空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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現在、東京ステーションギャラリーで開催されているのは、

“空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン”という展覧会。

20世紀後半のベルギーを代表するアーティストの一人、

ジャン=ミッシェル・フォロンの国内では30年ぶりとなる回顧展です。

 

(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を頂いております。)

 

 

なお、展覧会タイトルの“空想旅行案内人”は、

フォロンが制作し実際に使っていた名刺に由来するもの。

その名刺には、「AGENCE DE VOYAGES IMAGINAIRES」、

つまり、「空想旅行エージェンシー」と記載されていたようです。

そんな名刺からも人柄が想像できるように、

フォロンはユーモアに溢れ、ウイットに富んだ人物だったよう。

 

例えば、こちらの一枚。

 

《無題》 フォロン財団 ©Fondation Folon, ADAGP/PARIS, 2024-2025

 

 

たくさんの男性が、こちらを無言(?)で見つめています。

しかし、よくよく観てみると、

男性たちの目の部分が、唇になっていました。

目は口程に物を言う、ということでしょうか。

 

また、とあるアメリカの雑誌の表紙を飾ったこちらの一枚。

 

《いつもとちがう(雑誌『ザ・ニューヨーカー』表紙 原画》 1976年

フォロン財団 ©Fondation Folon, ADAGP/PARIS, 2024-2025

 

 

一人の男性が、鏡に映った姿を見つめています。

しかし、こちらの作品もよくよく観てみると、

被っている帽子の色が違っているようです。

 

パステル調の柔らかい色彩で描かれており、

パッと見は、オシャレな絵本の挿絵のようなテイストですが、

よくよく観てみると、思わずニヤリとさせられる仕掛けが施されている。

意味が分かると怖い話ならぬ、意味がわかるとオモロい絵といったところでしょうか。

 

ちなみに。

彼の作品によく登場する帽子の男性は、

「リトル・ハット・マン」と呼ばれているのだとか。

フォロン曰く、“私に似たある誰か”であり、“誰でもない”のだそうです。

ベルギー生まれで、ユーモアがあって、

しかも、帽子の男がたびたび登場するだなんて、

まるで、シュルレアリスムを代表する画家マグリットのよう。

・・・・・と思ったら、フォロンは若き日に、

偶然マグリットの壁画に出逢い、感銘を受けて、

アーティストへの道を進むことを決めたそうです。

マグリットのよう、ではなく、ちゃんとマグリットチルドレンでした。

 

 

さてさて、本展ではベルギーのフォロン財団全面協力のもと、

フォロンの初期のドローイングから水彩画、版画まで約230点が来日。

 

 

 

それらの中には、晩年のフォロンが手掛けた立体作品も含まれています。

 

 

 

さらには、生涯で600点以上も手掛けたという、

ポスターのお仕事の一部(しかも原画!)も紹介されていました。

そのうちの1点が、こちら↓

 

《無題》 1983年頃 フォロン財団 ©Fondation Folon, ADAGP/PARIS, 2024-2025

 

 

今の僕らからすれば、ロゴマークで、

あの企業のポスターだと一発でわかりますが、

当時は、このビジュアルでIT企業のポスターだと思われたのでしょうか??

帽子を持ち上げて挨拶する感じは、

ヘーベルハウスとかセキスイハイムを彷彿とさせ、

IT企業というよりは、住宅メーカーのようにも感じられます。

 

また、フォロンは企業のポスターだけなく、

環境団体など公共団体からのオファーも多くこなしていました。

こちらは、グリーンピースのためのポスター。

 

《グリーンピース 深い深い問題》 1988年

フォロン財団 ©Fondation Folon, ADAGP/Paris, 2024-2025

 

 

見た目は、柔らかでユーモラスな印象ですが、

戦争や環境破壊に対する静かな怒りが込められているようです。

笑いながら怒るアーティスト。

それが、ジャン=ミッシェル・フォロンです。

星星

 

 

僕が把握している範囲では、東京ステーションギャラリーでの、

イラストレーションを中心とした展覧会は、これが初めてのような・・・?

それゆえ、若干相性が心配だったのですが、まったくの杞憂でした。

出展作の中に、かつて同館で個展で開催されたモランディに関する作品や、

 

 

 

不染鉄展で観た《廃船》を連想させる作品も含まれており、

 

 

 

なんとなく、過去の展覧会とリンクするものがありました。

東京ステーションギャラリーらしさは、ちゃんと感じられる展覧会です。

 

 

最後に、全部の出展作品の中で、

個人的にもっとも印象に残ったものをご紹介。

それは、旅先のフォロンが知人に当てた手紙の封筒です。

 

 

 

切手の貼り方のセンスと、

添えられたイラストが、控えめに言っても最高。

これは貰ったらテンションがあがるヤツ!

人様が受け取った手紙を観て、初めて心から羨ましいと思いました。

 

 

 

 

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