尾角典子 #拡散 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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十和田市現代美術館から少し離れた場所に、

一見すると、何の変哲もない古びた建物ながら、

よくよく観てみると、とんでもないことになっている作品があります。

その名もシンプルに、space(スペース)。

現代アートチーム目[mé]によって、2020年に制作された作品です。

 

 

 

一見するとただの古びた建物ですが、よく見ると、

元の建物の一部に、ホワイトキューブの空間がすぽっと貫通しています。

まるで、ところてんを押し出すように埋め込まれたかのようです。

完成時は、この空間内に目[mé]の他の作品が展示されていたそうですが、

2021年からは、十和田市現代美術館のサテライト会場として活用されています。

 

さて、そんなspaceでは現在、“尾角典子 #拡散”という展覧会が開催中。

ロンドンと京都を拠点に活動するアーティスト尾角典子さんの個展で、

spaceという特殊な展示空間から着想を得た新作インスタレーション作品が発表されています。

まず、会場に入ると目に飛び込んでくるのは、ピンク色の巨大なパネル。

そこには、アメリカの前衛小説家ウィリアム・S・バロウズの言葉、

「言語は外部から来たウイルス(Language is a virus from outer space)」が書かれています。

 

 

 

そして、何気なく床に目をやると、

『いりぐち』とひらがなで書かれていました。

 

 

 

なるほど。

どうやら、この人型にくり抜かれた穴をくぐって、中に入るようです。

それに従って、中に入ってみると、

壁には、spaceについてのキャプションが飾られていました。

 

 

 

そして、床にはさらにたくさんのひらがな。

黒いひらがなを拾って読むと、

「がめんをみる」や「おとをきく」など、さまざまな指示があります。

 

 

 

モニターにも、「ぼたんをおす」と指示があったので、

その通りにボタンを押すと、「なまえをいう」とまた新たな指示が現れました。

 

 

 

来場者が、その新たな指示に従い、

マイクに向かって、自分の名前を言った次の瞬間。

隣のモニターに映し出されていた画像と文章に変化が起こりました。

 

 

 

意味があるようで、支離滅裂なこの文章。

実はもともと、spaceについてのキャプションにあったテキストとまったく同じものでした。

しかし、来場者が名前を言うと、その名前を構成している文字の分だけ、

もとの文章からランダムに文字が入れ替わるよう、プログラミングされているのだそう。

つまり、来場者が名前を言うたびに、文章が変化し続けるということです。

僕が訪れたのは会期初日の午前でしたが、

その時点で、だいぶ意味不明な文章となっていました。

 

 

 

もしかしたら、もしかするとなのですが、

この文章から推測するに、午前中にアベベが来ていた可能性もあります。

 

と、それはさておき。

モニターにあった謎の建物の画像はテキストをもとに、

AIが自動で生成したspaceの新たな外観イメージ図なのだそう。

テキストが変化するたびに、画像は生成され、

しかも、展覧会の公式Instagram(@towada_space)で、

その画像が拡散される仕様となっています。

 

 

 

 

画像に関しては、会場に行かずとも、

SNS上で十分に楽しめてしまうのですが。

AIは画像だけでなく、変化したテキストを、

歌詞にして、オリジナルの曲も生成しています。

その曲が聴けるのは、spaceだけです。

 

 

尾角さんは、本展を制作するにあたり、

目[mé]の作品の中(内側)に、自分の作品が入り込み、

空間の様子を一新させることは、人体とウイルスの関係に似ていると思ったそうで。

そこから展開して、来場者がウイルスのような役割を果たす作品を考えたのだとか。

来場者が作品の中に入り込み、

その人の名前という情報が、作品の姿をどんどん変容させていくわけです。

コロナ禍では特に、ウイルスに対して、

言い知れぬ恐怖感のようなものを抱いていましたが、

まさか、自分自身がウイルスのような役割を果たす日が来ようとは。

非常に貴重で興味深い体験でした。

星

 

 

ちなみに。

展覧会のラストでは、記念写真が撮れるようになっています。

 

 

 

せっかくウイルス気分を味わったので、撮ってみました。

というか、無理矢理、撮らされました(笑)。

 

 

 

この画像だけは、拡散しないでください。

 

 

 

 

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