内藤礼 生まれておいで 生きておいで | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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美術を、もっともっと身近なものに。もっともっと楽しいものに。もっともっと笑えるものに。

「地上に存在することは、それ自体、祝福であるのか」

 

空気や光、水、重力といった自然現象も素材にして、

そう問いかけ続けてきた現代アーティスト・内藤礼さん。

その待望の最新個展が開幕しました。

舞台となるのは、現代アートの美術館・・・・・ではなく。

150年以上の歴史を誇る“日本の文化と歴史の殿堂”東京国立博物館です。

 

東京国立博物館 本館外観

 

展覧会名は、“内藤礼 生まれておいで 生きておいで”

トーハクが所蔵する縄文時代の土製品などと、

内藤礼さんのアート作品とが、1万年の時を経て邂逅する展覧会です。

 

(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を頂いております。)

 

 

会場は全3つで構成されています。

1つ目の会場は、平成館の企画展示室。

 

東京国立博物館「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」会場

 

通常よりも薄暗い印象のある展示室の天井から、

無数のカラフルな毛糸玉や風船が吊るされています。

そして、展示ケースの中には、内藤さんの近作《死者のための枕》と、

トーハクの所蔵品である縄文時代の《土版》とが、対をなすように展示。

大ざっぱに言ってしまえば、それだけなのですが、

普段の企画展示室とは明らかに異なる空気が漂っていました。

ここだけ異世界、異空間といいましょうか。

もしかしたら、ここで1日過ごしたら、

外では1年の月日が流れてしまっているのでは?

そう感じてしまうくらいに、静謐ながら、「場」の力を感じる空間でした。

 

フィーリングで適当に空間を作っているわけでは決してなく、
毛糸玉や風船といったものを、どの位置に設置するのか、どれくらいの高さにするのか、

内藤さんは、すべてミリ単位で悩みながら決めているのだそう。

その爪の先まで神経が行き通った美意識が、

完璧なまでの内藤礼ワールドを作り上げているのでしょう。

 

その隙が一切ない美意識はまた、

本館の1階ラウンジを使った展示でも発揮されていました。

いつものラウンジのその床に、ガラス瓶に水を充した《母型》が・・・

 

内藤礼 母型 2022[2009] 水、ガラス瓶
「内藤礼:すべて動物は、世界の内にちょうど水の中に水があるように存在している 2022」

(2022年、神奈川県立近代美術館 葉山) 撮影=畠山直哉

 

 

置かれているだけといえば置かれているだけなのですが。

(↑実際には、そんな単純ではないですが)

 

東京国立博物館「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」会場

 

こちらの空間もやはり、今まで経験したことない空間に変容していました。

ある日、見慣れたはずの街の広場が、

初めて見る景色であるかのような感覚に襲われた、

というデ・キリコの有名なエピソードがありますが、きっとそれに近い感覚。

いつもの見慣れたトーハクのラウンジが、

まるで初めて目にする場所のように感じられました。

 

 

キャリアを積み重ね、作品一つ一つの純度が、

より洗練されていた、より研ぎ澄まされていた印象がありますが、

そこに、東京国立博物館の所蔵品や建物とのコラボレーションが加わって。

これまでに観た内藤礼さんの個展の中で、間違いなくNo.1でした。

いや、それだけでなく、これまでに観た現代美術展の中でも、数本の指に入るほど。

内藤さんの作品は、多くを語らないタイプの作風ゆえ、

僕もこれ以上、多くは語るのは控えておこうと思います。

ただただ観て欲しい。

その一言に尽きます。

星星星

 

 

ちなみに。

本展の中でもっとも広い会場となるのは、本館特別5室。

近年では、“空也上人と六波羅蜜寺展”や、

“中尊寺金色堂”展など、仏像展がよく開催される展示室です。

 

 

 

本展のために、長年閉ざされていたという大開口の鎧戸を開放。

さらに、カーペットと仮設壁も取り払われ、

建築当初の裸の状態、すっぴんの姿に戻っています。

 

東京国立博物館「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」会場

 

自然光もたっぷり降り注ぎ、

いつになく開放的な空間となっていました。

宣言した通り、作品については多くを語りませんが。

建物が作られた時代も、建物がある場所も違えば、

建物の設計者も、使われている素材もまったくの別物なのに、

この空間に入った瞬間、「あ、豊島美術館だ!」と思ってしまいました。

内藤礼さんの作り出した空気感によって、そう錯覚してしまったのでしょう。

実に不思議な体験でした。

 

 

 ┃会期:2024年6月25日(火)~9月23日(月・休)

 ┃会場:東京国立博物館 平成館企画展示室、本館特別5室、本館1階ラウンジ

 ┃https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=2637


 

 

 

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