【特別展】没後25年記念 東山魁夷と日本の夏 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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今年2024年は、“国民的風景画家”東山魁夷の没後25年という節目の年。
それを記念して、現在、山種美術館では、
“【特別展】没後25年記念 東山魁夷と日本の夏”が開催されています。

 

(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を頂いております)

 

 

東山魁夷にスポットを当てた展覧会は、

山種美術館において、2020年にも開催されていますが、

山種美術館所蔵の魁夷作品を全点公開するのは、実に10年ぶりとのこと。

公開される機会の少ない初期の魁夷作品、

《滝 素描》《白い壁》なども観られる貴重な機会です。

 

東山魁夷《滝 素描》 1954(昭和29)年頃 紙本・彩色 山種美術館

 

東山魁夷《白い壁》 1952(昭和27)年 紙本・彩色 山種美術館

 

 

もちろん、山種美術館が誇る東山魁夷の大作、

高さ約2m×横約9mの《満ち来る潮》も出展されています。

 

東山魁夷《満ち来くる潮》 1970(昭和45)年 紙本・彩色 山種美術館

 

 

この絵を描く数年前に、魁夷は、

新築された皇居宮殿のために、《朝明けの潮》という大作を描いていました。

山種美術館初代館長・山﨑種二は、

その作品を皇居宮殿で実際に目にして、大いに感動したそうで。
あの絵画をぜひ多くの人にも見てもらいたいと、
同趣作品を美術館のために制作してくれるよう、魁夷にオファーしました。

ただ、まったく一緒の絵だと芸も無いので、

山﨑種二が証券会社の社長でもあったことから、

縁起をかついで、引き潮から満ち潮の情景へと変更したのだそう。

ひとたび作品の前に立てば、

絵としての迫力だけでなく、開運パワーも浴びることができます。

 

なお、改めて、この絵をよくよく観てみると、

海の色が、沖縄やセブ島の海くらいエメラルドグリーンです。

それにくわえて、波の表現として、

プラチナ箔や金箔がふんだんに使われています。

 

《満ち来くる潮》(部分)

 

 

ラグジュアリーかつバブリー。

ともすれば、下品になりかねないのに、ちゃんと上品に感じられます。

なんなら、日本の原風景であるかのような趣すら感じられました。

これぞまさに魁夷マジックです。

 

 

日本の原風景といえば、18点からなる魁夷の連作「京洛四季」も。

京都の修学院離宮を取材した《緑潤う》をはじめ、

 

東山魁夷《緑潤う》 1976(昭和51)年 紙本・彩色 山種美術館

 

 

山種美術館はそのうちの4点を収蔵。

春夏秋冬の情景がそれぞれ描かれています。

 

右から、東山魁夷《春静》 1968(昭和43)年、《緑潤う》 1976(昭和51)年、《秋彩》 1986(昭和61)年、《年暮る》 1968(昭和43)年

いずれも紙本・彩色 山種美術館

 

 

魁夷がこの連作を描くきっかけとなったのは、

昭和を代表する文豪・川端康成のこんな言葉だったそう。

 

「京都は今描いといていただかないとなくなります。

 京都のあるうちに描いておいてください」

 

川端康成の予言(?)に反して、

令和になった今も、京都はなくなっていませんが。

日本の四季はほぼ無くなったようなものなので、

魁夷が、この時期に描いていてくれて正解でした。

 

 

さてさて、展覧会の後半で紹介されているのは、

魁夷以外の画家によって描かれた「日本の夏」の情景の数々。

 

手前)葛飾北斎《冨嶽三十六景 凱風快晴》 1830(文政 13)年頃 大判錦絵 山種美術館
(注:展示は8/18まで)

 

左)伊藤小坡《虫売り》 1932(昭和7)年頃 絹本・彩色 山種美術館

右)川合玉堂《鵜飼》 1939(昭和14)年頃 絹本・彩色 山種美術館

 

 

それらの中には、上村松園の《蛍》や、

 

上村松園《蛍》 1913(大正2)年 絹本・彩色 山種美術館

 

 

川端龍子の《鳴門》といった、

 

川端龍子《鳴門》 1929(昭和4)年 絹本・彩色 山種美術館

 

 

過去の山種美術館の展覧会において、

ポスターのメインビジュアルに採用されたスター級の作品も。

それらの作品が、脇に徹していたことからも、

あくまで今回の主役が東山魁夷であることが伝わってきました。

没後25年記念と銘打つに相応しい東山魁夷展です。

星星

 

 

ちなみに。

後半の「日本の夏」として紹介されていた作品の中で、

個人的にもっとも印象に残ったのが、奥村土牛による《海》

 

奥村土牛《海》 1981(昭和56)年 絹本・彩色 山種美術館

 

 

土牛が92歳の頃に描かれたもので、

90歳以降の作品としては、最大規模のサイズとのこと。

具象画でありながらも、どことなく抽象絵画でもあるような。

あまりにも海が穏やかすぎて、

いい意味で、動きが感じられないと言いましょうか。

とにかく、ぼーっと眺め続けられる作品でした。

90歳を過ぎたらおそらく、こんな感じで、

こんな体感時間で、一日が過ぎていくのかもしれませんね。

 

 

 ┃会期:2024年7月20日(土)~9月23日(月・振休)

 ┃会場:山種美術館
 ┃https://www.yamatane-museum.jp/exh/2024/kaii.html

 

 

 

 

 

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