水天宮前駅のほど近くにある隠れ家系ミュージアム。
それが、ミュゼ浜口陽三ヤマサコレクション。
1998年に開館し、今年2024年で、
めでたく開館25周年を迎えました(←おめでとうございます!)。
それを記念して現在開催されているのが、
“浜口陽三と波多野華涯 ―匂い立つ黒と黒―”という特別展です。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております)
25周年を祝う特別展だけに、会場には、
浜口陽三の代表作の数々が一堂に会しています。
それらの中には、陽三にとって、
記念碑的な作品である《スペイン風油入れ》もありました。
1953年12月、パリへとやってきた陽三はその夜に、
かつてパリに滞在していた頃の昔の友人らと再会を果たします。
そこに居合わせたのが、新進気鋭のユダヤ系のドイツ人画商。
版画作品にも力を入れてい彼は、陽三に是非作品を見たいとリクエストします。
しかし、陽三は作品を持たずパリに渡ったため、大急ぎで制作に取り掛かりました。
こうして誕生したのが、《スペイン風油入れ》。
この作品を大変気に入られ、陽三は画商と専属契約を結ぶことになったのでした。
その画商こそが、のちに画商経営を経て、
ピカソやマティスなどの世界的コレクターとなるハインツ・ベルクグリューン。
もし、この《スペイン風油入れ》が、
ベルクグリューンのお眼鏡にかなってなかったら、
陽三は国際的な版画家になっていなかった・・・かもしれません。
なお、本展では他にも、初期の貴重な版画作品や、
(↑しっぽが異様に長い!)
今回初公開となる最初のパリ時代のグアッシュ作品も展示されています。
さらに、25周年記念展だからでしょうか、
普段の1.5倍増しで、陽三愛用の作業道具が展示されていました。
「いつもより余計に展示しておりま~す!」
「おめでとうございま~す」といった感じでしょうか(出典:海老一染之助・染太郎)
さてさて、本展のもう一つの目玉といえるのが、浜口陽三による南画。
現存する唯一の南画が公開されています。
実は、陽三の父・第十代濱口儀兵衛は、
南画のコレクターとして知られていたそうで、
さらに、小室翠雲について自身で南画を描いてもいたそう。
その影響で、陽三も南画に親しんで育ったようです。
なお、陽三は30代の頃に一時期、墨絵を習っていたこともあったそうで、
そうしたバックボーンが、メゾチント作品の黒の世界に影響を与えているのかもしれません。
なお、南画繋がりで、本展には陽三の父と交流のあった、
南画家・波多野華涯の《蘭竹図屏風》が特別出展されています。
こちらの屏風絵は普段は、安芸の宮島にある老舗旅館、
「みやじまの宿 岩惣」の宴会場に飾られているものだそうで。
1924年、ちょうど100年前に制作され、納入されて以来、
この《蘭竹図屏風》が、宮島を渡ったのは、今回が初めてのことなのだとか。
めちゃめちゃレアな機会です!
ちなみに。
波多野華涯(1863~1944)は、大坂に生まれ、
のちに東京に出て、跡見花蹊や瀧和亭に書画を学んだ女性文人画家。
今よりも圧倒的に女性画家が不利だった時代に、
さらに、文人画というジャンルがオワコン化していく中で、
生涯にわたって絵筆を取り続け、なおかつ多くの弟子を育てました。
作品からもそれが伝わってくるほどのバイタリティーの持ち主。
その芸術家としての生き方に、近年注目が集まっており、
昨年は、実践女子大学香雪記念資料館にて展覧会が開かれています。
さらに、この夏には、岡山県立美術館で本格的な回顧展が開催予定とのこと!
今年2024年は、ミュゼ浜口陽三開館25周年でもあり。
波多野華涯イヤーでもあるようです。