営している。この企画は「NPO パートナーシップ大賞」「あしたの街・くらしづくり活動賞 内閣官房長官賞」「文化で滋賀を元気に!賞大賞」などを受賞。