現在、アーティゾン美術館で開催されているのは、“空間と作品”という展覧会。
6階から4階までの3フロアすべてを使って、
コレクションから選りすぐられた144点の作品を、
「空間」という切り口で紹介するのものです。
まず最初の展示フロアでは、
作品が置かれる空間に注目をしています。
例えば、江戸時代の修行僧・円空によって彫られた、いわゆる円空仏。
そんな円空仏が、美術館に展示されていると、
抽象彫刻、あるいはミニマルな彫刻作品のように感じられるはず。
でも、その正体は仏像、祈りや信仰の対象なわけです。
お寺やお堂に安置されていたら、
きっと彫刻作品とは思えないことでしょう。
つまり、空間によって見え方、感じ方が変わるということです。
襖絵や障壁画もまた然り。
美術館でケースに入れられて展示されるのではなく、
もともとの空間に置かれていたら、作品とは思えないかもしれません。
それを逆説的に紹介するべく、
本展では、あえて円山応挙の襖絵を、
大広間をイメージした畳敷きの空間で展示しています。
こちらの展示フロアで特に見逃せないのが、
中央にダイニングテーブルが設置された空間です。
その周囲に展示されているのは、
ピサロによる四季を描いた連作絵画で、
フランスの銀行家のオーダーによって制作されたもの。
本展で初公開される貴重な作品群です。
また、こちらの6階展示フロアでは、
インテリアスタイリストの石井佳苗さん完全協力のもと、
作品と現代のインテリアを組み合わせた空間も紹介されています。
美術作品と思って鑑賞すると、
人によっては、敷居が高く感じられるかもしれませんが、
こういったスタイルで展示されていれば、その心配はいらないはず。
いい意味で、インテリアの一部にしか感じられないと言いましょうか。
いい意味で、IKEAのルームセットのようと言いましょうか。
美術作品に対して、グッと親しみが湧くこと請け合いです。
なお、一部のインテリアは、椅子に座ったり、
空間の中に入ったりすることも可能となっています。
作品のある暮らし、の気分を味わうことができますよ。
さてさて、続く5階の展示フロアでは、
それらの作品を実際に空間に飾っていた、
かつての持ち主たちにフォーカスが当てられています。
例えば、こちらのコーナーで紹介されていたのは、
大コレクターと呼ばれた人たちが所蔵していた作品群。
また例えば、こちらのコーナーでは、
大名家に伝わった作品群が紹介されています。
他にも、昭和を代表する文豪・川端康成の旧蔵品や、
近代建築の3大巨匠の一人に数えられる、
ミース・ファン・デル・ローエの旧蔵品といった、
意外な有名人が所蔵していた作品たちが、
エピソードを交えながら、紹介されていました。
あの人物がプライベートでこの作品を観ていたのか。
そのように想像するだけで、不思議と作品の価値が少しアップしたような気がしました。
最後のフロアでフィーチャーされていたのは、額縁です。
額縁は、空間と作品を繋ぐ存在であり、
それ自体が作品に最も近い空間であるともいえるでしょう。
普段はあまり意識されない存在ですが、
改めて観てみると、額縁は作品と同じくらいに個性的。
画家本人がこだわり抜いた額もあれば、
ギャラリストが選んだもの、あるいは所有者が仕立てたもの、
美術館によって新調された額など、その来歴もさまざまです。
なお、お国柄によっても、額縁のスタイルは違うようで。
こちらのゴテゴテした額縁がスペイン式、
直線的で堀(?)が何重にも巡らされているのがオランダ式なのだそう。
フランスは王様によっても、トレンドが変わるようで。
左のシスレーの作品の額縁がルイ13世様式、
右のブーダンの作品の額縁がルイ14世様式とのこと。
こちらのモネの《睡蓮》の額縁は・・・・・
ルイ16世様式だそうです。
いつかどこかで使えるかもしれないので、
本展で得た額縁の知識を忘れないでおこうと思います。
そういう意味で、額縁に関するエピソードや、
5階フロアでのかつての所有者のエピソードは、興味深くはあったのですが、
作品のために設えた畳敷きの広間や、
インテリアコーディネートされた空間があった、
最初のフロアのインパクトに比べると、やや物足りなく。
尻つぼみ感は否めなせんでした。
展示の順番、ルートが逆だったら、もっとワクワクしたかも。
最後に、話を額縁に戻しまして。
長い美術の歴史の中で、
切っても切り離せない関係であった絵画と額縁ですが、
近年では、絵画を額縁にいれないスタイルの作家も少なくないようです。
そのうちの1人が、昨年102歳でお亡くなりになった画家の野見山暁治さん。
野見山さんは額を付けない理由を尋ねられて、このように回答したそうです。
「裸でよければ、服も着ないし。
なくてもよいなら、額はつけない。」
・・・・・いやいや、服は着ましょうよ。